いつまで残暑が続くのかとうんざりした頃もあったが、ありがたいことに秋は今年もやって来てくれた。日暮れが早くなると、不思議と酒の味わい方も変わる。キンと冷えたジョッキから乾いた喉に注ぎ込む瞬間の喜びから、一杯のグラスと向き合い、香りと味をしみじみ愉しむひとときへ。酒好きとは存外、季節に敏い人種なのかもしれない。
そんな秋の宵にふさわしいのは、鹿児島県いちき串木野市の焼酎蔵 薩州濵田屋伝兵衛が醸す「薩州 赤兎馬」。明治元年創業という伝統を大切に守りながらも、「今までにない革新的な焼酎を」という強い信念で生み出された本格芋焼酎だ。
使われているのは、穏やかな香りと柔らかな風味を持つ白麹と、地元鹿児島産のさつまいも。地元・冠岳の湧水の軟水で仕込み、熟成と濾過を重ねることで、淡麗にして芳醇、シャープながらフルーティという、「赤兎馬」ならではの味わいを醸し出している。
個性豊かなこの芋焼酎のアテに選んだのは、北海道から豊漁の便りが届いた秋サケ。癖のない旨みをさらに引き出せるよう、白焼きにして醤油だれに漬け込んでおいた。鮭のまちとして名高い新潟県村上市の郷土料理、「鮭の焼き漬け」だ。
まずは、6対4の水割りにした「赤兎馬」をひと口。とたんに、まろやかながらキレの良い味わいが広がり、芋の風味がさわやかに鼻腔を抜けていく。その繊細さに驚きつつ、卓に載せる前にサッと炙った秋サケに箸を運ぶ。皮目は香ばしく、たれが馴染んだ身はしっとり。再びグラスに手を伸ばすと、また口中を「赤兎馬」が軽やかに駆け抜けていく。思わず笑みが浮かぶほど絶妙な取り合わせだ。
芋焼酎の力強さを持ちつつ、主張しすぎない食中酒としても愉しめる「赤兎馬」は、和洋を問わずさまざまな料理を受け止めてくれる。さて、次はどんな肴と合わせよう。酒好きをわくわくさせる愛馬、それが本格芋焼酎「薩州 赤兎馬」なのだ。
北方謙三 三国志「赤兎馬」書き下ろし
赤兎馬は、伝説の馬である。もとは、前漢のころ西域から入れられた、汗血馬にあるのだろう。後漢の三国時代に、呂布という武将が乗った馬の名と伝えられている。私が書いた『三国志』という小説でも、赤兎馬は出てきて、呂布とともに生きる。ほとんど人間のような感情を見せる名馬で、そう描くことによって、呂布の性格も、激烈だが人間的なものになった。赤兎馬は固有名詞で、二代目に、関羽という高名な武将が乗った。
私は、『三国志』を書いたころを思い出す。赤兎馬が出てくると、物語が一歩、二歩進展したものだった。馬なのに、登場人物の存在感を凌ぐような時さえあった。
赤兎馬のファンもいて、私は女子高生から手紙を貰った。自転車を赤く塗ったという。冬の朝、冷たい風を切って自転車を漕ぎながら、赤兎がんばれ、もうすぐ駅だ、と声をあげていたのだという。その姿が想像できて、印象深い出来事として、いまも鮮明に思い出せる。あの女子高生も、いまは立派なお母さんになっているかもしれない。一度会って酒を酌み交わし、赤兎馬について、懐かしさに心をふるわせながら、語り合いたいなあ。
提供:濵田酒造株式会社 焼酎蔵 薩州濵田屋伝兵衛
https://www.sekitoba.co.jp/
飲酒は20歳から。飲酒運転は法律で禁じられています。飲酒は適量を。妊娠中や授乳中の飲酒はお控えください。
Illustration:Katsumi Yada
Design:Hidenori Sato
Edit&Text:Yuko Harigae(Giraffe)