人生という旅における最高のパートナーとなるビジネスバッグ・トラベルケースを中心に製造・販売しているサムソナイト。そのプレミアムブランドであるサムソナイト・ブラックレーベルの銀座店が1周年を迎えたことを記念し、変化の激しい現代を生きるビジネスパーソンへのヒントになるような特別イベントが開催された。
テーマは、「AI時代に、言語学はどう役立つか?」。ゲストには、日本大学教授で認知言語学を専門とする町田章さん、作家・YouTuberで「ゆる言語学ラジオ」の聞き手を務める堀元見さん、そして同チャンネルで話し手を務める編集者の水野太貴さんを迎えた。
生成AIが言語の壁を取り払いつつある現代において、人間が自ら「言語」を学ぶ意味とは――。アジア最大級の規模を誇るサムソナイト・ブラックレーベル銀座店を舞台に、3氏が議論を交わした。
「言語学者は、必要ないかもしれない(笑)」
――町田先生は2023年に『AI時代に言語学の存在の意味はあるのか?』という本を出されています。この問いに対して、現在はどのようにお考えですか。
町田章さん(以下、町田) AIがやっていることは、ある意味で言語学者がやっている仕事なんです。ある構文や表現をどう適切に使うか、私たちは一生懸命研究していますが、AIはいつの間にかそれができてしまっている。できているからこそ、ちゃんとしゃべれているわけです。その意味では、言語学者の仕事を彼らに完全に奪われているという感じもあります。
その一方で、彼らは言語の特徴や構造、パターンを学習するわけですが、そもそも言語になぜそんな特徴があるのか。その特徴は人間が作っているので、私たち言語学者が「どうして今の言語にはこういう特徴があるのか」を研究することには意義があると思っています。
――「ゆる言語学ラジオ」のお二人は、「AI時代に言語学者は不要になるのか」という問いに対して、どのようにお考えですか。
堀元見さん(以下、堀元) AI時代というか、言語学者はずっと不要だったんじゃないでしょうか。必要だったときってありますか? 僕、生きていて「危ねえ! 言語学者がいてよかった」と思ったことが人生で1回もないので。
町田 あえて言うなら、必要ないかもしれないですね(笑)。
堀元 ああ、認められてしまった。
水野太貴さん(以下、水野) イベント終わっちゃう(笑)。
町田 もともとは、未開の言語を記述しなければいけないという側面がありました。その記述する側面もAIが上手だという話なので、ちょっとやばいんですけどね。でもそれと同時に、なぜ人間はしゃべれるのに他の生き物はしゃべれないのか、という問題はやっぱり知的好奇心として知りたいですよね。
堀元 それは僕もそう思うんですよね。学問って必要かどうかでやるものじゃないじゃないですか。なので、この問いは特に意味がないということで、扱わなくていいんじゃないかなと思いました(笑)。
水野 X(旧Twitter)とかを見ていると、「お前は日本語が読めてない」と言い合っている人たちがいますよね。言語学者がいなくなると、そういうときの「日本語が読めているとは何なのか」とか、私たちが使っている日本語とは何なのかを研究する人がいなくなってしまう。
テキストコミュニケーションが増えた現代で、そこで何が行われているのかを問うのも言語学者の問いの射程に入っていますし、AIに指示を出すのもテキストベースですから、貢献することはあるんじゃないかなと思います。言語学が世界に貢献することは、120個くらい浮かびますけど、とりあえずこの辺にしておきます。
堀元 ほんとかよ(笑)。
――町田先生は、著書の中で「言語学者は絶滅危惧種か?」という問いも立てられていました。
町田 先ほど言ったように、AIは言語データの中にあるパターンや構造を発見するのはすごく得意です。だからこそ、彼らはしゃべれている。でも、何を発見しているかが全然分からないんです。例えば彼らは受け身文を使うときの条件をちゃんと発見していて、上手に受け身文を使いますが、「どういうときに受け身文を使ったらいいのか」ということは何も教えてくれない。それは知らなくてはいけないところです。
1970年生まれ。群馬県草津温泉出身。長野県短期大学准教授、広島大学大学院人間社会科学研究科・総合科学部国際共創学科准教授を経て現職。専門は認知言語学。文春新書より『AI時代になぜ英語を学ぶのか』、他の著書に『AI時代に言語学の存在の意味はあるのか?』(ひつじ書房)など
そこで今、日本では「インシリコ言語学」というものがスタートしています。インシリコというのは、シリコン、つまり機械の中で何が起こっているかを研究するということです。
堀元 へえー、面白い!
