将棋界で半世紀近くにわたりファンや棋士に愛されてきたのが、全国11地区を巡回する「将棋日本シリーズJTプロ公式戦」だ。魅力は一瞬の判断が勝負を分ける「超早指し」と、大観衆が見守るスリリングな「公開対局」。そして同日同会場で行われる「テーブルマークこども大会」も人気を集めている。

 女流棋士・香川愛生氏と協賛を続けるJT・田原光晃氏のふたりが、将棋を通じて生まれる豊かな『とき』と、JTが長年サポートを続ける理由を語りあった。

撮影 三宅史郎/文藝春秋

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 「超早指し」と「公開対局」が放つ“独特の空気感”

田原光晃(以下、田原) 一般のお客様が間近にいる公開対局は、独特の空気感を生み出していると思います。香川さんは、「将棋日本シリーズJTプロ公式戦」をどのようにご覧になっていますか。

撮影 三宅史郎/文藝春秋

香川愛生(以下、香川) その1年で最も活躍したトップ棋士12名だけが出場できる棋戦ですので、将棋ファンはもちろん、私たちプロにとっても唯一無二の特別感のある棋戦かなと考えています。

 対局の生の空気をその場で体感できるのも魅力の一つだと思っています。会場では対局者の表情、息遣い、駒の響きがそのまま伝わってきて、これだけ間近でプロの勝負をみられるなんてとても貴重ですよね。

撮影 三宅史郎/文藝春秋

田原 そこにさらに「超早指し」という時間制限が加わります。

香川 はい。持ち時間10分を使い切ったら、1手30秒未満の秒読みに追われます。すべてを読み切るのが難しいからこそ、経験や直感、そして持てる力を限界まで引き出していく姿を間近で見られるのが醍醐味です。一瞬の判断ミスが命取りになり、1手で形勢が二転三転するドラマのような大逆転が生まれます。

田原 しかも大盤解説を対局者の真横で行うのもユニークです。

香川 私も聞き手として昨年の決勝にお邪魔しましたが、とても緊張しました。普通は別室で解説するんですけど、「将棋日本シリーズJTプロ公式戦」はステージのすぐ横で話していますからね。たまに対局者の楽しいエピソードをご紹介すると、先生がフッと笑ったりして、あっ、実は聞こえているんだなと(笑)。呼吸というか空気を感じられるという場は、「将棋日本シリーズJTプロ公式戦」ならではの一番の魅力と言ってもいいと思います。

写真提供 JT

田原 舞台袖にいても、両対局者が対峙している時の緊迫した雰囲気は私たちスタッフも身が引き締まります。

香川 本当にそうですよね。また今の将棋観戦はネット配信の「AI評価値」が標準的ですが、「将棋日本シリーズJTプロ公式戦」の会場ではAI評価値が表示されません。会場全員が「今、どちらが優勢なのかな……?」と、どちらが勝つのかがわからない緊張感を体感できる。あの一体感もいいですよね。

 1980年にスタート――JTが将棋文化を支え続ける理由

田原 皆様に愛され熱狂していただける舞台を継続できることは、私たちにとっても何よりの喜びです。「将棋日本シリーズJTプロ公式戦」は、1980年に始まり今年で47回目を迎えます。

香川 どのようなきっかけで始まったのでしょうか。

田原 当時、日本将棋連盟の会長職にあった(故)大山康晴十五世名人が、「タイトル戦に匹敵する最高レベルのプロ棋士の真剣勝負を各地の将棋ファンに直接お見せしたい」と提言され、最初は「タイトル保持者で順位戦A級在籍棋士」という条件で、中原誠名人・王位、加藤一二三十段(竜王の前身タイトル)、米長邦雄棋王、大山康晴王将の4名によるトーナメントから始まりました。それが今や全国11地区を毎年巡回し、午前中に「テーブルマークこども大会」、午後に「JTプロ公式戦」を同じステージで行う特別な1日イベントになりました。

「JT公式戦」創設間もないころの大山康晴十五世名人(左)と米長邦雄棋王(右)。 写真提供 JT

香川 JTさんが本業とは直接関わりのない将棋を、事業外の活動としてここまで長く支えている背景には、どのような思いがあるのでしょうか。

田原 私たちJTグループは『心の豊かさを、もっと。』というグループパーパスを掲げています。これは、人が心豊かに生きるための『とき』を大切にし、さまざまな事業や取り組みを通じて、社会に心の豊かさを育んでいきたいという考えです。将棋はお互いに挨拶をして始まり、感想戦では勝ち負けに関係なく、お互いの指し手を振り返って尊重し合いますよね。将棋に根づいている相互尊重の姿勢は、私たちのグループパーパスが大切にする「それぞれを認め合って、高め合って過ごす『とき』」とも重なると感じています。JTは1980年から将棋文化へのサポートを続けてきましたし、これからも、将棋を楽しんでいただく特別な『とき』をお届けしていきたいと考えています。長く継続してきたこと自体が、将棋界やファンの皆様とともに歩んできた証だと考えています。

 「私も小学生の頃、出場しました」その結果は……

香川 「将棋日本シリーズJTプロ公式戦」と同じステージで行われるのが『将棋日本シリーズJTプロ公式戦』と同じステージで行われるのが『テーブルマークこども大会』です。こども大会は2001年に始まり、今年で25回目の節目を迎えました。

写真提供 JT

田原 同じ会場で「午前中に子供たちの対局を行い、その後にトッププロの公開対局を行う」という構造は、私たちが大切にしている特徴の一つです。

香川  これからプロ棋士が戦うのと同じ舞台で、同じ盤駒を使って、着物をきて対局ができる。将棋を指す子どもたちなら誰だって憧れますよね。実は私も小学生の頃、出場した経験があるんです。

田原 えっ、東京大会ですか?

