日本を代表する総合商社、三菱商事。そのトップである代表取締役 社長、中西勝也氏は2022年4月の就任以来、動画によるインタビューはこれが初めてだという。
中西氏が描く「三菱商事の未来ビジョン」とはどのようなものか。ビジネスの核心から、商社を志した原点、そして壮絶な海外赴任の経験まで、多岐にわたる話を伺った。
聞き手●新谷 学(文藝春秋総局長)
下町の時計店が育んだ「商売の勘」
――こういう動画のインタビューは初めてだそうで、貴重な機会を頂きありがとうございます。
中西 少し緊張してます(笑)。
――三菱商事に入社されたのは1985年ですが、元々商社を志望されていたのですか。
中西 はい。私は大阪の、いわゆる下町の商店街にある小さな小さな時計宝石店の次男坊として生まれました。両親が商売をしている店の隣が、6畳ほどのダイニング兼リビングで、食事中でもお客さんが来ると、食べるのをやめてすぐに対応する。だから今も食べるのが早いんです。
そういう中で育ちましたので、自然と商売の醍醐味というものが身についたのかもしれません。両親からも「世界を駆け巡って大きな商売をしてほしい」と言われ、どうせやるなら一番大きな仕事をしたい、という思いで三菱商事に入りました。
1960年生まれ。大阪府出身。1985年、三菱商事入社。コロンビア三菱商事、重電機輸出部、米国三菱商事、重電機輸出ユニットマネージャー、欧阿中東電力事業部部長等を経て、2016年、執行役員。19年、常務執行役員。22年4月より現職。
就任4カ月でまとめ上げた「中期経営戦略2024」
――2022年の社長就任後すぐに「中期経営戦略2024」を発表されました。その中期経営戦略で、目指した方向性、ポイントは何だったでしょうか。
中西 大きく二つあります。一つは『三菱商事の強さはなんだろうか』と改めて原点に戻って問い直すこと。我々はあらゆる分野で産業との接地面が多いのが強みですが、それは単なる事業の“集合”なのか、それとも“総合”なのか。ここにこだわりたいと思いました。私のバックグラウンドである電力のビジネスは、需要と供給の真ん中に位置し、「バリューチェーン」のつなぎの部分を担います。バリューチェーン全体が見渡せるという会社の良さを生かし、どんどん変わっていく社会課題や社会のニーズを受けてつないで『共創価値(MCSV=Mitsubishi Corporation Shared Value)の創出』をしていこうと。
もう一つは、ビジネスにも寿命があるという考え方です。社会と同じでビジネスも循環していくので、この循環、つまり新陳代謝を事業領域ごとにきちんと行っていかなければならない。先ほどの『共創価値の創出』と、この『循環型成長モデル』の二つのビジョンを柱に掲げてスタートしました。
――この中期経営戦略に関してはどのような手応えをお感じになりましたか。
中西 2022年2月にロシアのウクライナ侵攻が始まり、さらには中国の問題など、激動の外部環境でした。ちょうどコロナ禍からの経済活動再開のタイミングでもあり、需要が急増し、資源価格も高騰、これが現在のインフレのスタートにもなっていくわけですが、我々のビジネスも追い風を受け、ロケットスタートができたと思います。一方、手応えがありつつも、「本当にこれが実力なのか」という不安も持ち続けていました。
その後、25年4月に「経営戦略2027」を公表しましたが、アメリカではトランプ政権が相互関税政策を発表し、世界中が大混乱に陥ったその日でした。この時は、同時に過去最大の1兆円の自社株買いも発表しました。
――2025年4月に発表された「経営戦略2027」では、「磨く(Enhance)、変革する(Reshape)、創る(Create)」という印象的なキーワードを掲げられました。
中西 はい、最初の「MCSV」や「循環型成長モデル」という言葉はわかりにくいという社員の声も聴いて、もう少し噛み砕きました。でも、社長として「こういう会社にしたい」という戦略は変わっていません。
――まず「磨く」というのは、すべての事業を磨こうということですか?