町田 言語学者は脳内で何が起こっているかを研究していても、脳を切って見ることはできませんでした。もしAIが人間の認知能力をある程度シミュレーションしたものなのであれば、AIの中身を見れば分かるだろう、ということで、AIの中で何が行われているかを研究しようという動きです。
堀元 脳は解剖できないけど、AIなら気楽に調べられますもんね。
町田 そうです。例えば、私たちは同じ坂道でも「上り坂」と言ったり「下り坂」と言ったりできますよね。画像生成AIでも、同じ場面を違う表現で指示すると生成される画像が少し違う、ということがあれば、AIはある程度、言葉の微妙なニュアンスを理解している可能性があるわけです。その違いをAIがどこまで分かっているのか、研究できるかもしれません。
AI翻訳はどこまで“完璧”になる?
――続いてのテーマは「AIの進化で、外国語学習はどうなるか」です。AIと外国語学習の親和性や棲み分けについて、どうお考えでしょうか。
堀元 AIの翻訳はとんでもない速さでうまくなっているので、英語学習はいらないんじゃないでしょうか。このペースでいったら、3年後とかにはタイムラグなく英語に翻訳してくれると思うので、僕はそれまで海外に行かず、乏しい英語力のまま生きていこうという気持ちです。
水野 明確に反対です。例えば、文構造が真逆の言語、SVO言語とOVS言語の人が会話するとき、どうやってリアルタイムで理解するんですか! 日本語は最後に否定が来ますよね。
堀元 それもAIは論調や文脈から予測して、適切に翻訳できると思います。全く問題なく、タイムラグなしでコミュニケーションできるはずです!
水野 間違えたらどうするんですか。
堀元 いいじゃないですか、別に。人間より上位の存在が間違えている分には、「ははは、すいません! 僕が悪かったです」というだけです。
水野 お前みたいなやつが、Xの自動翻訳で他の国の人とケンカしてるんだよ。
堀元 最近よく見ますね(笑)。
水野 トランプ大統領が「自分は核兵器を使う最後の一人だ(the last one)」と言ったとき、英語では「決してしない」という逆の意味なのに、直訳されて炎上したことがありました。そういう翻訳のニュアンスを間違えて、とんでもないことになる可能性はありますよね。
町田 私は、人間の方がテクノロジーに寄る部分と、テクノロジーの方が人間に寄る部分があって、ちょうどいいところに落ち着くのではないかと考えています。車という移動手段があるけれど、近くに行くのにいちいち車には乗らないですよね。歩く楽しみもあるし、そもそも面倒くさい。それと同じで、AI翻訳をうまく利用して深いことをやる時もあれば、自分の言葉でしゃべって楽しむ場面もある。共存する社会になるのではないでしょうか。
水野 おっしゃる通りだと思います。ただ、人間側も話し方の規範が変わる気はしますね。AIが翻訳しやすいように、長くしゃべらずに区切って話すとか。人間社会に車が登場して運動が減り、生活習慣病が生まれたように、一度はディスコミュニケーションが生まれるとは思います。
町田 そうですね。人間の言葉自体が、AIの翻訳に合わせて変わっていく側面はあると思います。LINEやメールでも、文字だけだから絵文字を使うなど、人間は工夫しますから。有機的にバランスを取りながら決まっていくのでしょう。
堀元 今、ギークな人たちの間で、音声入力の精度が上がったのでタイピングをやめて全て音声で入力しようというムーブメントがあるんです。そういう人たちは、誤変換を避けるために同音異義語をひたすら避けてしゃべります。
1992年生まれ。北海道出身。慶應義塾大学理工学部卒。専攻は情報工学。作家とYouTuberのハイブリッドで、知的ふざけコンテンツを作り散らかしている。YouTubeチャンネル「ゆる言語学ラジオ」で聞き手を務める。著書に『読むだけでグングン頭が良くなる下ネタ大全』(新潮社)、『教養悪口本』(光文社)など
具体的には、僕が自社のボットの「改修」作業をしたいときは、「回収」と誤変換されてしまわないよう「改造」と言うようにしています。この話がドラスティックに進むと、将来的に同音異義語が減っていく、というような変化も起こるのかなと思っています。
水野 それは面白いですね。同音異義語を避ける圧力は元々あって、例えば「化学」を「科学」と区別するために「ばけがく」と言ったりしますが、それがもっと加速するかもしれない。
堀元 いつもの「ゆる言語学ラジオ」になってしまった(笑)。町田先生、これどうお考えですか。
町田 外国人の人や子どもに話すとき、私たちは自然に言葉を変えますよね。それと同じように、AI翻訳を使うときは、それに合わせるように話してしまうのではないでしょうか。
