ビジネスシーンにもコロナ以前の日常が戻り、「長く控えていた地方出張が増えてきた」という人も多いだろう。一方、コロナ禍に社会人デビューした世代は、慣れない出張に悩むこともあるはず。そんな「出張あるある」のお悩みに、フォロワー数3万超えの人気コンサル系インフルエンサー・メン獄さんが直球回答! 外資系コンサル会社に12年間勤務した経験から得た実践的ビジネス術をX(旧Twitter)やnoteなどで発信し続け、2千を超える質問や相談に答えてきたというメン獄さんが語る、出張の極意とは?
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――メン獄さんは現在、医療系のスタートアップ企業に勤務されているそうですが、出張は多いですか?
メン獄 2023年後半ぐらいから出張は増えましたね。やっぱり会わないと何もできないなって、最近は痛感しています。僕の場合、地方の病院や自治体に伺うことが多いんですが、どんなにオンラインで会議をしても、「うちが親子代々にわたって支えてきた地域の医療を、東京からリモートでどうこうできると思うなよ」って感じる方もいると思うんですよ。現地に行ったこともないヤツには全然心を開いてくれない。それは当然だと思います。
そういう「分かってくれない」というストレスを相手に与えないために、少なくとも最初の1回は現地に行って直接お会いしたほうがいいと思います。相手の人もやっぱり行けば喜んでくれるし、メールを10通送るよりも、「今日東京から来ました」って顔を出す方がすごくかわいがってもらえますし、仕事もテンポ良く進みます。
――今日はビジネスパーソンが出張で悩みそうな「あるある」質問に回答していただきたいと思います。
Q1.出張(現地に行くこと/直接会うこと)とオンラインでのミーティングはどのように使い分けていますか?(読者)
A.予算が許すかぎり僕は出張を選びます。特に、最初のご挨拶と、議論をしなければ進まない状況、それとこちらから言いづらいお願いや相談がある時は、絶対に直接会いに行きます(メン獄)。
――言いづらいお願いとは?
メン獄 僕の場合、仕事上ご挨拶しておいたほうがよさそうな、地元に根づくコミュニティをご紹介いただく時などですね。やっぱり人となりが分からない相手にその地元の大切な人を紹介するわけにはいかないと思うので、「決して敵意のない人間です」ということを証明するためには直接会うしかない。オンラインや電話だけだと、「単なる営業活動でしょ」って思われがちですけど、出張に行くと、こちらから出向いていくにはそれなりに費用や時間をかけてやってきているということも相手も分かってくれているので、「ご足労いただいちゃって」と気遣ってくれるし、「せっかく来ていただいたんだし」と情報も出してくれたりするようになって、すごく話しやすくなるんです。
――確かに、関係性が変わることがありますね。
メン獄 そういうモードになってくると、そこでちゃんと関係が構築できるので、あとはオンラインで済むことも増えてきます。たとえば「この日までにこの書類をお送りください」といった事務手続きのような内容だったらオンラインで問題ないと思いますね。とはいえ、あとはすべてオンラインで良いかというとそうではなくて、顔を合わせないでいると何となく言えないことが出てきたりして、ストレスをためてしまうことがあります。
それに、オンラインだと、用件が済むと「ではお疲れ様でした」と回線を切ってしまうけれど、実はその後の雑談の中で見えてくるものとか、言えたりすることが多いんですよね。だから、定期的に現地に行ったほうがいいと思います。コスト的にも効果があるんじゃないかな。
――コストですか?
