三井住友銀行は2025年5月、新たな法人向け総合金融サービス「Trunk(トランク)」をリリースした。このサービスは特に中小企業をターゲットにしたデジタル総合サービスとして注目を集めている。今回は三井住友銀行の福留朗裕頭取に、中小企業支援に力を入れる理由や「Trunk」への思い、そして自身のキャリアについて話を聞いた。
聞き手●村井弦(「文藝春秋PLUS」編集長)
三井住友銀行が中小企業をサポートする理由
―― 2023年4月に頭取となられ、2年半余りが経ちましたが、今のお気持ちはいかがでしょうか。
福留 「世の中がえらく変わってきたな」と思います。就任当時は、それまで日本の経済がしばらく低迷していたこともあって、成長ドライバーをずっと海外に求めていました。けれども、私はもうそうではないと思い始めていて、これからは国内だ、国内は宝の山だ、と一所懸命言っていたんですが、周囲からは「少子高齢化の日本でそんなに明るい話になるはずがないだろう」と批判されることもありました。
けれどもその後、世の中は大きく変わり、金利のつく世界、経済のダイナミズムが戻ってきました。お客様の動きも早く、大きくなり、銀行として社会のお役に立てることが、特に国内においてすごく増えた。そういう意味ではこの2年半、非常に忙しかったと思っています。
1963年生まれ。岐阜県出身。1985年に一橋大学経済学部を卒業後、三井銀行(現三井住友銀行)に入行。ロンドン、香港、上海、ニューヨーク、トロントと計16年の海外勤務を経て、2015年に三井住友銀行常務執行役員・名古屋法人営業本部長。2018年トヨタ自動車常務役員。2023年4月より現職。
―― 2025年5月に三井住友銀行が新たにスタートした法人向けの総合金融サービス「Trunk(トランク)」ですが、改めてこのサービスについてご説明をいただけますか?
福留 これは法人用、特に中小企業をターゲットにした、デジタル総合サービスです。中小企業の社長さんはお忙しいので、なかなかお金回りのことをやっている時間がない。大企業ですと、いわゆるDX、デジタル対応をどんどん進められるのですが、中小企業ですとなかなかそういう手間もかけられない……そういう方々のための「早くて、安くて、信頼性の高いデジタルサービス」が「Trunk」なんです。
―― お客様からはどのような反響がありましたか?
福留 非常に手応えを感じています。47都道府県全てのお客様に口座を作っていただきました。今までサービスが届かなかった私どもの拠点のない都道府県のお客様にも作っていただいたのも大きいですし、高校生の方や、あるいは創業100年を超えるような老舗企業の方からも申し込みをいただいています。実はこの辺の話は私どものHPに「Trunk ユーザーストーリー」という記事を載せています。具体的に「Trunk」を作っていただいた皆さんのインタビュー記事を、ぜひ読んでいただければと思います。
「Trunk ユーザーストーリー」
(事例紹介)のページはこちら
――これだけ多くのお客様に選ばれた理由をどのように分析されていますか。
福留 安いこと、早いこと、あとはやっぱり信頼性だと思います。このようなサービスはメガバンクの中で三井住友銀行が初めて提供させて頂いたものです。メガバンクの口座をもっているということ自体が、お客様の信用に資すると思っています。
日本経済の再成長に向けた中小企業支援の重要性
―― 中小企業にとって、「Trunk」はまさに頼れる味方というべきサービスですが、三井住友銀行が中小企業をここまで支援しようと考えている理由は何でしょうか?
