自分らしく生きるために、 いま考えたいお金のこと

歴史的な円安環境のいま、現預金だけでは資産は目減りしてしまうため、何らかの対策を講じたい。また、資産を家族にのこすには、元気なうちから準備したいものだ。本特集では、自分らしく生きるために、いま考えておきたいお金のことについて、有識者への取材などを基に検討する。

断片的な情報や知識に惑わされずに
自分らしい資産形成・相続を叶える

長年、個人のマネー相談を行うファイナンシャルプランナーのゆりもとひろみ氏に、
資産運用や相続に関していま知っておきたいことを聞いた。

理解できない商品には投資しないことが重要

FPフローリスト 代表取締役
ファイナンシャルプランナー(CFP®)
ゆりもとひろみ氏
資産運用・家計管理・住宅購入・保険見直しなど幅広いマネー相談に精通し、親身なアドバイスが好評。2013年、FP開業10周年を節目に日本初の本格的女性FP養成機関FPフローリストを設立。後進の育成と良質なFPサービスの普及にも尽力
FPフローリスト 代表取締役
ファイナンシャルプランナー(CFP®)
ゆりもとひろみ
資産運用・家計管理・住宅購入・保険見直しなど幅広いマネー相談に精通し、親身なアドバイスが好評。2013年、FP開業10周年を節目に日本初の本格的女性FP養成機関FPフローリストを設立。後進の育成と良質なFPサービスの普及にも尽力

 日銀が6月27日に発表した2024年1~3月期の資金循環統計によると、3月末の家計の金融資産は前年同期比で7.1%増え、過去最高の2199兆円となった。特に株式や投資信託などリスク性資産が増えた。世界的な株高に加えて、1月にスタートした新NISA(少額投資非課税制度)によって投資家の裾野が広がっていることも家計金融資産増加の背景にありそうだ。

 そんな中、昨年から資産形成に関する個人の相談が増えていると話すのがファイナンシャルプランナーのゆりもとひろみ氏だ。「NISAの認知度は高く実際に活用されている方も多いですが、制度の中身をよく理解せず運用している方も少なくありません」と話す。

 通常、株式や投資信託などに投資した場合には、売却益や配当に対して約20%の税金がかかるが、NISA口座を使えばそれが非課税になる。つまりNISAは、株式や投資信託から得られる利益に対して税金がかからない制度であって、利用すれば自ずとお金が増えるわけではないことは、改めて理解しておきたい。

 また相談者の中には、自身のニーズやリスク許容度にそぐわない金融商品を選んで運用している人も散見されるという。「ユーチューブの動画などを参考に商品を選んだのではないかと思いますが、投資のリスクや投資信託の仕組みなど、運用の基礎知識を持たないまま始めているケースもあります。自分に合わない運用では、せっかくの資産にダメージを与えてしまうかもしれません」とゆりもと氏は指摘する。断片的な情報や知識、思い込みで判断せず、まずは自身の資産運用の目的やゴールを意識したうえで、資産形成の基本である長期・分散・積立などの考え方を理解しておきたい。

 人生100年時代を迎えたいま、リタイア後でも長期運用は十分可能だ。ただし、ある程度まとまった資産を運用する場合は、「大きく増やす」よりは、インフレなどから資産を「守る」意識で運用すれば過度なリスクを取らなくて済む。「年配の方がまとまった資金を運用する場合でも、一度に投資するのではなく、購入のタイミングを分散することが肝心。さらに自分が理解できない商品には投資しないことも重要です」

資産形成や相続の悩みは、中立的な立場の専門家へ相談することも検討したい(写真はイメージ)
資産形成や相続の悩みは、中立的な立場の専門家へ相談することも検討したい(写真はイメージ)

元気なうちに早めに取り組むことが肝心

 一方で、ゆりもと氏のもとには近年、相続に関する相談も増加傾向にある。しかし資産形成同様、断片的な情報や知識に惑わされ本質的な部分が抜け落ちている相談者も少なくないそうだ。「相続税負担を減らすために生前贈与を検討する方は多いですが、焦って生前贈与を行い、ご自身の老後資金が足りなくなるのは本末転倒。まずはご自身が一生涯経済的に安心して暮らしていくことが大前提です」

 そもそも相続対策には、「税法上の相続対策」と「民法上の相続対策」がある。税法上の相続対策で重要なのは、納税資金の確保だ。まず相続税額を把握し、それを10カ月以内に納付できるかどうか確認したい。資産が不動産に偏っていて納税額を現金で準備できない場合などには、何らかの対策を講じる必要がある。

 民法上の相続対策では、相続人同士の争いを未然に防ぐために、遺産分割の対策が重要になる。必ず親族間で一緒に考え意思疎通を図ることが肝心だ。被相続人が遺言で遺産の分け方を決めておくこともトラブル回避のためには有効だ。相続対策というと節税対策を連想するかもしれないが、それは納税資金や遺産分割の対策を講じた後に、必要に応じて検討すべき課題だ。

「相続対策はすぐに手を打てるものもあれば、ある程度時間を要する対策もあります。その間に被相続人の方が認知症や要介護状態になってしまうと、本来望んでいた資産移転が手遅れになる可能性もあります。だからこそ相続対策は、元気なうちに早めに取り組むことが肝心です」

 昨今では、「自分の財産を広く社会のために役立てたい」との思いから遺贈・寄付を選択する人が増えている。その場合も遺言書を作成すれば実現可能だ。もし遺贈・寄付を検討しているのであれば、生前のうちに少額から寄付を実践するのもいいだろう。そうすればその団体の活動状況などを知るきっかけにもなる。複数の団体に寄付して比較検討してもいいかもしれない。

 資産形成や相続に関する情報を個人が収集することは容易になったとはいえ、一人ではわからないことや不安もあろう。中立的な立場の専門家や信頼できる企業・団体なども活用しながら、自分らしい資産形成や相続を実現してほしい。