建築業界の常識を打ち破り、「総合インフラサービス」企業として進むインフロニア・ホールディングス。その核となるビジネスモデルは「請負×脱請負」だ。これまでの建設業の枠にとらわれず、インフラの運営までを一気通貫で手がけることで、新たな価値を創造する。金融の知見を武器に業界に変革をもたらす同社CEOの岐部一誠氏が、その経営哲学の原点と未来への展望を語る。
聞き手●村井 弦(文藝春秋PLUS編集長)

ものを作ることがゴールではない

――まず、インフロニア・ホールディングスとはどういう会社なのか、簡単にご説明いただけますか。

岐部一誠氏(以下、岐部) インフロニア・ホールディングスは2021年10月1日に発足した新しい会社ですが、ここに至るまでの経緯からご説明したほうが分かりやすいかと思います。今から25年ほど前の2000年頃、私は前田建設の総合企画部という戦略を企画する部門におり、当時から日本の建設市場はゆくゆくは縮小していくだろうと考えていました。その中で前田建設がどうやって生き残っていくかが最大のテーマだったのです。

 そこで参考にしたのが、先に市場変革が起きたアメリカやヨーロッパの市場でした。特にヨーロッパのトップクラスの建設会社は、ものを作ることだけではなく、プロジェクトに出資し、運営(オペレーション)まで行ってバリューを上げ、年金ファンドなどに売却するというモデルを確立しようとしていました。ものを作ることをゴールにしている日本のゼネコンのモデルは、いずれ立ち行かなくなるのではないか。私も、いずれ日本にもこういうマーケットができるに違いないという仮説を立て、準備を進めてきました。

岐部一誠|インフロニア・ホールディングス代表執行役社長 兼 CEO
1961年生まれ、長崎県出身。熊本大学工学部土木工学科を卒業後、86年、前田建設に入社。現場施工、営業担当を経て経営企画部門へ異動。2021年、前田建設の専務執行役員としてインフロニア・ホールディングス設立を主導し、10月、設立とともに同社社長に就任。

 すると2011年にPFI法が改正され、また再生可能エネルギーの固定価格買取制度に関する法律もでき、日本にもいよいよそういうマーケットができそうだと。そこから10年かけて手応えが生まれたので、このホールディングスを設立し、M&Aも行いながら、工事をやるだけではない、インフラを総合的に一気通貫でサービスできる会社を目指している、ということになります。

――現在のホールディングスの体制について教えていただけますか。

岐部 インフロニア・ホールディングスを持株会社として、その傘下に前田建設、前田道路、前田製作所、日本風力開発、三井住友建設、水ingという会社が兄弟として並んでいる構造です。

隈研吾設計の「IGアリーナ」を運営

――インフロニア・ホールディングスのお仕事として、隈研吾さんが設計された愛知の「IGアリーナ」の運営を担っていると伺いました。従来の建設会社は「建てる」ことがメインの仕事というイメージですが、運営まで手がけるのはなぜでしょうか。

岐部 公共がサービスするインフラには2つの種類があると考えています。1つは道路や上下水道のように、運営を進化させてコストを下げていくことが大事なもの。もう1つは、今はあまり価値があると思われていない体育館のようなものを新しいモデルに変え、その地域に特有の価値を生むものです。

「IGアリーナ」は、まさに後者です。これまでの愛知県体育館という、いわゆる体育館だったものを、地域に新しいにぎわいを呼び起こすような価値を生むアリーナにするため、設計から建設、そして運営までを一気通貫でやるというモデルになっています。

IGアリーナ

――建築業の枠を超え、インフラに関わる様々なことを手がける企業になっているということですね。

岐部 もう少し説明すると、これまでの建設会社であれば、新しい価値というのは発注者や設計者が作り、我々はそれを作ることがゴールでした。しかし、「IGアリーナ」のようなプロジェクトでは、新しい価値を目指すということを私たちが考え、その運営を良くするために設計と建設をやる、というふうに順番やポジションが入れ替わっているのです。

