2013年、わずか3名で創業したGA technologiesが「第二創業期」を宣言した。不動産×テクノロジーを軸に急成長を遂げた同社は、組織が揺れた経験を糧に、社員1万人規模を見据えたカルチャーと仕組みの構築に全力を注ぐ。創業者であり代表取締役社長執行役員CEOの樋口龍氏と、経営戦略研究の第一人者として自らも不動産金融の実務に携わってきた田中道昭教授。AI時代における組織論の核心を、二人が徹底的に語り合った。

樋口 当社グループはAI不動産投資サービス「RENOSY(リノシー)」と不動産会社の契約・更新手続きをデジタル化するクラウドサービス「ITANDI(イタンジ)」を二大事業とする会社です。RENOSYは不動産投資を手軽でスピーディーにするサービスです。不動産による資産形成を、もっと身近なものにしたいと考えています。「世界を前進させる」がパーパスで、不動産や金融はそこに入っていない。テクノロジーで最も変えられる余地がある領域として不動産を選んだというのが原点です。

田中 組織が大きくなると、リーダーシップとマネジメントという概念が重要になります。リーダーシップは性善説に立ち人を自律的に動かす。マネジメントは性悪説に立ち仕組みで組織を動かす。規模が大きくなったらトップはリーダーシップのウェイトを上げ、マネジメントはある程度任せていく。その辺りはどうでしょうか。

樋口 当社ではそこに「ビジネスリーダーシップ」という第三の概念を加えています。リーダーシップは「人への責任」、マネジメントは「仕組みと再現性」、そしてビジネスリーダーシップは「事業をゼロから生み出す責任」です。私自身が営業出身で、営業出身の経営者はリーダーシップ型になりがちです。その結果、マネジメントとビジネスリーダーシップが弱くなり、再現性のある組織が作れない。3つすべてが大事だと社内で定義することで、タイプの違う人間が互いの仕事を「無駄だ」と切り捨てる摩擦もなくせます。人が増えれば増えるほど解釈がずれるため、言語化して揃えることが今の最優先事項です。

「GA technologiesのカルチャー作りに全力を注いでいます」
樋口 龍(ひぐち・りょう)
1982年生まれ。小学1年からサッカーを始め、強豪・帝京高校卒業後にJリーグ・ジェフユナイテッド市原・千葉の育成選手として活躍。24歳で怪我により引退し、不動産会社での営業職を経て2013年3月にGA technologiesを設立、代表取締役社長執行役員CEOに就任。「世界を前進させる」をパーパスに掲げ、不動産テック企業として日本・米国などで事業を拡大。グループ社員数約2,000人を率い、売上1兆円・社員1万人規模の組織を見据えた「第二創業期」を牽引する。

田中 そこにビジネスリーダーシップという概念を加えているのは非常に面白い。樋口社長の特徴は3つとも優れていることで、セルフリーダーシップが非常に強いと思います。自分をマネージして、臨機応変にその割合を変えることができているのは、そうとう珍しいですね。通常、スタートアップで上場を果たしても時価総額が数百億円で止まってしまうのは、リーダーシップは強いがマネジメントを任せられないからです。

樋口 当社はそのときにいる人材によって、組織のフォーメーションを事業部ごとに作り直します。

強い組織の設計図

田中 パーパス、ミッション、バリューについても聞かせてください。定義をきちんと理解している会社の人はほとんどいない。パーパスやミッションは会社の存在意義や使命で現在進行形、ビジョンは未来の姿。そして本当に難しいのがバリューです。サイトに何と書いてあるかではなく、究極の状況に置かれたとき社員が何を信じて意思決定しているか、それが本当のバリューです。

樋口 カルチャーづくりに全力を注いでいます。例外なくグローバルな会社はカルチャーが強い。世界的な企業には圧倒的なカルチャーがある。これまでM&Aを重ねてきたので各社のカルチャーを尊重してきましたが、当社グループとして1つのカルチャーに束ねていくことが急務です。直近でも役員と外部講師を交えて「パーパス・ミッション研修」を1日がかりで実施しました。AIが普及して、サービスの使いやすさや見た目では差がつかなくなってきました。最終的な差別化はカルチャーと人です。だからこそこのAI時代に、あえて人への投資を増やしているんです。

田中 カルチャーというのはむしろ最低限の共通項です。個性的で尖った人材を集めつつ、その多様性を活かすためにこそバリューとカルチャーが重要です。大企業病に陥らないためには「ディスアグリー・アンド・コミット」──異議を唱えることを奨励しながら、決定したら全員でコミットするカルチャーが欠かせない。心理的安全性が担保されている組織でこそイノベーションが起きる。そうでない会社は成長が止まります。

「異議は奨励し決定したらコミットする」
田中道昭(たなか・みちあき)
日本工業大学大学院技術経営研究科教授。シカゴ大学MBA。三菱東京UFJ銀行(現・三菱UFJ銀行)などを経て現職。GAFA・BATHをはじめとするプラットフォーム企業の経営戦略研究の第一人者として知られ、最新刊『フィジカルAIの衝撃』(朝日新聞出版)、『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』(日本経済新聞出版)など著書多数。自らも不動産金融の実務経験を持ち、数カ国で不動産ファイナンスに携わった。複数企業の社外取締役も務める実践的経営論者として、経営者・投資家から広く信頼を集める。

挫折が経営の原点だ

樋口 パーパスに則って「どの意見が正しいか」を判断できる軸を今作っている最中です。「ここが正義だ」という共通の尺度があれば、顔と名前が一致しない規模になっても意思決定がぶれません。

ファーストリテイリングの柳井正さんが提唱されている「会社が3倍になるプロセスでは組織や仕組みを抜本的に変えなければならない」という法則を知り、非常に腹落ちしました。当社は上場3年後に初めて下方修正を経験しましたが、ちょうど社員数が1000人規模へと急拡大するタイミングで、これまでのマネジメントや組織体制が通用しなくなるという大きな壁に直面しました。その経験が原点です。今は社員数約2000人ですが、1万人に耐えうる組織を今のうちに作っておかないと、3倍になってから動いても遅い。だから「第二創業期」と言っています。

田中 経営者なら時価総額や利益を口にするのが普通ですが、樋口さんが優れているのは組織作りの重要性を理解している点です。それは失敗からの学びがあるからでしょうか。

樋口 24歳でサッカー選手の夢を諦めざるを得なかったとき、人生が終わったと感じました。しかし絶望の中で孫正義さんの本に出会い、「ビジネスで世界を目指そう」と思った瞬間に次の目標が決まりました。プロになれなかったのには理由がある。その分析が今の経営に直結しています。

「世界を前進させる」。その言葉を今度こそ現実にしてみせます。


GA technologies
東京都港区六本木3-2-1
住友不動産
六本木グランドタワー40階
https://www.ga-tech.co.jp/

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提供:GA technologies

photo : Miki Fukano / text : Kenichiro Ishii / design : Haruka Noda