わたしにとってのコンドームは……

 1983年生まれの筆者(女)にとってそれは長らく、「正視しちゃまずそう」なものだった。アンタッチャブルに感じられた一番の要因は、そこに「男のプライド」を感じ取っていたからのように思う。

「本番でマゴマゴするのはカッコ悪いからサッとできる俺でありたい」とか「イケてる先輩は財布の中にコンドームを入れていたから俺も真似する※」とか、挿入される側のこちらには1ミリも関係のない部分が話題に上ることが多く、「触れるとめんどくさそう」という感じになってしまった。

 加えて、思春期に親から口酸っぱく言われた「ヤるならゴム! 絶対に作るな!」(大げさじゃなくこんな言い方)という“脅し型性教育”が脳裏にこびりついていて、コンドームは義務でこそあれ、そこに「快・不快」を考えるような思考は皆無だった。※財布のなかにコンドームを入れるのはNG! 外箱に入れたまま冷暗所で保管しましょう。

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「そもそもセックスはふたりで行う行為ですよね。お互いが満足することができてはじめて“いい製品”と評価してもらえる。『SKYN』の発売でようやくそこに気がつけたように思うんです」

 こう語るのは、不二ラテックスの門脇さんだ。

『SKYN』はAmazonのコンドームカテゴリで第1位を獲得し、1700件以上の評価がついている話題の商品である。

 70年前からコンドームメーカーとして業界を牽引し、多くの製品を開発してきた不二ラテックスにとっても「新しく革新的だった」という『SKYN』は、“薄さ一辺倒”だった業界に驚きを与えたアイテムでもあった。

「薄さへの挑戦は、各社が自然な使用感を求めた結果です。しかし、薄さを追求すればするほど素材の強度が損なわれてしまい、それを補強するかたちでゴムが硬くならざるを得ませんでした。

 そんな中、『自然な使用感を得られる要素は“薄さ”に限らないのではないか?』という仮説のもと、“イソプレンラバー”を使った製品開発に着手したのです」(SKYN開発担当 KCさん)

 イソプレンラバーとは、手術用手袋といった医療用にも使用されるアレルギーフリーの素材で、最大の特長は「柔らかさ」と「伸び」にある。

 触れてみると、たしかにこれまで手にしてきたラップのようなコンドームとはまるで違う。

 ほわんほわんで、優しい……。

「人肌」を謳っているのも納得である。

エリンギより柔らかくマシュマロより弾力がある

「開発当時は、イソプレンラバーという素材でコンドームを作ること自体、技術的な観点では相当なインパクトだったと思います。柔らかいのに破れない強度があり、よく伸びる……。こういった点をクリアしながら、人肌に近い使用感を実現するため、開発には2年の時間がかかりました」(SKYN開発担当 KCさん)

「空気を入れるテストではポリウレタンに比べて約4倍の破裂容量があった」という言葉通り、たしかによくのび~る。

 特殊な機械で『SKYN』の柔らかさを計測してみると、エリンギより柔らかく、マシュマロよりも弾力があるというデータが示された。

イソプレンラバーは、エリンギよりやわらかく……
イソプレンラバーは、エリンギよりやわらかく……
マシュマロよりは弾力がある
マシュマロよりは弾力がある

 そこで驚いたのが、従来のウレタン製コンドームの硬さである。なんとそれは、タイヤやごぼうに近いハードさだったらしい。確かに薄いコンドームは「パリパリするなー」とか、「擦れて痛い」と思うことは多々あった。

「僕自身、業界に染まっていたので、『コンドームは薄くなければ受け入れられない』という思い込みがありました。薄さという基準はとてもわかりやすいものでもあり、事実、多くの方に受け入れられてきた側面もあります。それだけに最初は本当に売れるのかな? と正直、半信半疑でした。

 でもよくよく皆さんの声をお聞きしてみると、薄いコンドームに不満を持つ方も少なからずいらっしゃったんです。そんな方々から、『キツくなくてちょうどいいフィット感』『性交痛が減った』などの感想をいただけました」(高橋さん)

アダルト商品ではなく、ヘルスケア商品に

 そもそもコンドームは性感染症予防と避妊に効果のある管理医療機器で、「男性向け避妊用コンドーム」という扱いで販売されている。そして装着するのは男性であるため、「長らく男性が満足するものを、男性目線で作って販売していた」と高橋さんも語る。

 インターネットが普及するまで購買層の分析もできず、個人のコンドームの使用感を知ることは非常に難しいことだった。

 しかし2020年の現在、『SKYN』のAmazonレビューには女性からと思われる感想が複数、書き込まれている。

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 さらに最近では、『おうち性教育はじめます』(KADOKAWA)が10刷6万部超(9月9日時点)というヒットを記録するなど、なにかと「性教育」が話題になっている。

「買い物をしているとき、子連れのお母さんが『なんでこんなところにコンドームが置いてあるの!?』と言っているのを見たことがあります。自分に子どもがいてなお避妊具を嫌悪視するのかと、コンドーム屋として悲しくなりました。

 海外では、コンドームは家族で買い物をするスーパーマーケットで売られていて、カウンターの後ろなどではなく、子どもでも手が届く通常の棚に置かれています。

 またオーストラリアでは学校で説明されることもありますし、我々も安全なセックスの啓蒙活動として、高校を卒業する生徒たち向けのパーティで『SKYN』をサンプリングしています。

 日本ではまだアダルトなもの、という見方が強いかもしれませんが、近い将来、『コンドーム=ヘルスケア』になればいいなと思っているんです。

 コンドームを買っている人、持っている人を見たとき、イヤらしい目で見るのではなく、『この人は自分のことも相手のことも考えられる人なんだな』と思ってもらえたら、コンドームの見方も変わってくるんじゃないかなって」(高橋さん)

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 逆立ちしたってセックスは一人じゃできない。

 かつての自分のように「正視しちゃまずそう」なんて言っているようじゃ、性感染症予防と避妊という観点でも無責任だ。

 加えて、「痛い」と思っていたのに別のコンドームを探すことすらしなかったなんて、セックスを主体的に楽しむ姿勢とは大きくかけ離れていた自分に無性に腹が立つ。

『SKYN』は試した人の約97%が「満足」「友人にもすすめたい」と答えているという(同社調べ)。

 性感染症予防と避妊について互いに確認ができたなら、ふたりにとって心地のいいコンドームを大いに語り合って欲しいし、それがスタンダードになればいいなと思う。

 相手を思うすべての人のために、コンドームはあるのだから。

インタビュー協力:不二ラテックス株式会社 高橋さん、門脇さん

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不二ラテックス

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