熱々の鍋料理が嬉しいこの時期、ちょっと得意気な顔で野菜売り場に並んでいるのが春菊だ。春に花が咲くことからその名があるが、旬は冬。葉が柔らかで香り高いこの時期の春菊は、しゃぶしゃぶでサッと火を通して味わいたい。それも、ぜひ鹿児島風の豚しゃぶで。
しゃぶしゃぶといえばポン酢や胡麻だれで味わうのが一般的だが、鹿児島ではかつお節を使った出汁つゆで食べるのも人気だという。優しいかつおの風味が、豚肉の旨みはもちろん、春菊の香りもいっそう引き立ててくれるに違いない。
さらに間違いないのが、ここに芋焼酎「赤兎馬」を合わせること。鹿児島の焼酎蔵 薩州濵田屋伝兵衛が醸す「赤兎馬」は、柔らかな風味の白麹と鹿児島特産のさつまいもを使用。地元・冠岳湧水の軟水で仕込み、特殊な濾過方法によって磨き抜いた、淡麗ながら力強い個性の本格芋焼酎だ。しゃぶしゃぶと共に味わうなら、飲み方はスッキリと水割りで決まりだろう。
食べやすく切った春菊をごく薄切りの豚肉で巻き、昆布とかつお節でとった出汁の中で泳がせる。豚肉がチリッと縮まったら、すぐに引き上げ、出汁つゆをくぐらせて口に運ぶ。まず春菊独特のさわやかな香りが広がり、噛むほどに豚肉の脂の甘さ、出汁つゆの塩味と一つになっていく。これぞ、口中調味の妙だ。
そこに「赤兎馬」の水割りをひと口。キレのよい味わいが豚の脂を洗い、フルーティな風味がふんわり立ち上る。と、鼻に残る春菊の香りが芋の香りと一つになり、どこかエスニック料理のようなニュアンスへと変わったのだ。和のハーブである春菊の魅力を「赤兎馬」がグッと引き出してくれたということか。驚きの変化に、思わず箸が止まらなくなった。
和洋中を問わずどんな料理にも合うのが「赤兎馬」のポテンシャルだが、これならエスニックもいけそうだ。次はタイかベトナムか……。思い描く膳には、名馬が必ず寄り添っている。
北方謙三 三国志「赤兎馬」書き下ろし
赤兎馬は、伝説の馬である。もとは、前漢のころ西域から入れられた、汗血馬にあるのだろう。後漢の三国時代に、呂布という武将が乗った馬の名と伝えられている。私が書いた『三国志』という小説でも、赤兎馬は出てきて、呂布とともに生きる。ほとんど人間のような感情を見せる名馬で、そう描くことによって、呂布の性格も、激烈だが人間的なものになった。赤兎馬は固有名詞で、二代目に、関羽という高名な武将が乗った。
私は、『三国志』を書いたころを思い出す。赤兎馬が出てくると、物語が一歩、二歩進展したものだった。馬なのに、登場人物の存在感を凌ぐような時さえあった。
赤兎馬のファンもいて、私は女子高生から手紙を貰った。自転車を赤く塗ったという。冬の朝、冷たい風を切って自転車を漕ぎながら、赤兎がんばれ、もうすぐ駅だ、と声をあげていたのだという。その姿が想像できて、印象深い出来事として、いまも鮮明に思い出せる。あの女子高生も、いまは立派なお母さんになっているかもしれない。一度会って酒を酌み交わし、赤兎馬について、懐かしさに心をふるわせながら、語り合いたいなあ。
提供:濵田酒造株式会社 焼酎蔵 薩州濵田屋伝兵衛
https://www.sekitoba.co.jp/
飲酒は20歳から。飲酒運転は法律で禁じられています。飲酒は適量を。妊娠中や授乳中の飲酒はお控えください。
Illustration:Katsumi Yada
Design:Hidenori Sato
Edit&Text:Yuko Harigae(Giraffe)