メン獄 そうです。出張費を惜しんでオンラインだけで進めても、コミュニケーションがうまくいかなかったり、情報が足りず誤解が生じたりして業務が長引けば、結局コストが上積みされていくわけですよね。でも、出張費がかかってもそれで業務が滞りなく進めば、むしろコスパはいいんじゃないかと。
――なるほど。ただ、やはり出張にかかる経費を気にする上司は少なくないようで、次はこんな質問です。
Q2.出張に行きたいのに上司に渋られます。オススメ説得法はありますか?(読者)
A.そこはもう戦いましょう。「いや、行くことによって得られるものが絶対ありますから」と。それも、出張に行くことのメリットを具体的に挙げて戦うことが大事です(メン獄)。
メン獄 「先方にこの提案をするのにオンラインだと何回アポイントが必要で何通メールを送って、それでも進捗率が何%なので結局何日で何万円かかってしまいます。一方、出張であれば1回数万円の経費でオンライン以上の進捗が得られるので、コストとしては微々たるものだと思います」という感じで、根拠ある説得をすることが必要です。
まぁ、それでも簡単には出張が認めてもらえないのであれば、僕の場合、自費で1回行っちゃったりしますね(笑)。週末などに旅行感覚で。
――え、自費で行くんですか!?
メン獄 はい。現地に行って地元の人たちの会話を聞かないと、どんなところなのか、そこで先方がどういう立場なのか、全然想像ができないじゃないですか。それに、地元の人たちがよく行く飲食店で食事をするだけで、いろんな人と知り合えたり、名刺をもらえちゃったりするんですよ。1回参加で数万円もかかる交流会や勉強会に出席するより、リーズナブルにリレーションが作れることもある。しかも、そういう情報を得ておくと次の出張も申請しやすくなりますから。
――飲食店で得る情報ってあなどれないですよね。
メン獄 地方の人たちはみんな地元愛が強烈にあるから、「あれは食べたか」「あれは見たか」っていろいろ語ってくれるじゃないですか。それでいうと、お城のある町だったら絶対見ておいたほうがいいですよ、お城。取引先でも必ず「城は見たか?」って聞かれますから(笑)。
――確かにお城自慢はありそうですね(笑)。その土地の名産品はどうですか?
メン獄 名産の食べ物とかも精査しておいたほうがいいですね。ただ、ちょっと難しいのが、旅行者しか食べないグルメや行かない店もありますからね。1回目の出張で「地元の人が行くお店ってどこですか?」と先方に聞いてみて、次の出張までに絶対食べておく。そうすると、「ちゃんと話を聞いてくれる人なんだな」って信用してくれますし、そもそもそういうお店はウマい(笑)。
Q3.移動中の有効な時間の使い方は? 役立つアイテムはありますか?(読者)
A.これから会いに行く相手の情報をウェブで調べまくっています。最近はどういう研究や開発をしているか、お医者さんだったらどんな論文を発表しているか。なので、モバイルバッテリーは欠かせません(メン獄)。
――新幹線など移動中の車内で仕事はしますか?
メン獄 うーん、パソコンで資料や企画書を作っていると、隣の人の視線が気になっちゃうんですよね。なので、情報検索をしているか、でなければ考え事をするかです。
ボーッとしながら「あの方法でいいのかな」「あの話は本当かな」と自分の考えを整理していく。誰にも話しかけられない時間って貴重なので、インプットに費やすことが多いですね。でも、最近では東海道新幹線「のぞみ」の「S Work車両」のように、ビジネスパーソン向けの車両も登場しているので、気兼ねなく仕事ができていいですね。
――モバイル端末などを気兼ねなく使える車両ですね。仕事のための必需品はモバイルバッテリー?
メン獄 ポートが複数あるモバイルバッテリーですね。コンセントがひと口しか使えなくても、フル充電して持っていけば1台で携帯電話もPCもタブレットも充電できますから、絶対持っていくようにしていますね。
――さて、ここまで様々なテクニックを教えてもらいましたが、メン獄さん本人の出張での失敗談はありますか?
