森永乳業の人気アイスクリーム「ピノ(pino)」の新商品として、従来は24粒入りのアソートパックでしか食べられなかった“アーモンド味”が独立し、単体6粒入りで発売されることが文春オンラインの取材でわかった。長年の人気を支えてきたバニラ、チョコ、アーモンドのゴールデントリオに、突然降って湧いた「独立劇」。アイスクリームファンの議論を呼びそうだ。

11月17日現在「アーモンド味」が唯一手に入るアソートパック
11月17日現在「アーモンド味」が唯一手に入るアソートパック

「事実なら大変ショック」

 長年アイスクリーム業界を取材してきたライターは、ピノの歴史をこう解説する。

「ピノが発売になったのは1976年のこと。それまではコーンやカップ、バーというスタイルしかなかったアイスクリーム業界に、ピノはチョコでコーティングしたアイスをピックで刺して食べるという、まったく新しいスタイルを持ち込んだんです。もともとアメリカには小さいサイズのアイスというのがあったんですが、それを日本人向けに改良を重ねて、ひと口で食べられるようにしたのがヒットの要因でしたね」

 “ピノシェイプ”といわれる円錐台のかたちは、ひとがものを食べるときの口のサイズやかたちを研究して生み出されたものだそうだ。

「フローズンデザート チョコボール」のキャッチフレーズで登場した発売当時のピノ
「フローズンデザート チョコボール」のキャッチフレーズで登場した発売当時のピノ

 1992年、今度はバニラ、チョコ、アーモンド、3種類のフレーバーを個包装にしてひと箱に詰め込んだアソートパックが発売され、たちまち大人気となった。すでに定番となっていたバニラに、濃厚なチョコ味、新顔のアーモンドが加わったことで、次から次に食べたくなるバランスが生まれたのだ。それから28年、不動の組み合わせだったはずのこのトリオに、降って湧いたようなアーモンド独立騒ぎ。前出のライターも「もしそれが事実なら、大変ショック」と語る。

「アーモンド味だけ食べたい」の声も

「アソートパック24粒のうち、バニラは10粒で、チョコとアーモンドは7粒。この微妙な数の差が、家庭内でのトラブルの原因になることがしばしばあったみたいですね。楽しみにしていた味を兄弟に全部食べられてしまってくやしい、とかね。特にアーモンドは個性的なフレーバーですから、もめる原因になりやすい。アーモンド味だけ食べたいのに、なぜアソートパックにしか入っていないんだ、という声も森永乳業さんにはかなり来ていたみたいですよ」(お菓子ブロガー)

 そのような背景もあり「森永乳業さんも消費者からの声を無視するわけにいかない状態になっている。単独発売は近い」(ビジネス媒体記者)という読みも一部から上がっていたようだ。

関係者が示した資料にはアーモンド色の開発中パッケージが
関係者が示した資料にはアーモンド色の開発中パッケージが

商品名は“やみつきアーモンド味”

 森永乳業関係者が絶対匿名を条件に取材に応じてくれた。

「たしかにピノアーモンド味に関しては、いまでも3日に1件のペースで、アーモンド味だけの商品を出してほしいというお客さまからのご要望があります。いまのところ『貴重なご意見ありがとうございます。今後の製品開発に活かします』とお答えしていますが、実はアーモンド味単独発売の準備は着々と進んでいます。もうパッケージデザインも出来上がっていますし、商品名も“やみつきアーモンド味”で決定しています」

 弊社取材班はその証言を裏付ける内部資料を入手することができた。たしかに、そこには“やみつきアーモンド味”という商品名が記されている。パッケージの印刷サンプルを見ると、既存のアーモンド味とは粒の表面の仕上げも異なるようだ。資料を提供してくれた森永乳業関係者は、実際にこの新しいアーモンド味を試食したという。「表面のコーティングチョコにローストアーモンドの粒がたっぷり混ぜ込まれていて、食感や香りがいままでのアーモンド味とはまったく違うんです。アソートパックのアーモンド味が進化を遂げたと言ってもいいかもしれませんね」

編集部が入手したパッケージ色見本からは開発がいよいよ大詰めであることが見て取れる
編集部が入手したパッケージ色見本からは開発がいよいよ大詰めであることが見て取れる

“独立派”VS“守旧派”

 バニラ、チョコ、アーモンドのアソート・ゴールデントリオが解散するということではなく、そこからスピンアウトするかたちで、新たなスターが誕生するということらしい。それにしても、なぜ森永乳業からの正式発表が遅れているのか。

「そこにはピノアーモンド味をめぐる意見の相違がある」と、その関係者は語る。「アーモンド味は、アソートパックの人気を支えてきた陰の功労者なんです。だからこそ、一日も早くひとり立ちさせてやりたいという“独立派”がいる一方で、アーモンド味にはあくまでアソートパックの一員として、その職務を果たしてもらいたいという“守旧派”がいる。そのせめぎ合いのなかで、“やみつきアーモンド味”のデビューは宙ぶらりんの状態になってしまったんです。このままでは“やみつきアーモンド味”の魅力を多くの人に知ってもらうことができないのではないかと、わたしは危惧しています」

 提供された内部資料をもとに、森永乳業のピノ・マーケティング担当者H氏を社屋前で直撃した。

 
 

森永担当者は直撃に絶句して……

——文春オンラインです。ピノのアーモンド味のことで2、3うかがいたいことがあるんですが。

「え、アソートパックの中に入っているアーモンド味ですよね。こちらはロングセラーでずっとご支持いただいていますが……」

——いえ、そうではなく、アーモンド味だけが入った6個入りパックが出ると聞いています。

「(絶句して)……すみません。何とも言えません」

——こういう資料も持っています(パッケージの刷りだし見本を見せる)。ピノの新しいアーモンド味が、単独で発売されるのではないでしょうか?

「(資料に目をやると)……どうしたんですか、これ? まだ未発表の情報なので、あまり……」

——つぶつぶローストアーモンドもふんだんに盛り込まれていると、複数の証言を得ています。

「……ごめんなさい。きちんと広報担当に依頼書の形でいただけますか?」

——長年のアーモンド味ファンは、本当のことを知りたいと思いますが。

「……すみません。私の口からは何も言えません」

 そう答えると「急いでいますので」と言い残し、H氏は足早に駅の構内に姿を消した。

 発売から44年がたった今でも、ピノの売り上げは伸び続けているそうだ。1年間で食べられるピノは約11億粒、横に並べると地球を約1周する数だという。そのピノがようやく実現にこぎつけた “やみつきアーモンド味”の単独発売。長年待ち続けたファンの期待に応えられるかどうか、今後のピノブランドのゆくえを占う試金石になりそうだ。

お問い合わせ:森永乳業

※本記事は森永乳業様のご厚意により実現したフィクションですが「ピノ やみつきアーモンド味」が発売されることは本当です。