福留 全国津々浦々、日本の会社の99.7%が中小企業です。日本の経済を支えるということは、中小企業をしっかりサポートするということですし、そういう形で社会に貢献し、日本の再成長にしっかりコミットしていくことを、私どものマテリアリティ(重点課題)にしています。
また、これまで我々の拠点がなかった都道府県のお客様にも、デジタルなので、今まで以上にしっかりリーチができて、サポートができる体制になったと自負しています。
―― 「Trunk」というサービスの名前も非常にユニークです。
福留 お客様の事業を長い旅にたとえると、ずっと持って行っていただけるかばん(「トランク」)、使っているうちに体になじむ存在であってほしい。あとはやっぱり私どものコーポレートカラーは「緑」でございますので、「お客様の事業を支える太い木の幹」という意味も込めて、「Trunk」という名前にしました。
――「Trunk」は今後3年で30万口座の獲得を目指すそうですが、具体的には、今後どのような機能や仕組みを提供していく予定でしょうか。
福留 色々な機能がありますが、2026年の1月19日からは、請求書をスマホで撮るだけで、自動でデータに取り込み、その振り込みの予約まで全部できる、あるいはその後カードを使うと、振り込み日の繰り延べもできるという便利な機能もできました。
また、地方には色々な補助金制度がありますけども、どういう補助金が使えるかを調べることはことはお忙しい経営者にとっては相応の負担があります。そういう補助金制度もAIが全部調べてくれて「あなたの会社はこういうことができますよ」と、会社に合った制度の情報も教えてくれる。そんな機能もどんどん追加していって、より使いやすい総合的なデジタルサービス、アプリを作っていきたいと思っています。
15年連続の海外駐在で学んだ危機管理と多様性
―― 福留頭取は岐阜県のご出身で、小学校から大学に至るまでずっとスポーツをされておられたそうですね。
福留 子供の頃はサッカーとラグビーの少年団に入り、中学・高校ではバスケットボール部、大学から社会人にかけてはアイスホッケーと、すべてチームスポーツをやってきました。
―― 一橋大学をご卒業後、当時の三井銀行に入行されましたが、海外駐在をなんと15年連続で続けられたと。
福留 最初にロンドン、その後の15年間に、香港、上海、ニューヨーク、トロントの4箇所を巡りました。カルチャー、社会制度、言語、宗教、文化のそれぞれまったく違う中で、一緒に働く人たちからマネジメントを学んだことで、考え方の多様性と、柔らかい心を持てるようになったんじゃないかなと思います。
また、大きな事件としては、香港にいた1997年にアジア通貨危機を経験し、その10年後に今度はニューヨークで世界金融危機(リーマン・ショック)を経験しました。当時私はディーリングルームで為替や金利のトレーダーをしていたのですが、驚き慌てるアメリカ人を見ながら「これ……10年前にも経験したな」というデジャブを感じていました。まさにマーク・トウェインの格言「歴史は繰り返さないが韻を踏む」を地で行く展開で、10年前の香港での経験が生きて、リーマン・ショックを落ち着いて乗り越えられたと思っています。
チームマネジメントの本質と世界を見る視点
―― 海外駐在時代、辛かったお仕事はなんでしたか?
福留 私は海外でリストラを「する方」を3回経験しているんです。1度目はアジア通貨危機、2度目は住友銀行とさくら銀行の合併、最後はリーマンショックです。いずれも海外のマネージャーとして、人を減らすために辞めてもらう人を自分で選んで、自分の責任で言い渡さないといけない。それを3回もやりました。
決して、彼らが悪いわけじゃないんです。環境のせいだったり、合併のせいだったり。「ミスター・フクトメが言うなら仕方ない」と納得して辞めてくれた方もいましたが、私よりもキャリアの長い人に辞めてもらった時は、最後別れの握手をしようとした手をはねのけられて、強い言葉を言われたこともあります。大変な時を一緒に頑張って乗り越えた人に対して、そのようなことを言い渡すというのは、とても辛い経験でした。
―― 海外で多様なバックグラウンドのメンバーをチームビルディングしていくときには、何が一番大切でしたか?
福留 当たり前かもしれませんが、ちゃんとフェアに接すること。あとはアカウンタビリティ(説明責任)、なぜこういう判断をして、なぜこうするのかを部下にきちんと説明するということですね。そして一番大事なのは、やっぱりそれぞれの国や文化をレスペクトして、そのレスペクトの姿勢を部下に分かってもらうということだったと思います。
――ほかに、仕事で達成感をお感じになるのはどんな時だったでしょう。
福留 ディーラー生活も20年近くやりましたので、チームみんなで一つの目標に向けて動いて、120%以上の力が出る瞬間を味わう時はとても楽しかったです。また、初めての国や都市に赴任する時、どんな仕事なのか、どんな人との出会いがあるか、新しいことを始める時は、いつもワクワクしています。
―― 福留さんは2018年に三井住友銀行から転籍して、最重要取引先ともいえるトヨタ自動車の常務役員とトヨタファイナンシャルサービス社長の兼務を務められたという、非常にユニークな経験もお持ちですね。
福留 たった3年3ヶ月ですが、何事にも変えがたい、非常に素晴らしい経験をさせていただきました。日本を代表するモノづくりの会社で、車という人の命を預かる製品を大量生産するというモノづくりにおけるこだわり、矜持を学べたことが一番大きかったと思います。
―― 最後に、これからの三井住友銀行は、日本にとってどのような存在でありたいと思われますでしょうか。
福留 日本の再成長にしっかりとコミットしていく、お客様と寄り添って一緒に成長していく、そういう銀行でありたいと思います。
今、日本はデフレからようやく脱却しつつあるところですが、完全に脱却しきったとはまだ言い切れません。本当に今、正念場が2年も3年も続いているんです。ここでしくじったら元に戻ってしまう。そうならないように、中小企業への支援を通して日本全体の経済成長にしっかりと貢献していきたい。そこに「Trunk」が果たす役割があると思っております。