メン獄 ありますよ! 飛行機で出張した時のことなんですが、空港に着くのが本当にギリギリになっちゃって、手荷物検査場に入れてもらえなかったんです。
でもどうしても乗らなければならないから、「見てのとおり、僕には何にもおかしなところはありません、無害な人間です! 信じてください!」って、もうメチャクチャ頭を下げて……。「出発時刻には必ず間に合わせるので、何とか入れてください!」って、ようやく検査場を通してもらって、そこから搭乗口まで走りに走りました。よりによって一番遠い搭乗口だったから、余裕で1kmは全力疾走したんじゃないかな(笑)。
――それは過酷な体験ですね(笑)。
メン獄 そんなこともあって、出張では絶対に時間の余裕を持って移動するようになりましたね。バタバタになると何もかもが不安になってくるので、何かあっても必ず予定どおり目的地に辿り着けるスケジュールで行動するようにしています。
もちろん前日に現地に入れればベストですし、当日でもなるべく2本ぐらい早い新幹線に乗るとか。仕事があれば、現地に行ってからコワークスペースなどで作業をする時間も持てます。最近では駅にも個室ブースやシェアオフィスが増えていますしね。
出張も働き方も、本当に楽しいと思えるゾーンが必ずある
――そもそもメン獄さんはコンサルタント企業から2021年に転職されたんですよね?何がきっかけだったんですか?
メン獄 コロナの頃、友人のお医者さんや看護師さんが現場で激務をこなしている姿を見て、自分が机に向かって書類を書いてばかりいることにリアリティが持てなくなってしまったんですね。実際に世の中で起きていることと自分の仕事とのギャップを強く感じてしまって、それでコンサルの会社を辞めました。
今は医療系のスタートアップで、超高齢化社会や医師の働き方改革など日本の将来的な医療課題をテクノロジーで解決するための働きかけをしています。ですから、通常は普通にサラリーマンです。自分では「ヤバい情報商材屋」って名乗っていますけど(笑)。
――メン獄さんがSNSで発信するビジネスの情報は多くのビジネスパーソンの共感を得ていますが、そもそもはどういう思いから始められたんですか?
メン獄 最初はグチだったんですよ(笑)。もう、笑っちゃうぐらい、やってる仕事が忙しくて、金曜の夜とか普通に月曜朝の会議に使う資料作成業務とかが出てきて、「これはつまり土日にやれっていうことですよね」みたいな生活が延々と続いていたんです。本当にオフィスにダンボール敷いて人が寝ていて、こんな『蟹工船』みたいな職場があるのかって(笑)。
でも、それを悲劇的に捉えて悶々としていてもしょうがないなって思ったんですよね。逆に、『法治国家でこんな人権のない労働環境が許されていいのか!?』って、一周回ってそれが面白くなってきちゃったんです。それで、「上司がダンボールで寝てた」とかポツポツと発信し始めたら、「ヤバい働き方してるやつがいる」ってフォローする人がだんだん増えてきて。結局、同じ様に苦しい働き方をしている人は、僕が思っていた以上にいっぱいいたんですよね。だったら、「あいつよりマシ」って思って救われている人がいるならそれでいいかな、と。
――確かに、共鳴するフォロワーは今もどんどん増えています。
メン獄 でもね、強いられてそういう働き方をしているんだったら問題ですけど、自分が働きたくてそうしているんだったら、それは別にいいんじゃないかと僕は思っているんですよ(笑)。だって、大谷翔平に野球をやる時間を制限する人はいないでしょ? 彼の職業は野球選手で、じゃあ素振りをしている時間は仕事なのかといったら、本人は別にそんなつもりはないだろうし。
――あぁ、それはそうですね。
メン獄 結局、プロなんだから働きたい人は働くんですよ。最近、法律も厳しいですけど、労働が悪みたいになってほしくないんですよね。出張も含め、やっぱり仕事をしていて本当に楽しいって感じるゾーンってあると思うし。
もちろんつまらないと思うゾーンもいっぱいありますよ。でも、そのつまんないゾーンって、多分すでに誰かが通った道で、みんなそこを同じように「つまんねえな」とか「大変だな」と思いながら通っているんですよ。ということは、そこはもう大体やり方が決まっているし、別に頭使って悩まなくていい。たとえば「これ、“遅延”って書いていいのかな」とか、みんなめっちゃ悩むんです。
――遅延、ですか?
