「#未来のためにできること 」をテーマにエッセイを募集したコンテスト。期間中(7/25-9/20)には、昨年を上回る9,740件もの作品をご応募いただきました!たくさんのご応募、ありがとうございます。今年度の栄えあるグランプリと優秀賞を発表します!

僕らはひたすら草を土に置く #未来のためにできること
KODOさん

障害のある方などと一緒に、農業分野で活躍して社会参画を実現していく取組「農福連携」。その一環で作者・KODOさんが、「草マルチ敷き」という自然農法をしたさいにつづった作品がグランプリに選ばれました。

受賞者コメント

この度は身に余る受賞に恐縮しております。記事を読み、選考してくださった方々をはじめ、日頃お世話になっている農福連携関係者の皆さまにも心より感謝を申しあげたい次第です。ありがとうございました。平凡な日々の暮らしの中にこそ、未来のためにできることが散りばめられているのではと感じています。この記事をきっかけに様々な方が持続可能な草マルチ敷きをしてくださるようになったら、これ以上嬉しいことはございません。

KODOさん


繕うこと繋ぐこと、祈りを踊ること。
タケチヒロミ(Roulottes)さん

地球儀をまわす
ミーミーさん

つなぐ食卓
イケダマホさん

親子で自然から学ぶ-失敗だらけの山開拓
くろもちさわかさん

未来にゆっくり伝える味噌
わたなべますみ@okkatteパーソン

 

 


2015年、国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)。それは「未来のかたち」だ。しかし、経済・社会・環境にまたがる17の目標の達成は、想定外のパンデミックによって、遠のいてしまった。文藝春秋はメディアプラットフォーム「note」とともに、SDGsを考えるエッセイを広く募集した。ポスト・コロナ時代を生きるわたしたちがいま「未来のためにできること」とは何か、もう一度考えるために。

[文藝春秋SDGsエッセイ大賞2023選考会]
ふだんの暮しのなかで、未来を考える。

為末 大 元陸上選手 Deportare Partners代表
角田光代 作家
新谷 学 文藝春秋取締役 文藝春秋総局長

今回のエッセイ大賞のテーマは「未来のためにできること」。あわただしい毎日を送っていると、遠い未来について思いを馳せることはなかなかないかもしれない。それでも、応募作品には、日々の暮しの中で見つけた様々な気づきが綴られていた。

実感を大切にしたリアリティ

――昨年が第一回だったSDGsエッセイ大賞。第二回の今回は、昨年を大きく上回る九千七百四十通の投稿がありました。その中から、二度にわたる厳正な審査を通過した二十五作品を、審査員のお三方に読んでいただきました。今日はこの場でグランプリ一篇と優秀賞五篇を決定したいと思います。それではまず角田さんから選評をお願いいたします。

角田 わたしは「僕らはひたすら草を土に置く」を一位にしました。刈りとった草を畑に戻す“草マルチ”というやり方があるんですね。この方は農業をやっておられるんでしょうか、他の方とはちょっと視点が違っていて面白いなと思いました。

Dai Tamesue
1978年広島県生まれ。スプリント種目の世界大会で日本人として初めてメダルを獲得。男子400メートルハードルの日本記録を持つ。現在は執筆活動、身体に関わるプロジェクトを行う。
Dai Tamesue
1978年広島県生まれ。スプリント種目の世界大会で日本人として初めてメダルを獲得。男子400メートルハードルの日本記録を持つ。現在は執筆活動、身体に関わるプロジェクトを行う。

――為末さんはいかがでしたか?

為末 僕は「地球儀をまわす」が一番好きでした。小さい頃は、確かにこんな感じだったな、と。十八歳まで広島にいて、その後、アスリートとして世界を見てまわりましたが、子どもの頃、思い描いていた世界像を確かめに行ったようなものです。

――新谷局長は?

