ジョン・ガリアーノは1995年ジバンシィ、1996年クリスチャン・ディオールと、世界的ブランドのデザイナーに次々と抜擢された“ファッション界の革命児”。しかし、絶頂期だった2011年2月、差別的暴言を吐く動画が拡散、その後有罪となり、ブランドからは解雇され、文字通り“すべて”を失くした。ドキュメンタリーの名匠ケヴィン・マクドナルド監督は、ガリアーノ本人やファッション業界人はもちろん、彼を診断した精神科医や事件の被害者にもカメラを向ける。そこからは、まさに現代の重要な問題のひとつである〈キャンセルカルチャー〉の問題が浮かび上がるとともに、13年前の発言の背景に何があったのか、その真相に切り込んでいく。

ケヴィン・マクドナルド監督 © 2023 KGB Films JG Ltd

撮影中のジョンの様子「まるで懺悔室のようでした」

 このたび、本作でメガホンをとったアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞のケヴィン・マクドナルド監督が、制作秘話を明かす貴重なコメントが到着!

 2021年8月に始まったケヴィン・マクドナルド監督によるジョン・ガリアーノへのインタビューとその撮影は、ガリアーノが長年のパートナーと休暇を過ごしている南フランスにて行われた。撮影をスタートしたきっかけについてマクドナルド監督は、「共通の友人がジョンと連絡を取ってくれて、彼自身、自らのキャリアと急落について、とてもオープンな形で議論することに興味があると言ってくれたんです」と語る。

「最初の6時間に渡るインタビューの間、私はジョンがとてもリラックスしてカメラのレンズを見つめていたことに衝撃を受けました。まるで懺悔室のようでした」と撮影中の様子を話すマクドナルド監督は、ガリアーノが映画の魅力的な被写体であるだけでなく、率直にありのままの自分を見せる覚悟があるのだと確信したそう。ガリアーノとの話し合いで特に印象に残った事柄は?という質問には、「彼自身がまだ”あの事件”を理解しようと、もがき苦しんでいるように感じたんです。そして、何が起こったのかを自分自身で完全に理解できていない人物を見るとき、それはいつも本当に興味深いドキュメンタリーになります」と答え、天才・ガリアーノの苦悩と葛藤、ファッション史を揺るがした”あの事件”にも本作は深く切り込んでいく。

左:監督、右:ジョン・ガリアーノ © 2023 KGB Films JG Ltd

「劇場を出た後、疑問を持ち、議論してくれることを願っています」

 マクドナルド監督は、ミュンヘンオリンピック事件を扱った『ブラック・セプテンバー 五輪テロの真実』でアカデミー賞を受賞して以来、これまでに、ボブ・マーリーやホイットニー・ヒューストンといった著名人の素顔を掘り起こす数々のドキュメンタリー作品を手掛けてきた。そんな経歴を持つマクドナルド監督だが、完成した本作については、「ガリアーノはこの映画の編集上のコントロールはしていません。これは私にとって驚くべきことでした。こんなことは今まで経験したことがありません。彼は、自分自身が尊敬されることを望んでいるのと同じように、アーティストとしての私を尊敬してくれているのです」と感慨深く振り返った。

 また、本作で扱った“キャンセルカルチャー”というテーマに関しては、「私はファッションについては何も知りませんでした。しかし、ジョン・ガリアーノの物語は単なるファッションの物語ではなく、複雑な心理的ミステリーでもあり、そこに惹かれたのです。私は、有名人が社会規範に "背いた "ときに何が起こるのか、彼らがその経験にどう対処し、社会からどう許しを請うのかを理解するドキュメンタリー映画を作る方法を探していました」と話し、続けて「観客が劇場を出た後、疑問を持ち、議論してくれることを願っています」と締めくくった。

 全編に人間存在の謎と魅力がつまった、今こそ観たいヒューマン・ドキュメンタリー『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』は9月20日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかロードショー!

監督・プロデューサー:ケヴィン・マクドナルド (『モーリタニアン 黒塗りの記録』)
出演:ジョン・ガリアーノ ケイト・モス シドニー・トレダノ ナオミ・キャンベル ペネロペ・クルス シャーリーズ・セロン アナ・ウィンター エドワード・エニンフル ベルナール・アルノー

【2023年/イギリス/英語・仏語/116分/カラー/ビスタ/原題:High & Low -John Galliano】 
字幕翻訳:チオキ真理/© 2023 KGB Films JG Ltd 提供:木下グループ 配給:キノフィルムズ 公式HP:jg-movie.com