日本で最も人口が少ない都道府県、鳥取県。観光スポットとして鳥取砂丘が全国的に有名であるものの、そのほかにどのような見どころがあるのかとなると、なかなか想像がつかないという人も多いのではないだろうか。実は筆者はそうだった。しかし、いざ現地に降り立ち県内を探訪してみると……あまりの魅力に驚かされたのだ。

「スタバはないけどスナバはある」
鳥取県へ向かう道中、どのような場所を訪れようかと考えていたとき「そういえば!」と砂丘以外にもう一つ頭に浮かんだスポットがあった。47都道府県で最後に開店したスタバ「スターバックスコーヒー シャミネ鳥取店」だ。2015年の開店初日には地元住民を中心に長蛇の列が形成され、午前7時前の時点で1000人以上が集まったさまが話題になった。大盛況の様子は、あれから10年ちかく経った今でも印象深い。
現在、そのスタバはどうなっているのか。気になる。眠い目をこすりながら珈琲を啜ろうとしていた。……すると、鳥取駅近辺に別の有名珈琲店があることを知る。“スタバ”ではなく「“すなば”珈琲」。茶目っ気ある店名に思わず惹かれる。
スタバが鳥取県に開店する以前、平井伸治県知事は「スタバはないけどスナバ(砂場)はある」と自虐し、大きな注目を集めた。その流れに乗じて開店したのがすなば珈琲なのだとか。鳥取県東部の中心街である鳥取駅からわずか徒歩4分。どんな店なのか、ちょっと覗いてみよう。

店内は落ち着いた雰囲気で、地元の人に愛されているのがよく伝わる。「すなば珈琲スペシャルブレンド」を注文すると、慣れた手つきでサイフォンを操り、注文の品を供してくれた。鳥取にスタバ1号店がオープンした際には、「おいしくなければ無料」という大胆な策も打っていた自信の通り、その味は絶品。コク深さもありながら、飲み終えた後の口内に苦みは残らず、スッキリした味わいが印象的だ。

寝ぼけ眼をカフェインの力でシャキッとさせたところで、次の目的地へと向かう。
希少な海鮮を口いっぱいに頬張る
地方を訪れた際は、地のものを食べたくなるのが人の性。名物の松葉がには漁期の関係で食べられる期間が限られるものの、鳥取県の豊穣な海の幸は絶対にいただきたい。
目をつけたのは「モサエビ」だ。鮮度の劣化が早く、空気に触れて半日もすると頭部が黒くなるため、地元以外ではなかなか味わえないという貴重な海鮮だという。漁港近辺の道の駅に立ち寄り、モサエビとアマエビの2種がドームのように贅沢に敷き詰められたメニューを頼む。

届いた丼がこれだ。使いつくされた表現だが、エビの身のきらめきが宝石のように美しい……。
甘エビを大きくしたような見た目のモサエビを一匹箸にとり、醤油をつけ、口に運ぶと……弾力のあるプリッとした歯ざわりで、噛みしめていくと次第にねっとりとした甲殻類独特の旨味が口中に広がる。丼にはまだまだモサエビ、アマエビがたっぷり残っている。つまり、まだこの一連を何十回も楽しめるわけだ。なんて贅沢な食事だろうか。
海の幸だけでなく……
鳥取県のグルメというと、どうしたって日本海に面した豊富な海の幸が頭に浮かぶ。しかし、実はそれだけではない。県民に長く愛されている代表的なご当地グルメが牛骨ラーメンだ。

レンゲを手に取り、スープを口に運ぶ。大阪名物の「肉吸い」のようなほっこりする味わいのなかに、牛の骨でとったダシのパンチが効いていて、気づけばレンゲがすぐに次の一杯を掬いにいってしまう。『華麗なる食卓』の監修を務めたジャーナリストの森枝卓士氏によると「牛骨スープは癖が強すぎて、スープとして御することが難しい」ため、牛骨ラーメンは全国的にも珍しいそう。日本有数の牛の生産地である鳥取県ならではのローカルグルメといえるだろう。
車の運転がなんとも穏やか
美味しい食事を求めながら、鳥取県を移動しているなかで気づいたことがある。
鳥取県を走る車の運転の穏やかさだ。日中に県道、高速道路を走っていると、スピードを出し過ぎている車も見当たらなければ、交通渋滞もほとんどない。
実際に鳥取県は交通事故発生件数が全国でもトップクラスに少ない。普段運転に慣れていない人にとっても、比較的安心して車移動ができる地域といえるだろう。都市部のような渋滞や人の往来に悩まされることなく、スムーズに観光地を巡れるのは鳥取県の知られざる魅力の一つかもしれない。
忘れられない思い出ができる宿
鼻がきく人々の間では鳥取県への観光需要がすでに高まっている。実際、コロナ禍を迎えるまで、外国人観光客の数は右肩上がりに年々増加していたのだ。とはいえ、近年、有名観光地で話題に上るオーバーツーリズムの問題はほとんど感じられなかった。実際、平均的なビジネスホテルの宿泊費を東京都と比較すると、東京都で1泊あたり約1~2万円の客室タイプが、鳥取県では約6000円~1万円ほど。宿泊費を抑えられるのは旅行者にとってなんともありがたい。
ただ、鳥取観光の思い出をより印象深いものにしようとすれば、さらなる宿泊先の選択肢もある。
まず、おすすめしたいのが県内有数の観光スポットである鳥取砂丘からほど近くにあるグランピング施設「グランドーム 砂優」だ。

