働いて働いて働いて……それでも、税や社会保険料、そして物価高という社会の枠組みによって給料が吸い取られ、一向に手取りが増えない。こうした個人の努力が報われない構造が、日本経済に“失われた30年”という停滞をもたらしてきた。

 この社会的な閉塞感を、組織の力ではなく“個人の生き方”の変革によって突破することはできないか。そうした試みを牽引するのが、神奈川県鎌倉市に本社を置くハッピーカーズの創業者、新佛千治氏(54)だ。中古車買取のフランチャイズ(ボランタリーチェーン)を独自に展開するハッピーカーズは「無店舗」「無在庫」「ロイヤリティなし」を特徴とし、業界で異彩を放つ存在となっている。

 ハッピーカーズが提示する働き方の選択肢は、停滞した社会に何をもたらそうとしているのか。新佛氏に話を聞いた。

なぜ、雇用では幸せになれないのか

——今年でハッピーカーズは創業10周年とのこと、おめでとうございます。創業以来、業績は右肩上がりを続け、2025年12月期には総売上60億円を突破されました。加盟店は日本全国で150店を超えるそうですが、変化は感じますか。

新佛 ありがとうございます。10周年にもなると、加盟店オーナーの年齢層は20〜60代とかなり幅広くなりました。最近は30〜40代の子育て世代が増えていますし、20代の第二新卒世代も頑張っています。

——加盟店を運営しているのは、雇われた社員ではなく、それぞれが開業したオーナーですよね。なぜこういった形を取っているのでしょうか?

新佛 私は、雇用という形では一緒に働く仲間を幸せにしづらいのではないかと思っています。そう思うようになったのは、ハッピーカーズを創業するよりもずっと以前、広告の制作会社を経営していた2000年代のことです。

 当時はリクルート社との取引が中心で、仕事の量もありましたが、思うように従業員の手取りを増やせないことに悩んでいました。経営者としては結構な額を増やしたつもりでも、税や社会保険料も増えるので、従業員の手元に残る額はほとんど変わらなかったり……かといって、クライアントへの価格転嫁は難しい。従業員が幸せな人生を描けるほどの手取りを支払うのは至難の業だと思い知りました。

——「幸せな人生を描ける手取り」ですか。いくらぐらいなんでしょう。

新佛 例えば相対的には高所得な年収2000万円も、手取りにすれば1000万円台前半です。そこから東京都内で、家族4人が快適に住める広さの住宅で、さらに教育費もと考えると、実際のところ豊かとはなかなか言いがたいのが現状ではないでしょうか。 

——たしかに2025年の国立成育医療研究センターの試算では、子ども1人を高校卒業まで育てるだけで約2170万円が必要とされています。また、いわゆる“老後2000万円問題”も記憶に新しいですよね。

新佛 にもかかわらず、世界的に見て給与水準の低迷が続いている日本では、雇われたままではなかなか報われない。やはり働く一人ひとりが豊かさを獲得していくには、“働き方の再設計”という考え方が必要だと考えたんです。

 とはいえ起業はハードルが高い。そこでフランチャイズでの独立開業という第三の選択肢によって、一人でも多くの人に“機会”を提供したいと考え、ハッピーカーズを創業しました。

——不躾な質問ですが、加盟店オーナーの年収はどれぐらいですか?

新佛 加盟から5年以上のオーナーも増え、安定して年収1000万円超の方もかなりの割合でいると聞いています。先日の創業10周年の記念パーティでは、多くのオーナーから「収入が上がった」「人生が豊かになった」と喜びの言葉をいただきました。

 “失われた30年”と呼ばれる経済停滞やデフレの中で、多くの日本企業が安売り競争に陥りました。これでは年収が上がらなくて当然です。だからといって、日本の国際競争力が給与水準の低さに支えられていたなんて考えたくありません。

 もちろん加盟店オーナーは事業主として働いているので、会社員とは働き方が全く異なります。それでも彼らの手取りを増やし、“人生を変えるためのきっかけ”を提供できたという事実は私たちの誇りです。