堀元 人間側から機械が扱いやすいように歩み寄っていくのだとすれば、僕はやはり数年後にはAIで即時翻訳ができるようになると思っています。
――AIが登場したことで、今後の外国語学習はどのように変わっていくと思われますか。
町田 目的がすごく多様化すると思います。コミュニケーションをしたい人は、AIを使ってどんどん練習すればいい。今まではネイティブの相手がいなければできなかったことが、今は無料でできる時代ですから。英作文の修正もやってくれるので、英語力がどんどん伸びていく人もいるでしょう。
その一方で、「自分はコミュニケーションはいいや」という人は、その人たちなりに外国語を勉強して得るものがある。言葉って面白いですから、その面白さを味わうだけでもいいと思うんです。
堀元 将棋の世界と似ていますね。完全に人間よりAIの方が強いからといって、人間がやる意味がないわけではない。強さの頂点はAIに譲り、人間なりの取り組み自体が面白いという趣味の領域になっている。英語も、もはやコミュニケーションの道具という側面が薄れて、趣味っぽくなるのかもしれません。
水野 同じ言語をしゃべると、急に距離が縮まるという感覚はありますよね。だから、仲良くなりたい人の言語を勉強するという動機は、これから強くなるかもしれません。ノンフィクション作家の高野秀行さんは、現地に行く前に必ずその国の言語を勉強していくそうです。そうすると、すぐに仲良くなれる。社交的な面が強調されるのかもしれませんね。
1995年生まれ。愛知県出身。名古屋大学文学部卒。専攻は言語学。出版社で編集者として勤務するかたわら、YouTube、Podcastチャンネル「ゆる言語学ラジオ」で話し手を務める。2026年1月より、Podcast「神保町で会いましょう」のメインパーソナリティも担当。著書に『会話の0.2秒を言語学する』(新潮社)、『きょう、ゴリラをうえたよ 愉快で深いこどものいいまちがい集』(KADOKAWA)など
町田 自分が上達していく楽しみもありますよね。語彙が足りないと思ったら語彙をやり、文法をやり、リスニングをやり……とバージョンアップしていく楽しみ。言葉自体の楽しみと、上達の楽しみ。それは趣味という話になるかもしれませんね。
生成AIを使った“ズル”の特徴は……
――ビジネスパーソンがAIを使いこなすためには、どんな思想や心構えが必要でしょうか。
堀元 AIがうまく動かないと文句を言っている人は、適切な情報を与えられていないだけのケースがほとんどだと思います。人間は発話するとき、顔つきや話し方など、膨大な背景情報を持っていますが、それを与えていないからAIがうまく動かない。僕は、自分の個人情報を全てAIに明け渡してみるという実験をしたのですが、20万字くらいの僕に関する情報があると、AIはほぼ全て適切に指示をこなしてくれます。
町田 今はプロンプトが重要だと言われていますが、それもだんだんいらなくなってくると思います。AIも学習しますし、今までは私たちが分かりきっていることも、背景情報がないからいちいち教えてあげなければいけなかった。でも、これからは分かりきっていることは分かるようになってくるはずです。
――大学でも、AIを利用する学生は増えていると感じますか。
町田 AIを使ってズルをする学生はもちろんいますし、逆に伸びる学生もいます。今まで先生が教えなければいけなかったこと、例えば英作文の添削やコミュニケーションの相手、リーディングで分からない構文の解説など、全部AIがやってくれる。それを上手に使いこなして英語力をどんどん伸ばしている学生がいるんです。
その一方で、全部AIに任せて自分は何もしない学生もいる。まるで、ものすごくいい専属の家庭教師がついて、あまりに優秀すぎて全部代わりにやってもらっているような状況ですね。家庭教師を使って伸びるタイプと、任せきりにして何もしないタイプに分かれるのでしょう。
水野 ある大学の先生に聞いたのですが、英語力が低い人と高い人で、AIの使い方が全然違うそうです。英語力が低い学生は、日本語で指示して全部AIに書かせ、そのまま提出する。すると、自分のレベルでは知らない単語を使っていたり、間違いに気づかなかったりする。
一方、英語ができる学生は、「この形容詞を使っているが、もっと洗練された表現はないか」というように、具体的な問いを立てる。そうすると、自分の力にAIのブーストがかかって、どんどん英語力が上がっていく。そうやって英語力がある人はどんどん伸び、ない人はそのまま、という格差が生まれているそうです。
