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「超常現象」座談会なのに、糸井重里さん〈徳川埋蔵金プロジェクト〉で盛り上がったワケ

編集部日記 vol.36

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「あるとしか言えない」

 この言葉を聞いて、皆さんは「ああ、あの番組のことだな」とピンと来るでしょうか。これは、かつてTBSで放送されて人気を博した『徳川埋蔵金発掘プロジェクト』で、発掘部隊の隊長を務めた糸井重里さんが徳川埋蔵金について語った一言です。

 プロジェクトが始まったのは1990年。江戸時代の末期、群馬県の赤城山中に密かに埋められたと噂されていた徳川幕府の御用金360万両を探し当てることが目的でした。建設会社も全面協力。ユンボなどの大型重機や電磁波で地中の様子を探る探査機も登場し、大掛かりな発掘作業を計10回も行いました。

 人気コピーライターの糸井さんやテレビ局のスタッフ、建設会社社長、慶應義塾大学出身の知性派俳優・石坂浩二さんなど、いい大人たちが本気で発掘作業に取り組む〝土木番組〟に視聴者は釘付けとなり、平均視聴率は20%前後を記録。当初はバラエティ番組『ギミア・ぶれいく』内のコーナーでしたが、番組が終わってからも、スペシャル番組として埋蔵金プロジェクトは続けられたのです。

 そんな伝説の番組について言及しているのが、『文藝春秋』2月号に掲載されている座談会「超常現象は楽しい!」です。出席者は『ムー』編集長の三上丈晴さん、山で暮らす人々が遭遇した奇妙な体験談を綴った『山怪』(山と溪谷社)の著者でカメラマンの田中康弘さん、都市伝説や怪談好きの作家・綿矢りささん、民俗学への興味からこの道にハマったノンフィクション作家・石井妙子さん。皆さんにUFOやUMAから超能力や心霊現象を語りつくして貰いました。

 そして昔は超常現象を取り上げる番組が多かったという話の中で、綿矢さんが子供の頃に見て記憶に残っているテレビ番組として、糸井さんによる徳川埋蔵金プロジェクトを挙げられたのです。私も子供の頃、番組を熱中して見ていました。綿矢さんは「糸井さんはあのイメージが強すぎて、本業はお洒落なコピーライターだったということを知ったのは、大人になってから」だったほどだとか。

当時「見るまではやめないぞ!」と語ったという糸井さん ©文藝春秋

 番組をご覧になっていない方は、「何で『超常現象』座談会で徳川埋蔵金発掘の話になるのか」と思われるかもしれません。ただ、実はこの発掘作業には、超常現象が深く関わっていたのです。

 それは発掘隊の奮闘の過程を描いた書籍『あるとしか言えない―赤城山徳川埋蔵金発掘と激闘の記録』(糸井重里&赤城山埋蔵金発掘プロジェクト・チーム編、集英社)に詳しく記されています。

 そもそもの発端は1990年、アメリカ屈指の透視能力者と言われていたジム・ワトソンを起用した特別番組を、『ギミア・ぶれいく』のチーフプロデューサーの塩川和則さんが手がけたこと。その後、塩川さんは、既に手垢のついていたスプーン曲げ以外のやり方で超能力を表現できる番組が出来ないものかと考えていました。

 そんな時、制作会社ストリームズのプロデューサーの菅野晃雄さんとディレクターの恩田光晴さんが、六本木のミニクラブで「超能力者が埋蔵金を探す」という企画を思いつき、塩川さんに提案したことで、実際に話が動き出しました。恩田さんは『あるとしか言えない』の中でこう語っています。

〈「超能力者を使って埋蔵金を探すという話は、プロデューサーの菅野と一緒に飲みに行ったときに、たまたま思いついたことなんですよ。まあ、飲み屋でのバカ話っていうか、そういうのっておもしろいんじゃないかっていうたわいもない話でね。でも菅野が〝そりゃあイケるかもしれない〟ってTBSの塩川さんに提案したんです」〉

 そしてジム・ワトソンと、行方不明の人を探す能力があるというキャロル・ペイトという、2人の超能力者が出演。彼らが赤城山に赴き、どのあたりに埋蔵金があるのか、複数のポイントを探すことから番組は始まります。膨大な埋蔵金があるとすれば、そこからは必ず強力なエネルギーが出ているはずだと語るジムとキャロル。

 ただ、なかなか目当てのものは出てきませんでした。そして2回目の放送の時、遂に穴が見つかった……というところで急に岩盤が崩れ落ちてしまったのです。糸井さんは悔しさをぶつけるように「山が怒ってるのか!」と、何度も怒鳴った。そして――。

〈高揚する気力を解き放つように、糸井は叫んだ。「見るまでは、やめないぞ!」〉

 第3回目の放送からは、大型重機の投入もスタート。超能力での埋蔵金発掘という冗談のような企画は、本格的に〝土木番組〟へと変わっていったのです。

 プロジェクトでは結局、埋蔵金を探し当てることは出来ませんでした。しかし4年間にわたり、何度も発掘作業を重ね、何者かが掘ったと思われる迷路のような穴や、謎の石垣が地中から発見されました。それを見て糸井さんはこう思ったそうです。

〈「ぼくらはこの発掘を、やめようと思えばやめられるんです。ぼくらの労力と精神力は、テレビを見ている人たちの〝ああ、おもしろかった〟という言葉があれば釣り合いますからね。けれども、テレビの企画でもなく、鉱山があるわけでもなく、こんなところで穴を掘った人たちが、かつていたわけです。その彼らの〝仕事量〟に釣り合う分銅は何かと考えたら、ぼくには〝あるとしか言えない〟んですよね」〉

 今回、座談会で取り上げたUFO、UMA、心霊現象……世の中に出回っている話には眉唾な事も数多くあるでしょう。しかし、謎の飛行物体を見た人や、不思議な体験をした人の例は枚挙にいとまがありません。取材中、田中さんはUFOを2度見た時の話を、三上さんは山で起こった奇妙な経験を語ってくださいました。そんな現実を考えると、超常現象も埋蔵金同様、「あるとしか言えない」のかもしれません。

(編集部・柳原)

source : 文藝春秋 電子版オリジナル

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