 一般的に車の買取業務は中古車販売店が兼務するが、ハッピーカーズは買取のみに特化している。仕入れた車はプロ向け市場に即日直送すれば、概ね1週間以内に資金を回収できるという。つまり、資金回転率が極めて優れているため、毎日の黒字が維持されやすく、手持ち資金の効率を最大化できるというわけだ。

 

 目先の車1台から暴利を貪ることなく、適正な買取価格を提示できる構造は、車の売却希望者だけではなく、加盟店オーナーからも支持を集めている。

——オーナーさんたちの変化はいかがですか。

新佛 ハッピーカーズを始めたばかりの頃に比べると見違えるほどキラキラしている方もいます。こうした変化は、加盟店オーナーが実現した“3つの自由”に由来しています。

新佛 千治(株式会社ハッピーカーズ代表取締役)
1972年、広島県出身。マドラ出版、リクルートを経て独立後、2005年にディスティネイションクリエイティブを設立。2016年にハッピーカーズを設立し、現在では売上63億円(2025年12月期)、加盟店数160店規模へと成長

 まず、出張中古車買取は時間に縛られにくい事業なので、加盟店オーナーは“時間”の自由を獲得しやすい。また、自分の頑張りに応じた収入を得られるので、“経済”の自由も実現できます。こうした2つの自由が、3つめの“生き方”の自由につながるのです。

 ただ、お金だけでは人は豊かさを感じることはできません。さらに必要なのは、相手からの承認——つまり、商品だけではなく自分自身が認められ、感謝される経験です。お客様からの自分自身への承認を励みとして生き生きと働くことで、自信や成長につながり、より大きな感謝が生まれる。こうしたサイクルの中にいるからこそ、ハッピーカーズの加盟店オーナーはキラキラして見えるのだと思います。

成功の鍵は“ちょっとしたハッピー”

——一方で、中古車買取そのものにあまり良いイメージを持っていないという人も多いかと思います。ハッピーカーズの加盟店オーナーは、なぜユーザーから感謝されるのでしょうか?

新佛 以前は私も不思議に思っていました。私は未経験からこの業界に飛び込んで、当初は個人で中古車買取を手がけていたのですが、数多くある中古車買取の事業者の中から私に「車を売りたい」と声をかけていただけるうえに、感謝までされるので意外だったんです。

 そこで詳しく話を訊いていくと、これまでに車を売った経験のある方の多くが、難癖をつけて値切る“買いたたき”や、他社の査定を断らせるための偽りの見積もり、あるいは引き取り後の減額など、不誠実な取引にショックを受けていたことが分かりました。

 であれば私は、普通に、誠実に、真摯に、顧客と向き合っていこう。この人に売って良かったなと思っていただけるよう“ちょっとしたハッピー”を提供しよう、と意識しました。

——“ちょっとしたハッピー”とは具体的にどういったことでしょうか。できるだけ高い買取価格を提示するとか?

新佛 それも一つの表現ですね。しかし、車を売却されるユーザーは、必ずしも金額だけで売却先の決断に至るわけではありません。

一番は、ユーザーに「なんか良かったな」と思っていただくこと。例えば名義変更をきちんとやって報告するという当たり前のことをするだけでも喜んでもらえます。適正価格の土台さえしっかりしていれば、他の部分で“ちょっとしたハッピー”は提供できるのです。

——お話を伺っていると、“ちょっとしたハッピー”は難しいことではないように思えてきます。

新佛 そうですね。本来であれば車の買取とは、まっすぐな感謝を受け取れる素晴らしい仕事です。思いもよらない価格で愛車が評価されたときの嬉しさは、車を売ったことのある方ならわかると思います。

 しかしながら、かつてニュースでも大手中古車店の不正が大々的に取り上げられたように、店舗賃料、在庫回転率、人件費など様々なコストがのしかかる中で、利益獲得を焦って不正に走る業者、あるいは従業員は後を絶ちませんでした。そのせいで業界の信用が大きく毀損したことも事実です。