新谷 SDGsについて、単なる理想論ではなく、ちゃんと行動が伴っているかどうかを選考基準にしました。そういう意味では「未来にゆっくり伝える味噌」がよかったですね。味噌をつくるということにフォーカスを絞ったことで、逆にSDGsの本質が伝わってきました。

為末 角田さんが挙げた「ひたすら草を置く」も、実感がこもっていて、リアリティがありますよね。テクニックに凝るような書き方よりも、こういう淡々とした書き方のほうが、僕の好みだなと思いました。

角田 草を土に置く作業を、ハンディキャップを持っている人たちと一緒にやっているというのが、最後にさりげなく出てきますよね。そこがいい。

人間をいきいきと描くことで伝わってくるもの

Mitsuyo Kakuta
1967年神奈川県生まれ。90年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。2005年『対岸の彼女』で直木賞、12年『紙の月』で柴田錬三郎賞、『かなたの子』で泉鏡花文学賞、21年『源氏物語』訳で読売文学賞を受賞した。
Mitsuyo Kakuta
1967年神奈川県生まれ。90年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。2005年『対岸の彼女』で直木賞、12年『紙の月』で柴田錬三郎賞、『かなたの子』で泉鏡花文学賞、21年『源氏物語』訳で読売文学賞を受賞した。

――みなさんそろって推しておられるということで、グランプリは「僕らはひたすら草を土に置く」でよろしいでしょうか(拍手)。それでは優秀賞五篇の選考に移りたいと思います。為末さんと新谷局長が一位に挙げた作品は残します。

角田 「親子で自然から学ぶ――失敗だらけの山開拓」もいいですよね。子どもたちに地球の大切さを伝えるとか、そんな大げさなことではなく、自分たちも地球の一部なんだということを実感させるために、週末家族で山に通う。小さなことなんだけど、そこがいいかなと。

新谷 わたしは「つなぐ食卓」を推します。その場の人間をいきいきと描くことで、理屈になりがちなSDGsの理念が自然と伝わってきました。

為末 自分で書こうとすると、つい説教っぽくなってしまいますからね。それが上手にチューニングされている。

――それでは今挙がった「親子で自然から学ぶ」と「つなぐ食卓」を残したいと思います。

共感から生まれる広がりを期待したい

角田 「繕うこと繋ぐこと、祈りを踊ること。」もいいなと思ったんですが……。

為末 たしかにいい文章でしたね。

新谷 実はこの方、昨年グランプリを受賞しているんです。今回も、「繕うこともまた弔いであり、未来へ繋ぐことだと思う」という、この一文がいいんですよ。まさに本質なんです。どうでしょう、優秀賞に残すということで(拍手)。

Manabu Shintani
1964年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、文藝春秋に入社。『Sports Graphic Number』『マルコポーロ』などの編集部を経て、2012年『週刊文春』編集長、21年『文藝春秋』編集長に就任。23年より現職。
Manabu Shintani
1964年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、文藝春秋に入社。『Sports Graphic Number』『マルコポーロ』などの編集部を経て、2012年『週刊文春』編集長、21年『文藝春秋』編集長に就任。23年より現職。

――では、これでグランプリ一篇、優秀賞五篇が決定しました。最後に今回のエッセイ大賞を振り返っての感想をお願いします。

為末 初めての審査でしたが、大変面白かったです。エッセイのフォーマットみたいなものに則った人もいれば、自由形でやっている人もいる。両方それぞれの面白さがあるなと思いました。

角田 自分語りに終わるのではなく、そこから一歩出ていくことが大切ですね。「地球儀をまわす」みたいに、まず何かを「知る」ということから一歩踏み出す。そういうのがいいなと思います。

新谷 日々の暮しのなかで、「あっ、これもひょっとしたらSDGsかも」みたいなことに気づいたら、文章にしてみるといいですね。それで整理することができます。さらに、それを自分の中だけで完結するのではなく、他の人にも伝えて、共感してもらう。そういう広がりがエッセイ大賞の趣旨です。今回、それがかなり浸透してきたなと思いました。来年も期待したいですね。

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