中西 最初の3年は、既存の赤字事業や成長が期待できない事業を集中的に磨いた結果、約1000億円の利益貢献がありました。この成功体験を、黒字事業も含めた全ての事業に展開していこうと。これだけ不確実な時代に新しいこと、経験のないことをやるのは勇気がいるし、失敗するリスクも高いのです。だからこそ、自信のあるエリアで、今までの事業を、足元を照らしてきちんとやるというのが、極めて大事だと思います。
――そうすると「変革する」とは、環境の変化に合わせて今までの事業の形態を変えていくということでしょうか。
中西 その通りです。たとえば、AIの登場のような環境変化に対応し、業界再編も含めて事業形態を変えていくこと。KDDIさんとのローソンの共同経営もその一環です。三菱商事が得意とする食品の物流と、パートナーのKDDIさんが得意とするデジタル情報、通信技術をかけあわせて、より高い結果を出していく。
――「創る」という点では、2026年1月に発表された、米国でのシェールガス事業への参画が過去最大規模(約1兆2000億円)の投資として注目されています。
中西 三菱商事において、LNG(液化天然ガス)事業は50年の歴史があります。今回の上流の天然ガス資源を持つことで、単なる“サプライチェーン”ではなく、それをLNGにしたり、電力に変えたり、データセンターやガスケミカル事業につないだりと、付加価値を生み出す“バリューチェーン”を構築する、それが三菱商事の総合力です。事業拡大であると同時に、日本のエネルギー安全保障という観点からも国益に資するものです。
――社長就任以来、一貫して「総合力」という言葉を重視されていますね。
中西 2023年にウォーレン・バフェット氏率いる投資会社、バークシャー・ハサウェイによる三菱商事株の保有比率が、10%を超えました。もちろんその時割安だったというのもあるでしょうが、「三菱商事のどこに惚れてくれたのか?」を考えまして、出した答えが、月並みなんですがやはり“総合力”でした。
我々は単なる事業の“集合”ではありません。先ほどのシェールガス事業を例にあげると、エネルギー、電力、化学など多様性を持った事業モデル。また、グローバルな展開、オペレーションに深く入っているということ、これらを財務力と人材力で支え“総合力”をエンジンとして未来を切り拓いていこうというのが、今打ち出している「経営戦略2027」の本質なんです。
「総合商社って何してるんですか?」
――三菱商事は、NISAの個別銘柄人気ランキングでも常に上位にランクしていて、株価も上昇傾向です。投資家からの評価や期待はどのように受け止めていますか?
中西 やはり対話を重視し、社長が何を考えているのかを直接伝えることで、より深くご理解いただきたい、というのがまず一番にあります。三菱商事とは何なのか、日本独特のユニークな概念である「総合商社」とは一体何なのか。
2022年6月、私が初めて議長として株主総会を仕切った時、ある株主の方からご質問がありました。三菱商事の株主総会に行くと言ったら、アメリカ人の友人に「総合商社って何?」と聞かれたのだが、なんと説明すればよいでしょうか? と。
びっくりして「三菱商事は色々なことをやっています。ローソンもやっていますし、エネルギーも、サーモンもやっています」とその場ではご説明しましたが、やはり、三菱商事の成長戦略や様々な取り組みを分かりやすく株主の方々に丁寧に説明する必要性を改めて感じました。これは一つのエピソードですが、私にとっては非常に刺激的なご質問でした。
――株主還元ということでは、何か方針としてお持ちのものはありますか?
中西 基本的には累進配当を掲げています。2025年度は増配に加え、1兆円の自社株買いを実施しました。こういったセットで、株主の皆様にお応えしていきたいと考えています。
――先程、ウォーレン・バフェットさんのお名前も出ましたが、バークシャー・ハサウェイとはどのようなやり取りをされているのでしょうか?