メン獄 そう。プロジェクトや業務の進行が遅れた時、報告書に遅延と書いていい場合と書いてはいけない場合がある。「これはどっちだろう、遅延って書いたら怒られるんじゃないか」って2時間ぐらい延々と悩んじゃう。
――「これは言っていい場面だよ」「これは言っちゃだめ」って教えてもらえれば、その2時間は必要なくなるってことですね。
メン獄 そうなんです。でも、上司も先輩もいちいち教えてくれませんからね。僕にもそうやって悩んだ経験がいっぱいあったから、全部SNSに書きました。僕が発信して共有することで、みんなが悩まなくなるといいなって。
――「メン獄さんも同じところで引っかかってたんだ」って勇気づけられる人も多いでしょうね。
メン獄 よく言ってるんですけど、全通りのミスをやってますからね、僕。全部の失敗をやっています。だから、新卒がどこでミスするなんて、すぐ分かりますよ(笑)。
結局、上司の人たちもちゃんと話ができていないんですよ。立場があるから、本当は分かっていないのに、「分からない」って言えなくて、部下に「どうすればいいですか?」って聞かれた時に「自分で考えて」みたいな突き放し方をしちゃう。「じゃあこれでどうですか」って答えを持ってこられても、正解かどうか分からないから「ううむ」なんて言ってるだけで(笑)。それって時間の無駄じゃないですか。そんなことをやっていられるほど、日本人の労働力はもう残っていませんよ。
――そういう上司に当たってしまったら、どうすればいいんでしょう。
メン獄 喧嘩してこいって言います(笑)。「リングに上がりましょう、どっちが正しいかみんなの前で戦って、最後まで立っている方が勝ちです」って。そう言いやすい社会に、僕はしたいですね。顔色をうかがっている時間は、もうないです。
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〈今回の取材場所〉
EXPRESS WORK-Lounge
東京駅直上ビル内に設置されたコワーキングスペース。東海道新幹線への乗車前後の仕事に便利で、オープン席、半個室、個室、会議室とさまざまなスペースが揃っている。従量課金制で、「EXPRESS WORK」に会員登録すると「EXPRESS WORK-Lounge」のほか東海道新幹線駅構内などに設置している個室ブース「EXPRESS WORK-Booth」も利用可能。※Lounge・Boothを利用の際はEXサービスへ会員登録が必要。
https://expresswork.jr-central.co.jp/lounge/
【メン獄】
1986年、千葉県生まれ。コンサルタント。上智大学法学部法律学科卒業後、2009年に外資系大手コンサルティング会社に入社。システム開発の管理支援からグローバル企業の新規事業案件まで幅広く手掛ける。2021年に退職後、医療業界全体のDX推進を目指すスタートアップ企業にDXコンサルタントとして就職。主に大企業のテクノロジーを用いた業務改革の実行支援・定着化、プロジェクト管理、運用設計が専門領域。コンサルティング業界の内情やDXトレンドを紹介し、仕事をよりポップな体験として提案するX(旧Twitter)、note「uudaiy」が人気を博す。初の著書に『コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』(小社刊)がある。https://note.com/uudaiy/
イラスト:うえはらけいた
1988年、東京都生まれ。コピーライターとして勤務していた大手広告代理店を2015年に退職し、多摩美術大学グラフィックデザイン学科に編入。卒業後、デザイナーとして勤務する傍ら漫画を描きはじめ、2020年4月に漫画家として独立。代表作に『ゾワワの神様』、『アバウトアヒーロー』など。https://note.com/keitauehara/
Text:Yuko Hariage(Giraffe)
Photographs:Hideki Sugiyama
Illustration:Keita Uehara
提供 JR東海