――様々な企業と連携して施設の付加価値を上げているとも伺いました。

岐部 アリーナを活性化させ、地域の人たちに喜んでもらうためには、通信インフラがものすごく大事でした。今のビジネスモデルの収入源は配信サービスだからです。1万7000人規模の来場者が一斉に通信ネットワークへ接続し、インスタグラムやXに投稿できる環境が必要になります。ですから、このアリーナのコンソーシアムを考えるとき、最初に通信会社とパートナーを組むことが戦略の第一歩となり、NTTドコモと一緒に運営しています。

――新国立競技場(MUFGスタジアム)の運営も手がけているそうですね。

岐部 新国立競技場は、元々は国が運営・維持管理を担っており、2020年度には約9億円の赤字が出ていました。これを入札するにあたり、これもNTTドコモと一緒に、マイナス9億円を逆に毎年プラス17億円にする、つまり合計で26億円のバリューを30年間上げ続けるというモデルを提案し、我々が運営権を獲得しました。東京という街の魅力、そして多くのインバウンドの方々が来られる中で、そこで催されるイベントにはものすごい価値がある。それをどうやって皆でシェアしていくか、ということだと考えています。

新国立競技場。2026年より「MUFGスタジアム」の呼称となった。

社会問題をいかに解決していくか

――インフラというと、国や自治体が運営するものだというイメージがありました。民間がインフラサービスを担うことには、どのようなメリットがあるのでしょうか。

岐部 官か民かという二項対立的な発想は、ある意味で日本的、アジア的なものです。大事なのは、誰がやれば一番バリューを上げられるか、ということです。日本の今の制度では、国や自治体は単年度会計なので、未来に向けての投資が大変やりづらい。また、毎年の数字に追われるため、コストを下げたりバリューを上げたりするインセンティブが立場上あまり働きません。民間がやったほうが、投資をして大きくコストを下げ、長期的な未来に向けてバリューを上げていく取り組みができるのです。

――民間が持つ経営的な視点やノウハウが重要だということですね。

岐部 そうです。例えば「レバレッジ」、つまり小さい投資で大きな効果を生むという発想は民間では普通のことですが、行政的な立場ではなかなかそうなりづらい。これは能力の問題ではなく、立場の問題です。私たちが手がけるインフラ事業には、道路や上下水道のようにまだまだコストを下げられるものと、アリーナやスタジアムのようにこれまで価値を上げることに注力されてこなかったものの2種類がありますが、インフロニア・ホールディングスはこの両方を担っていける能力を、M&Aを通じて作ってきました。

 

――国や自治体だけでは解決できない社会問題を、インフロニア・ホールディングスが解決していく、という解釈もできますね。

岐部 おっしゃるとおりです。日本は長期的には人口が減り、GDPもなかなか上がらない。そうした中で社会がより豊かになっていくために、私たちがどう社会と関わっていくかが大きなテーマになります。

「請負×脱請負」というキーワード

――インフロニア・ホールディングスが掲げるキーワードに「請負×脱請負」というものがあります。一見すると反対の言葉が並んでいますが、これはどういう考え方なのでしょうか。

岐部 分かりやすく二項対立的に並べていますが、私の中では請負と脱請負は一体化しています。「請負」とは、ここでは工事をやることがゴールである、という意味です。一方、「脱請負」は工事だけではない、その上流側や下流側で大きな価値を生み出せる、という意味です。

 請負事業をやめてしまうわけでは決してありません。請負事業で技術を磨き、その研鑽が「脱請負」と呼んでいる部分の競争力や、社会のための価値を生む源泉になる。この2つが両輪となり、相互に循環しているのです。インフラに投資をしようとすると総合商社やデベロッパーと競争になりますが、私たちの差別化要因は、工事の技術力、コストを下げる能力があるという点です。

――このビジネスモデルは、ヨーロッパではすでに成立しているそうですね。

岐部 25年ほど前に世界のマーケットを研究したとき、ヨーロッパのトップクラスのゼネコンは、すでにこのモデルを実践していました。EUができて国境がボーダーレスになると、先進国の建設会社はコスト面で中進国の会社に勝てなくなりました。そこで彼らが考えたのが、工事をすること以外の部分で付加価値を生み出していくことだったのです。

 

