オンワード樫山のレディースブランド「アンクレイヴ uncrave」は、2026年の新作として、作家・向田邦子とコラボレーションした商品を展開する。45年前、航空機事故で不慮の死を遂げた女性作家を、なぜ今ミューズとして起用したのか。「アンクレイヴ」のディレクターとデザイナーに聞いた。
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アパレルブランドが向田邦子に注目した“理由”
今年1月に南青山で開催された「アンクレイヴ」2026春・夏展示会。会場に入ると、まず目に飛び込んできたのが、若き日の向田邦子のポートレートだ。海辺に佇み、はにかんだような笑顔でこちらを振り返っている。20代、映画雑誌の編集者として働いていた頃の写真だ。
その後、向田はシナリオライターとして独立、ラジオやテレビで数々のヒット作を手がける。40代に入ると、今度はエッセイ・小説へと活動の場を広げ、1980年には「花の名前」「かわうそ」「犬小屋」で直木賞を受賞。一躍人気作家となった。しかしその翌年8月、台湾旅行中の向田邦子は航空機事故で帰らぬ人となる。享年51。
いまでも若い世代に読み継がれている向田邦子だが、なぜいまアパレルブランドが注目したのか……。
「craveというのは、英語で“欲する”。その否定形uncraveですので、“むやみに欲しがらない”という意味の造語です。自分なりのこだわりを持って、むやみに欲しがらないアンクレイヴな大人の女性たちに、これさえあればいいと思ってもらえる服をつくる。それがわたしたちのブランドコンセプトです」
そう説明してくれたのはアンクレイヴのディレクター今井嘉希さんだ。
ブランドとして7年目を迎え、リブランディングに取り組む今井さんの課題は「自分たちが思い描くアンクレイヴな女性たちにどのようなアプローチができるのか」だった。
「ファッションという枠を超えて、文化的な発信、企画ができないだろうかと考えていたときに、デザイナーの牧田から出てきたのが向田邦子さんの名前でした。働く女性の先駆けであり、知的で自立した女性であり、しかも衣食住すべてにこだわりを持つ。向田さんこそ、アンクレイヴな女性たちのアイコンになりうるのではないか、と」
アメリカ製の黒い水着が欲しくて、3カ月分の給料をつぎ込んだ
タレントやモデルをブランドのアイコンに起用するということはあっても、作家に白羽の矢を立てるというのはめずらしい。企画を提案したアンクレイヴのデザイナー・牧田佳奈さんにその経緯を聞いた。
「きっかけは、たまたま目にした向田さんの若き日の水着姿の写真でした。エッセイを読むと、アメリカ製の黒い水着が欲しくて、倹約に倹約を重ね、3カ月分の給料をつぎ込んでやっと手に入れたというんです。気に入ったものを手に入れるためには、どんな苦労も厭わない。逆に、気に入らないものは絶対に身に着けない。向田さんのそういうところにはまりました。その“向田さんらしさ”をかたちにしてみたいと思ったんです」
牧田さんからの提案をうけて、スタッフで改めて向田邦子を追いかけ始めたところ、全員がその魅力にどんどんはまってしまったという。
ディレクターの今井さんも、向田邦子の作品や言葉に触れていくなかで、アンクレイヴとの共感性、親和性がどんどん強まっていくのを感じていた。
「チャレンジングではあるけれど、“アンクレイヴな人”というキーワードに合致するのは、向田さんをおいて他にはいない。そう確信しました。心配なのは、向田ファンの方たちにどのように受け止められるか、です。うわべだけの表現ではなく、向田さんの生き方、その精神というものをブランドとしてきちんと表現しなければいけない。そして、向田さんの功績をいまのアンクレイヴのユーザーに伝えるものでなければいけないと考えています」
古びない強さと確かさが伝わってくる向田邦子の“おしゃれの流儀”
妹・和子さんの協力を得て、展示会の会場には向田邦子のプライベートな写真とともに詳細な年譜や直筆の原稿、愛用の品、著書の数々が展示され、その51年の足跡を辿れる構成になっていた。洋服とともに、向田邦子の世界を実感してもらおうというのだ。
2026春・夏は、素材・ディテールにこだわった向田の仕事着へのオマージュ『勝負服』、お気に入りだったプルオーバーシャツをヒントにした『お気に入り』、黒い服に凝っていたという若き日の向田から発想した『黒ちゃん』、コラボのきっかけになった『水着』、この4つのアイテムで新作を展開する。
「丈感とかボリューム感はいまのファッションにあわせても遜色のないようにしました。今日的にアップデートした向田邦子さんへのオマージュです」(デザイナー牧田さん)
作品と同様に、古びない強さと確かさが伝わってくる向田邦子の“おしゃれの流儀”。それをアンクレイヴがどのように表現するのか。4月1日~7日まで伊勢丹新宿店に登場するポップアップショップ【向田邦子 没後45周年 ISETAN特別展示】「uncraveな人=向田 邦子」特別POP UP STOREで確かめることができる。
INFORMATION
オンワード樫山 〈uncrave(アンクレイヴ)〉の公式サイトはこちら。
https://uncrave.net/
【向田邦子 没後45周年 ISETAN特別展示】
「uncraveな人=向田 邦子」特別POP UP STORE詳細はこちら
https://uncrave.net/news/26sspopup-isetan
4/1(水)~4/7(火) 10:00~20:00 東京都新宿区新宿3-14-1
伊勢丹新宿本館2F(センターパーク)ステージ#2/繋がりの場
TEL.03-3352-1111(伊勢丹新宿店代表)
SPECIAL THANKS:向田和子
協力:日本文藝家協会/かごしま近代文学館/実践女子大学図書館
