戸建て住宅や賃貸住宅を手がけるハウスメーカーとして知られている大和ハウス工業。だが、実はグループ全体の売上高では、商業施設や事業用施設といったtoB領域が約半分を占める“総合企業”でもある。
その大和ハウスグループがいま注力しているのが、既存の建物をよみがえらせる不動産ストック事業「ビズ・リブネス(BIZ Livness)」だ。日本の“住まい”を長年支えてきた同社が、「再生と循環」をキーワードとする新たな事業で目指すものとは。リブネス事業統括部長を務める井上富重氏に、事業の全貌を聞いた。
造語「リブネス」に込めた意味
――大和ハウスグループの強みはどこにあるとお考えですか。
井上富重氏(以下、井上) 創業者の「何をしたら儲かるかではなく、世の中が求めることを考えて事を起こせ」という教えが、大和ハウスのイズムの根幹にあります。それに加えて、住宅メーカー、ゼネコン、そしてデベロッパーという3つの顔を持って事業を展開していること。この“三刀流”があるからこそ、今日お話しするリブネス事業も、お客様・社会・大和ハウスグループの“三方よし”につながる事業として進められると思っています。
――そもそも「リブネス」とはどのような事業なのでしょうか。
井上 「リブネス」は「Live(生きる)」と、当社のシンボルマークである「Endless Heart」の語尾から採った「ness」を組み合わせた造語です。2018年にスタートした事業で、住宅・賃貸住宅・マンションの再生を中心に、仲介・買取販売・リノベーション・賃料といった領域をカバーしています。それを事業用建物、商業施設や物流倉庫などの「BIZ(ビジネス)」分野へと広げたのが「ビズ・リブネス」です。一言で表せば、「既存建物をもう一度活躍させるためによみがえらせる事業」ですね。
1983年、大和ハウス工業に入社。奈良支店に配属された後、京都支店を経て、2009年から奈良支店長に就任。2023年に東京本社建築事業本部の常務理事・建築事業統括部長を経て、2025年より現職に就任
――なぜ今、この事業が注目されているのでしょうか。
井上 背景にあるのは社会構造の変化です。少子高齢化が進み、建築資材の高騰、職方不足、そして物流コストの上昇など、新築一辺倒のビジネスモデルは難しくなってきています。それだけでなく、解体費も高騰していて、建物を壊すだけでもかなりのコストがかかる。そこで、その費用を付加価値を高めることに充てられないか、という発想が生まれてきました。
既存の建物を活かして再生することで、新築よりもコストを抑えられ、工期も短縮できる。通常の建築事業では企画から完成まで約2年かかりますが、「ビズ・リブネス」は平均8〜9カ月で完結しています。
潜在マーケットは「日本全国に17万棟以上」
――具体的にはどのような再生事例があるのでしょうか。
井上 ホームセンターを複合商業施設にコンバージョンした例があります。基本的な構造はそのまま活かしつつ、耐震補強や安全性向上のための改修を施し、内外装ともに新築と見まがうほどの品質に仕上げました。ホームセンターには大型エレベーターが備わっていることが多く、これが商業施設としても非常に有効に機能するのです。
また、もともとスポーツクラブだった築30年の建物をホテルとして再生した例もあります。プールが付いていて、私も最初は「これはスクラップアンドビルドしかないか」と思っていたのですが、グループ会社がそれを見事にホテルへと生まれ変わらせた。プールだった空間は砂浜風のラウンジにリデザインされていて、一見するとビーチのような雰囲気になっています。
他にも長野・駒ヶ根の工場を物流倉庫に転換した事例や、川崎の旧社屋を複数の企業が入居できるマルチ型賃貸オフィスにコンバージョンした事例など、用途を大きく変える再生も増えています。
――新築に見える仕上がりというのは、技術的にどのようなことをやっているのですか。
井上 古いものを新しく見せるのはもちろん、あえてアンティーク風に仕上げる手法もあります。きれいに塗り直してしまうだけでなく、経年の風合いをうまくアレンジしながら、古さを感じさせずに新築のように見せる。そういったデザイン力が、我々の差別化の一つになっていると思います。
――潜在的な需要はどのくらいあるのでしょうか。
井上 1981年6月に施行された新耐震基準に適合する築20年以上の商業施設・店舗だけでも、全国で約9万5000棟存在します。さらに、物流倉庫も約7万7000棟。これらが「ビズ・リブネス」の潜在マーケットです。
我々は25年前から物流施設を手がけてきましたが、当時は好立地かつ低コストで建てられた物件が多く、解体するより再生したほうが合理的と言えます。実際に「壊すにはもったいない」という相談が今、着実に増えてきています。
「建てるか、建てないか」ではなく「何が最適か」
――どのような企業からの相談が多いですか。
井上 最近特に増えているのは、「この建物を買ってほしい」という話です。生産効率の高い新工場ができたことで旧工場が不要になったが、壊すにはもったいない。あるいは大型ショッピングセンターでテナントのリース期間が満了して、オーナーが買い戻しを求めてきた、といったケースです。

就労者がいる状態で売却情報が外部に漏れると雇用不安につながりかねないので、テナントや従業員に情報が漏れないよう秘密保持契約を結んで査定・準備を進め、万全の状態で売却する仕組みも整えています。
――他社も参入するなか、大和ハウスグループが選ばれる理由はどこにあると思いますか。
井上 会長・社長からは「魂を込めろ」と言われています。単に建物を売買するのではなく、もう一度よみがえらせて市場に送り出すことにこだわっています。企業が愛着を持って育ててきた建物を「壊さないで再生します」という言葉が、託していただく決め手になることも多いです。
また、我々は建築・仲介・テナント誘致まで他社に依存せずワンストップで提供できるのも強みです。ハウジング系6社、ビジネス系7社のグループ会社が連携しており、「建てるか、建てないか」ではなく「その資産にとって何が最適か」という視点で提案できることが評価されていると感じています。
――「リブネス」「ビズ・リブネス」を合わせて、2030年代には売上高1兆円という目標を掲げていらっしゃいますね。
井上 昨年度はガイドラインとして4500億円を設定していたところ、実績は4706億円で着地しました。2026年度は5500億を目指しています。1兆円はあくまでも通過点であり、リブネス事業を当社の成長を担う中核事業へ育てていきたいと考えています。1兆円という数字は単なる売上目標ではなく、「再生と循環」を時代の成長エンジンにするという意思表示でもあります。

――今後、「リブネス」と「ビズ・リブネス」はどのように発展させていく考えですか。
井上 住宅領域の「リブネス」と事業領域の「ビズ・リブネス」を両輪として成長を目指していきます。大和ハウスの住宅系営業は“自宅へ行けるプロフェッショナル”、建築系営業は“会社へ行けるプロフェッショナル”です。この両者がうまく融合することで、個人と企業の双方にアプローチできると考えています。
さらにグループ会社を通じて、発電所の再生や上下水道・橋梁・トンネルなどインフラの補修・更新にも視野を広げています。建物だけでなく、生活に欠かせないインフラ全体を「リブネス事業」として捉えていく。そうして日本全体の不動産ストックの価値向上に貢献し、お客様・社会・大和ハウスグループの“三方よし”を実現していきたいですね。
※このインタビューは、2026年7月29日に行われました。実際のインタビューの内容はこちらからご覧いただけます。