 だからこそハッピーカーズは「無店舗」「無在庫」「ロイヤリティなし」といった、出張に特化しながらコストに圧迫されないビジネスモデルを提供することで、きちんと顧客と向き合える、信頼される中古車買取の加盟店オーナーを募ろうと決めたのです。

 創業以来、ハッピーカーズはフランチャイズチェーン(FC)として組織を拡げてきたが、2月19日、フランチャイズをベースとしたボランタリーチェーン(VC)に移行すると発表。本部が加盟店を統括するピラミッド構造のFCに対し、加盟店同士の連携に本部が伴走するVCは自律分散型のフラット構造だ。

——VCは地域密着を活かした業態で広く採用されていますが、FCに比べると知名度は高くありません。なぜVCへ移行したのでしょうか?

新佛 実は、ハッピーカーズの組織形態は従来からVCに近いものでした。マニュアルに基づいて本部が指導するだけではなく、加盟店オーナーそれぞれの創意工夫をコンテンツとして流通させることで、ハッピーカーズのネットワークチェーンが加盟店にとっての新しい価値を創造しているからです。ですから既存のVCではなく、ハッピーカーズ独自のFCの進化形と捉えていただければと思います。

社会の循環を書き換えるエコシステムへ

——では、ハッピーカーズのVC本部はどういった役割を担うのでしょうか。

新佛 本部の機能は大きく3つあり、1つはナレッジの共有基盤です。加盟店の成功体験はオーナーの個性に応じて異なりますが、それらが本部にナレッジとして蓄積されているので、加盟店オーナーが壁にぶつかったときも、解決策が組織内で見つかります。

 とりわけ中古車買取は地域性に左右されるので、解決策のバリエーションが重要です。例えば首都圏のターミナル駅周辺と地方の単線の駅周辺では、走っている車の量も質も好みもぜんぜん違いますよね。単なるマーケットの大きさだけでなく、地域性に合わせたデータとノウハウの量は、ナレッジの質に直結します。地域性に合わせた“ハッピーの循環”の実現に、全国150店舗以上のネットワークが活かされているのです。

 2つめには、仲間づくりを促進する役割です。研修会や相談会など本部が主催するイベントは、ナレッジ共有だけでなく加盟店オーナー同士の親睦を意図しています。集客が上手くいかないとき、あるいは貴重な元手を投じた広告が失敗に終わったとき、誰にも相談できずに孤立してしまうオーナーを生みたくないからです。

 3つめの役割は、ブランドの認知度向上です。ハッピーカーズのブランドは加盟店オーナーの活動を通じて培われており、まずは実際に関わった人とその周辺に認知されることが基本です。そこに加えて本部が大規模な広告を担うことで、“ハッピーの循環”の外にいる人にもブランドを伝えることができます。ハッピーカーズを知らないで損をする人をなくしていくということに注力しています。

 最近では電通さんやADKさんと一緒に、地上波テレビ番組への積極的な露出を実現。TVerでも、ミラノ・コルティナ冬季五輪のコンテンツにCMを流しました。これら全てが加盟店利益の最大化につながっていきます。

——広告を打つことで、さらに加盟店オーナーが増えることにつながりそうです。ただ、それに連れて、ブランドにぶれが生じる心配はありませんか。

新佛 いえ、そうした心配はありません。たしかにハッピーカーズのメディア露出が増えると、加盟の問い合わせ件数も増加します。ただ、最後まで残り、加盟を決断するのは、ハッピーカーズの理念に合う人たちです。独自の考え方でお金儲けに突き進みたい人は、自然な流れで他の道を選ぶようです。

 この流れが生まれるのは、加盟の最終審査までに、いくつかの審査基準や複数回の面談を設けているからです。感謝されるよりもお金を優先する人が仲間に加わることによるブランドバリューの毀損を避け、“ハッピーの循環”の持続可能性を高めるためです。

 今後、ハッピーカーズは社会の循環を書き換えるきっかけになるエコシステムとして機能させたいと思っています。一人ひとりの可能性を広げ、社会に少しでも独自の価値を提供していきたい。何より働く人がハッピーになれば、日本はもっと豊かになるはずですから。 

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