香川 はい、東京大会でした。当時の私は全然勝ち上がれず早々に敗退しましたが(笑)、同世代の永瀬拓矢九段や斎藤慎太郎八段、高見泰地七段など、今大活躍している棋士たちが同じ大会に出ていました。「将棋日本シリーズJTプロ公式戦」のステージは憧れでした。

田原 それは素晴らしい思い出ですね。「テーブルマークこども大会」の優勝・準優勝経験者のうち、現在までに11名がプロ棋士となり、のちに「将棋日本シリーズJTプロ公式戦」の舞台に出場しているんです。さらに今年の「将棋日本シリーズJTプロ公式戦」に出場する12名のうち、なんと9名が「テーブルマークこども大会」参加経験者です。

香川 12名のうち9名ですか! こども大会で戦った子どもたちが棋士になり、当時憧れていた「将棋日本シリーズJTプロ公式戦」に対局者として帰ってくるなんて、感動的ですね……! 改めて両大会の意義深さが感じられます。

田原 「テーブルマークこども大会」を見ていると、負けて大泣きしている子や、会場の外の芝生で体操座りをして悔しそうにしている子など、本当にドラマがあります。しかし、その悔しさをバネに、去年は準優勝だった子が今年は決勝に出て優勝したりと、子供たちの大きな目標の大会になっています。

香川 でも負けても「エンジョイ対局コーナー」や体験コーナーが用意されていて、1日中将棋を楽しめる工夫が素晴らしいですね。あと、詰将棋クイズの景品などでもらえる限定の「駒型消しゴム」! 将棋を指す子どもたちはみんな大好きで、消しゴムが欲しくて必死にがんばる。あの藤井聡太竜王・名人もお好きだったんですよね。そういう工夫があるから、負けた子も最後は笑顔で、家族と一緒に「楽しかったね」と帰っていくことができます。また最近は女の子の参加者がすごく増えているのも嬉しい変化です。

写真提供 JT

田原 女の子の活躍は本当に目覚ましいです。これから女の子がさらに活躍する場面も増えていくと思います。さらにお子さんたちの将棋のレベル自体がものすごく高くなっていますよね。

香川 インターネットやAI、アプリの普及の影響も大きいですよね。今はネットやアプリで24時間将棋が指せる。周りに将棋友達がいなくても強くなれる。逆にリアルで人と対面して本物の盤と駒に触れて対局する機会の価値がすごく上がっていると感じます。指導対局などをしていて、アプリで鍛えて強いのに、駒の並べ方や持ち方が分からないというお子さんもたまに見かけます。アプリだと最初から駒が綺麗に並んでいますから。

田原 なるほど。それはアプリ世代ならではの現象かもしれません。

香川 そうなんです。だからこそ、こうしたリアルな会場で本物の駒で指したり、「お願いします」「ありがとうございました」と一礼をするという体験から学べるものが多いと思います。「負けました」と言うのも辛いですが、きっと子供たちの成長につながる機会になっていると思いたいです。

 心の豊かさへつながる『とき』をこれからも

田原 将棋を通じて礼儀や相手を尊重する姿勢に触れる。なにより将棋は世代を超えて親しまれています。子供たちだけでなく、応援にきている親御さんや、おじいちゃん、おばあちゃんといったご家族みんなで会場で共有していただく。週末、ご家族で会場に足を運んで過ごす時間が、小学生時代の素晴らしい思い出の1ページになっていただけたらと思います。そのような温かい「場」を提供することは、私たちが掲げる『心の豊かさを、もっと。』というグループパーパスとも重なるものだと実感します。

2025年度の「将棋日本シリーズ JTプロ公式戦」で優勝した藤井聡太竜王・名人。永瀬拓矢九段を破り、3度目の栄冠に輝いた。 写真提供 JT

香川 「将棋を応援している企業といえばJT」というイメージは、将棋界だけでなくファンの間でも深く定着しています。それは、1980年から45年以上の歳月をかけて、将棋という文化の価値を純粋に信じ、全国を巡って人と人の心を繋いできてくださったJT様のお陰であり、私たち将棋指しとしては感謝しかありません。

田原 ありがとうございます。私たちは文化支援活動として、将棋文化の振興や次世代が将棋に親しむ機会づくり、そして心豊かな『とき』につながる場を支えていきたいと考えています。こうした活動を長く続けていくことは、私たちにできる大切な役割の一つだと考えています。時代や技術がどれほど進化しようとも、人間同士が盤を挟んで直接心を通わせる瞬間の価値は、決して色褪せることはありません。デジタル化が進む今だからこそ、生身のコミュニケーションや、喜怒哀楽を共有するリアルな『とき』は、人々の心の豊かさにとってますます重要な意味を持っていくはずです。JTは、これからも将棋界の皆様、ファンの皆様とともに、将棋を楽しむ豊かな『とき』に寄り添っていきたいと思います。
 

ヘアメイク emi.y(香川愛生)