ドーム内には冷暖房が完備されており、快適このうえない。さらに、飲み物はソフトドリンク、アルコールともにフリードリンク。

そして、なんといっても忘れてはならないのがグランピングの醍醐味であるBBQ。食材は施設の方が持ってきてくれ、備え付けのガスグリルで調理ができる。火起こしの手間がなく、アウトドア初心者にとってはなんともありがたい。

たっぷり飲食を堪能した後、ほろ酔いで外を眺めると……信じられないほど美しい星空! 鳥取県は全国星空継続観察で何度も日本一に輝いており、都市部では絶対に見ることができない美しい景色に思わず息を呑む。
「これは一生忘れられない体験だ……」

グランド―ム砂優を運営する「ヤマタ鳥取砂丘ステイション」支配人の藤原拓さんによると、2024年4月のオープン当初は関西圏の宿泊客が中心だったが、ここ最近は国外の方も増えてきたという。一度泊まったら誰かに自慢せずにはいられない施設なだけに、きっと魅力が口コミで広がっているのだろうと想像する。
また、春にはドーム周辺に桜が咲くのだとか。いったいどれほどの絶景だろうか。
取材中、鳥取県西部の境港エリアを訪れた際に宿泊した「和荘むくげ」も忘れられない宿の一つ。

1日一組のみが宿泊できるゲストハウス。数寄屋造りの風情ある日本家屋は海外ドラマのロケ地として採用されたこともあるそう。

品よく広々とした室内は、“羽を伸ばす”という慣用句がぴったりだ。

「お客様には『本物』を味わってほしいという気持ちがあって、特に木にはこだわっているんです。桐、桜、欅、黒柿、クスノキ……。ゆっくり過ごしていただいて、そういった日本の伝統文化の美しさなどにも気づいてもらえたら嬉しいですね」
そう語るのは、オーナーの澁山哲三郎さん。たしかに室内を見やると、随所にこだわりが感じられる。

「国内外のお客様に日本の文化を堪能して欲しいんです。ここを癒しの場として、鳥取県境港を楽しんでいただいて、『よかったなぁ』と思って帰ってもらう。それが私の使命なんですね」(澁山哲三郎さん)
このゆったりとした思いやりにこそ、鳥取県の魅力が集約されているのではないだろうか……そう思いながらフカフカの布団に横たわった。喧騒とは無縁の世界で身も心も芯からリフレッシュしたのは言うまでもない。
新鮮な海の幸、ローカルグルメ、魅力的な宿……余裕ある時間と空間の中で、贅沢な旅を満喫できる場所。落ち着いた時間のなかで豊かな体験を楽しみたい人にとって、なんともたまらない観光先が鳥取県。帰路の途中、早々に結論付けた。

なお、現在鳥取県では、大阪・関西万博に併せて、300を超える観光コンテンツで県全体をテーマパークに見立てた観光誘客プログラムを展開中。また、4月13日からは、デジタルスタンプラリーやSNS投稿等で県産品が当たる「絶対! とっとりキャンペーン」を実施する。
写真=深野未季/文藝春秋
国内外で人気の高い、水木しげる、谷口ジロー、青山剛昌を始め、多くの漫画家を輩出してきた鳥取県。
鳥取県には、有名な観光スポットや食、特産品をはじめ
世界に誇る地場産業、鳥取特有の自然環境や伝統文化など、まだまだ知られていない魅力が盛りたくさん!
ぜひ、この機会に「まだ見ぬ、鳥取の魅力」を探してみませんか?