――事業のサプライチェーンにおける利益構造はどのようになっているのでしょうか。

岐部 製造業でよく言われる「スマイルカーブ」と同じで、サプライチェーンの中では、ものづくり、つまり工事の現場の部分が利益率では底辺になります。やはり利益の作り込みは、上流側と下流側のほうが付加価値を付けやすい。これは建設業でも同じことが言えます。

 これまでのゼネコンと発注者の関係は、勝つか負けるか、食うか食われるか、という構造になりがちでした。そうなると、結果的に利用者の目線、税金を使っているインフラであれば国民の目線がどうしても抜けがちになります。しかし、私たちのモデルは「三方よし」の精神を外すと成立しません。誰か一人が勝とうという発想ではなく、みんながハッピーになるにはどうすればいいか、という発想が重要になります。

土木工学から経営の道へ

――生み出されたエクイティは再投資に活用されているそうですね。

岐部 ヨーロッパやオーストラリアで進められている「資本のリサイクル」というモデルです。民間がインフラの運営権を自治体から買い、収益を上げ、それを年金ファンドなどに売却して新たな利益を得る。その利益がまた次の投資や年金の収益になるという、お金がぐるりと回るモデルです。日本ではまだ完全にはできていませんが、インフロニア・ホールディングスのグループ内では、再生可能エネルギー事業などで開発、出資、売却、そして次の投資へ、というキャピタルリサイクルを実践しています。

――お話を伺っていると、岐部社長は金融的な発想から日本のインフラビジネスを捉えておられる、いわゆるゼネコンの社長としては異例の視点をお持ちだと感じます。どのようなご経歴を歩んでこられたのでしょうか。

 

岐部 私は元々、大学で土木工学を学び、現場でものづくりがしたくてゼネコンに入りました。強い希望もあって10年間ほどはヘルメットをかぶって現場監督のようなことをやっていました。その後、営業部門や経営企画部門に移り、会社全体の経営や建設業界のあり方に興味が湧きました。

 先ほどお話ししたように欧米のマーケットを研究する中で、建設会社がプロジェクトごとに大きな投資銀行と組んで事業を獲得・運営しているモデルを見たとき、「これは一社でできるんじゃないか」と新たな仮説を立てたのです。そして2014年に、当時も今も世界で最もインフラに投資しているオーストラリアのマッコーリー※という会社と合弁会社を作り、金融の勉強をさせていただいたのが大きいですね。
※マッコーリーグループ:オーストラリアを本拠とするグローバル金融グループ。 再生可能エネルギーをはじめとするインフラや資源分野で強みを持ち、世界でインフラ事業に投資・ 管理・運営し、市場を牽引している。2013年に、インフロニアグループである前田建設とともに日本におけるインフラ事業推進のための合弁会社・前田マッコーリーキャピタルを設立した。

「既成概念を突破する」会社

――様々なステークホルダーへの還元も重要視されているそうですね。

岐部 株主の皆様に対しては、配当性向40%以上ということを発表し、きちんと成長しながら還元していくことを明確にしています。また、従業員に対しては、情報の格差をなくすために取締役会の議事録を公開したり、純利益の4%を全従業員に株式で分配したりといった取り組みも行っています。そして、持ち合い株のようなものは、事業への投資とリターンの循環を明確にするため、2027年度末までに政策保有株をゼロにすることを宣言しました。

――インフロニア・ホールディングスを、どのような会社にしていきたいですか。

岐部 一言で言えば、「既成概念を突破する」会社です。既成概念にチャレンジし、それを突破していくことが私たちの最大の価値だと考えています。失敗を恐れずにチャレンジする、そういう風土の会社になりたいですね。

――最後に、今後の展望をお聞かせください。

岐部 会社の売上や株式の価値を上げることがゴールではなく、社会にいかに価値を生み出していくか。それを私たちはインフラというものを通じてどう実現していくか。このことを全グループ社員が真剣に考え、成し遂げていけば、新しいビジネスモデルの会社になっていけると思っています。社会の役に立った結果として利益が出るのではなく、社会にどう関わり貢献していくかをまず考える。結果として利益がついてくればいい、という順番で考えていきたいです。

インフロニア5周年記念サイト

※このインタビューは、2026年8月4日に行われました。実際のインタビューの内容はこちらからご覧いただけます。