堀元 AIの学びでありがたいのは、目的から始められることだと思うんです。「空はどうして青いの?」と聞いて、「レイリー散乱によるものだよ」と返ってきたら、「レイリー散乱って何?」と聞く。これを繰り返せば、空が青い理由に近づける。従来は、分厚い光学の本を読んで、いつになったら本題にたどり着くんだと挫折していた。順番が逆になったのは、かなり大きいですよね。
――ちなみに、AIを使ってズルをする学生は、見て分かるものですか。
町田 やっぱり、良すぎますよね。日本人くささがない、完璧すぎる英語なので。普段の実力とかを考えると……。
堀元 辛辣だ(笑)。

水野 生成AIが書いた英語にだけやたら出てくる、普通は使わない単語というのも一時期ありました。例えば“delve into”(探求する)とか。AIが自然科学系の論文を大量に学習しているからだと言われています。
堀元 日本語でもありますね。「効く」という言葉。例えば「論拠としてこれを挙げると効く」みたいな言い方は、人間はあまりしません。それを見ると一撃でAIだと分かります。
水野 「いい質問ですね」とか「ほかに質問は? 」とかもそうですね。
町田 ちなみに、本当に賢くズルをする学生は、「日本人の中学生が書いたくらいのレベルで書いて」と指示するそうです。
堀元 うまい、それだ! 完璧なプロンプトを教わりましたね(笑)。
――最後に、言語学を学ぶこと、言葉のしくみを知ることは、ビジネスパーソンに必要な「自分の言葉で伝える力」にどうつながると思いますか。
水野 ぶっちゃけあんまない気がするんですよね。言語学をやって仕事に生きたなって思う瞬間がないわけではないんですけど、それは別に言語学に限らない。肩透かしみたいな態度で申し訳ないんですけど。
堀元 僕は文章を書く仕事で「は」「が」「を」のどれを使うか迷ったときに選ぶ助けになったりはしてるんで、そういうレベルの役立ちはみんなありそう。 プロンプトを書くときにも役立ちそうな気がします。
水野 たしかに。悪文、つまり多義性が生まれてしまう文というのは、構造を考えるとどこを直せば曖昧さが消えるか分かります。頭の中で、曖昧性が生まれない文に整理するときには、言語学の知見が生きていると思います。
町田 私は、言葉はある種の物の見方や思考法に影響を及ぼす、と考えています。日本語をしっかり使っていると、日本語的な物の見方や考え方が身につき、日本社会の中ではうまくやっていける。でも、それが全てではなく、他の言語を話す人たちは全く違う見方をしている。その違いに気づけることは、とても大切です。異文化理解につながりますし、翻って自分がどんな思考の傾向にあるかに気づくこと、つまり自己理解にもつながります。
お金が稼げるとか出世できるとかではなく、言葉を学び、言語学的な視点で言葉を深く見る眼差しを持つと、人生がより豊かになるのではないでしょうか。
アジア最大級のフラッグシップストア
今回のイベント会場となった「サムソナイト・ブラックレーベル銀座店」は、ブラックレーベルとしてアジア最大級の規模を誇る、国内初のフラッグシップストアだ。2025年6月にオープンし、1周年を迎えた。

禅の精神をモチーフにした和のコンセプトで作られた店の中央には「ZEN GARDEN」と呼ばれる庭が設けられているほか、サムソナイト・ジャパンが展開するブランドのフルラインナップが揃う。トラベルからビジネス、カジュアルバッグまで、全ブランドの商品を一度に見て回れる国内唯一の店舗だという。
天然シボが引き立つ、銀座店限定のブリーフケース
店内では、銀座店だけの特別なアイテムも展開されている。モダンなデザインが特徴のブリーフケース「HOXTON」からは、洗練された限定モデルが登場した。
素材には、仏国老舗タンナーが手掛ける高級レザーを採用。柔らかくふっくらとした天然シボの風合いが引き立つシンプルなデザインで、使い込むほどにしなやかさが増す逸品だ。
来店予約サービスで、じっくり選ぶ贅沢を
多様な商品ラインナップに思わず迷ってしまいそう、という人には、パーソナルな接客が受けられる来店予約サービスも便利。スタッフが丁寧にアテンドしてくれるため、自分のスタイルに合う商品をじっくり相談しながら選べる。
253平方メートルという広い売り場面積に、全ブランドの商品がずらりと並ぶ空間。銀座の喧騒から少し離れたこの場所で、ZEN GARDENを眺めながら旅の道具を選ぶ体験そのものが、すでに旅のはじまりといえるかもしれない。
INFORMATION
■店舗情報
サムソナイト・ブラックレーベル銀座店
東京都中央区銀座三丁目4番12号 文祥堂銀座ビル1階
TEL 03-6263-2099
提供/サムソナイト・ジャパン