中西 バークシャーとは定期的に対話をしています。詳細は申し上げられませんが、引退されたバフェットさんの新しい後継者であるグレッグ・アベル氏は、元々電力も含めてエネルギーの開発をしてこられた方です。私が入社2~3年目に担当していた案件に、偶然彼も携わっていたというご縁もあります。協業の可能性を追求しつつ、信頼、信任をいただいているので、それが我々のすごく大きな支えになっています。
――今後の展開から目が離せませんね。

ある日突然「中西、コロンビア」…命がけの海外赴任
――せっかくの機会なので、中西さんご自身のキャリアについてもお伺いしたいと思います。1985年の入社後、1990年にコロンビア、そのあとメキシコに赴任されていますが、そういった配属はご本人の希望で決まるのでしょうか。
中西 希望は出しました。私が書いたのは「世界を駆け巡りたい。大きなことをしたい。」この2つだけだったんです。
――はい。
中西 ある日、仕事をしていたら部長が横に立ってですね、「中西、コロンビア」と(笑)。スペイン語も話せず、どんな国かも知らないまま、妻と1歳の子どもを連れて赴任しましたら、当時のコロンビアは麻薬戦争の真っ只中。テロが頻発し、「こんな国によく来たな」と思うほどの情勢でしたね。
その頃、コロンビアは電力の7割が水力発電だったんですが、エルニーニョ現象で雨が降らなくて、水不足で1日8時間の計画停電が日常でした。エレベーターもトイレも使えない、日本からの出張者も来られない。「仕事がないのに、なんで私がここにいるんでしょうか」と上司に食ってかかったこともありました。
――コロンビアの主要な産物は鉱山ですか?
中西 当時は石炭、コーヒー、あとは電力のプラントでした。そのあと中東のドバイに駐在しました。このときはイランにもサウジにも、中東にはくまなく出張していました。
――商社の仕事の面白さに目覚めたのはいつでしたか。
中西 2008年頃の、送電線事業を自分で構想して実現したときですね。オランダのパートナー企業には足しげく通いました。
――伝説になっている「0泊3日の弾丸出張」ですね。3、4年で80回という……。
中西 そうですそうです、丸の内に行くような感覚で(笑)。電話で話していて、少しでも相手の雰囲気が違うなと感じたら、「明日行くから」と伝えてすぐに飛びました。コスト的には割に合わないかもしれませんが、やはり最後は直接会って、ハートとハートで会話することが大事だと思っています。

――そうした経験をされてきた中西さんが、三菱商事の社員や、これから入社を目指す人たちに求めるものは何でしょうか。
中西 私どもの会社は、人が全てです。社員の成長が会社の成長につながると強く信じています。ビジネススキルとして目標達成志向やリーダーシップ、戦略構想力はもちろん重要ですが、それに加えて「好奇心」「洞察力」、そして「胆力」。これが一番大事だと思っています。社員には、現場で目で見て、感じて、学び、自分の意見を持つというサイクルを繰り返しながら育ってほしいと思います。
私が社長になった時、人材育成の方針として「DEAR」というキーワードを掲げました。Diversity(多彩・多才な人材)、Energize(活かす)、Accelerate(育てる)、Reward(報いる)の4つです。多様な人材が、好奇心を持って、いきいきわくわくしながら働くこと。AIなどの新しいスキルを身につけながら変化に対応し、その貢献に会社がしっかりと報いること。それが我々の大きな目標です。
――社員の人たちとはどのようにコミュニケーションされているんですか。
中西 いやもう、なかなか彼らからは来るのは大変なので(笑)自分から降りていく。20人単位でとにかくタウンホールミーティング(企業内の対話を目的とした会議・集会)をしています。あと、社内の若手を5人くらいずつ呼んで夕食会をして議論をしたりですね。
――最後に、三菱商事としてこれから社会にどのようなインパクトを与えていきたいですか。
中西 この不透明で不確実な時代の中で、どんどん変わっていく社会のニーズや社会課題を解決しながら、自社も成長していく。そして世の中のためになる事業を展開していく。そのために、我々の“総合力”をエンジンとして未来を創っていきたい。
三菱の創業の精神である『三綱領』にも通じますが、時代に合わせて変化しながら社会に貢献し、株主の皆様に応援していただき、社員も成長していく。そんな好循環で会社を経営できたら、これほどうれしいことはありません。
(実際のインタビューの模様はこちらからご覧になれます)
