“エンディング”のその先へ
未来志向で「終活」を始めよう

2012年に41歳の若さで他界した流通ジャーナリストの金子哲雄さんは、見事な終活プロデュースで話題となった。哲雄さんをサポートし、現在は終活ジャーナリストとして情報発信している妻の稚子さんに、前向きな終活について話を聞いた。

死はゴールではなく通過点
今できることに真摯に向き合い続けた

終活ジャーナリスト
金子 稚子(かねこ・わかこ)
雑誌・書籍の編集者。2012年に夫と死別した後、医療から葬儀・供養、墓など多岐にわたる分野を取材・情報発信している。一般社団法人 日本医療コーディネーター協会共同代表理事。
終活ジャーナリスト
金子 稚子(かねこ・わかこ)
雑誌・書籍の編集者。2012年に夫と死別した後、医療から葬儀・供養、墓など多岐にわたる分野を取材・情報発信している。一般社団法人 日本医療コーディネーター協会共同代表理事。

――金子哲雄さんは1年半の闘病の末に亡くなりました。その間、哲雄さんはどのように終活をされていたのでしょうか。

金子 葬儀のプランニング、お墓の準備、公正証書遺言の作成、生前受戒に至るまで、夫は終活と呼ばれることにとても積極的でした。終活は「人生を終えるための始末」という印象を持つ方もいるかと思いますが、夫はあくまでもやりたいことを実現するためにまい進していました。特に冠婚葬祭は「人の営みにおいて大事な節目」と捉えていて、仕事でお世話になった方々に葬儀でどう感謝を伝えようかとあれこれと思案をしていました。葬儀社との打ち合わせにも病床から参加し、参列者の方々をもてなすアイデアを楽しそうに練っていました。特にお料理は美味しいものを提供したいと、通夜ぶるまいや告別式にいらしてくださった方のおときを吟味。自分自身が葬儀に参加できないことを残念がって、「この場面ではこうしてね」と私やマネージャーさんにもしっかり引き継いでいました。葬儀というイベントのプロデュースですね。会葬礼状ひとつとっても、儀礼的なものではなく、いらしてくださる方に思いを馳せながら言葉を綴っていました。

――どうしてそこまで積極的に終活に取り組めたのでしょうか。

金子 夫は、死を「終わり」と捉えず、死というゴールを抜けた「その先」を常に意識していたように思います。人と人との関係は、死んでもなお続いていくものです。だからこそ、夫は自分が死んだ後であっても、周囲の人たちにどう感謝の思いを伝えるのかを考えていました。この先の私の暮らしぶりも心配して、公正証書遺言を作成したり、住まいをどうすべきか助言してくれました。また、闘病によって医療との関わりや終末期のあり方に向き合う機会が増えると「これを調べることは、わかちゃんの仕事だよ」と本を企画し、私がやるべき“宿題”を託していきました。こうした夫の積み重ねが、今も私の生きる道を指し示しています。

――哲雄さんの死が、稚子さんの未来へとつながっていったのですね。

金子 そうですね。「死ぬことと、生きることは、同じ」。夫が残したこの言葉は、私にとって何よりも大きな財産になっています。また、闘病期間に死や死後について話し合った時間は、夫の死生観を深く理解し、結びつきを強めるうえで大切だったと思います。

――夫婦や家族で「死」や「死後」について話し合うのは面映いかもしれません。どう切り出すとよいでしょうか。

金子 例えばエンディングノートの作成は、親子や夫婦で話し合うきっかけになります。40代、50代ともなれば人生100年時代の後半戦に入るわけですから、働き盛りの方であっても終活を始めてよいタイミングです。「親にエンディングノートを勧めるけれど、なかなか書いてくれない」というお悩みを伺いますが、まずはご自身で自分のノートを書いて、そこから親に勧めてみてもいいでしょう。「何を書けばいいのかわからない」という人は、毎日の出来事や健康状態の記録をつけるだけでも十分。嫌だった出来事などのメモもあると、心の動きがわかりやすくなります。家族で価値観を共有できると、終末期の医療や介護を受けるうえでの大きな助けにもなります。

――前向きに終活を進めていくためのアドバイスをお願いします。

金子 終活を死ぬための準備ではなく、未来へ思いをつなぐアクションだとするなら、やはり思いを引き継いでくれる周囲の人々と語り合う時間を持つことが大切です。事務的な作業であればお金を用意して指示することでかなう部分もあるでしょう。けれど命の終わりが見えたとき、自分がどう生きたいのかを支えてくれるのは信頼で結びついた人たちです。周囲の人々と語り合い、縁をしっかりと結んでいくことが、豊かに生きるための終活になると思います。

遺言の作成は元気なうちに

認知症などで意思能力がないとみなされるとさまざまな法律行為が無効となる。相続について考えがあるなら元気なうちに遺言を作成しておく必要がある。遺言を使えば、財産の分け方を指示するだけでなく、死後に財産の一部を慈善団体に寄付する遺贈寄付も可能だ。遺贈寄付はお金持ちがするものというイメージがあるが、少額でも寄付は可能。家族への分配を第一に考え、残った財産があれば寄付にまわすこともできる。