言葉を紡ぐ「文学作品」と、プロダクトとして作られる「コート」。その形は違えども、つくり手の想いは同じ。

『羅生門』や『蜘蛛の糸』といった名作で知られ、1927(昭和2)年、35歳という若さでこの世を去った文豪・芥川龍之介は、来年7月、没後100年という節目の年を迎える。

 今回の特別コラボレーションに当たって、コート専業ブランド『SANYOCOAT』はものづくりへの想いと、執筆に真剣に向き合っていた芥川龍之介を心からオマージュする気持ちを重ね合わせることで、その象徴的なプロダクトである<100年コート>の“時代を超えて残る価値”を表現したいと考えた。

 まず、始まったのは、芥川龍之介が遺した多くの作品の中から言葉を探すという地道な作業。文学としての「言葉」と、プロダクトとしての「コート」を、「100年という時間を超えて残るもの」という共通軸でつなぎ、過去から現在、そして未来へと受け継がれる価値を伝え得る力を持った言葉を集めていった。

 選者は、『蛇にピアス』で芥川賞を受賞した金原ひとみさん。『SANYOCOAT』の象徴的な商品である<100年コート>、<青森ダウン>、<レインウール>、そして『SANYOCOAT』のブランド全体という、4つのテーマに最もふさわしい言葉をセレクトし、文学とファッションにおけるものづくりの共通項を探る試みが結実した。

 芥川龍之介 (あくたがわ・りゅうのすけ) 1892(明治25)年、東京に生まれる。東京帝国大学在学中の1916(大正5)年、学友の菊池寛らと始めた第4次「新思潮」に発表された『鼻』が夏目漱石に激賞される。深刻な人生の悩みに耐えながら、ウイットとユーモアを駆使し、『羅生門』『鼻』『河童』『藪の中』『杜子春』『蜘蛛の糸』など多くの名作を遺した。小説家の登龍門である「芥川賞」にその名を留める芥川龍之介の文学は、今も多くの人々に読み継がれ、国内外で高い評価を受けている。
金原ひとみ/小説家 1983(昭和58)年、東京都生まれ。11歳で小説を書き始め、2003(平成15)年『蛇にピアス』ですばる文学賞を受賞しデビュー。翌2004(平成16)年、同作で芥川賞を受賞。現代社会を生きる人々の孤独や欲望、家族、ジェンダーなどを鋭く描き続け、国内外で高い評価を受ける。2021(令和3)年『アンソーシャル ディスタンス』で谷崎潤一郎賞、2022(令和4)年『ミーツ・ザ・ワールド』で柴田錬三郎賞、2025(令和7)年『YABUNONAKA―ヤブノナカ―』で毎日出版文化賞、2026年同作で紫式部文学賞など、数々の文学賞を受賞し、現在も精力的に執筆を続けている。

『SANYOCOAT』
芸術の域に停滞と云う事はない。進歩しなければ必退歩するのだ。
※出典:小論文「藝術その他」 『芥川龍之介随筆集』(岩波書店)

 

「止まっているとは、退歩している」——進化し続けることの厳しさを知っているからこその覚悟

「芥川龍之介の言葉は本当に隙がなくて、文章そのものが美しいですよね」と語る金原ひとみさんは、「“停滞と云う事はない”という言葉には、身が引き締まる思いがします。時代は動き続けているから、止まっているとは退歩しているということ。前に進む以外の道がないという厳しさがあります。その厳しさは、常に進化を続けている『SANYOCOAT』さんも、商品に対して持ち続けている思いなので、ぴったりな言葉だと感じて選びました」と語る。

 三陽商会のコート専業ブランド『SANYOCOAT』は、今年80周年を迎えた。その歴史は、1946(昭和21)年、コート第一号として防空暗幕を用いて紳士用の長いレインコートを販売したことに始まる。その後は、レインコート専業から総合的なコートメーカーへと発展。’63(昭和38)年には品質の安定化を図るべく、技術部門の設置と工場を設立。’69(昭和44)年には海外ブランドとの契約を機に、生産の核となる工場「サンヨーソーイング」を設立。’81(昭和56)年からは海外事業においても本格推進を図ってきた。まさに、『SANYOCOAT』の歴史は、よりよいものづくりへの進化の歴史に他ならない。

<100年コート>
打ち下ろすハンマアのリズムを聞け。
あのリズムの存する限り、藝術は永遠に滅びないであろう。

※出典:『侏儒の言葉』芥川龍之介(文藝春秋)

 

世代を超えて愛され続けるために、ほんとうにいいものをつくる

『SANYOCOAT』は、2013(平成25)年、企業タグラインとして、【TIMELESS WORK.  ほんとうにいいものをつくろう。】を策定。これを象徴する製品として、世代を超え、永く愛用してもらえるものを目指した<100年コート>を発売。

 たとえば、<100年コート>の深みのある色合いは、別々に先染めされた経糸と横糸を高密度で織った生地を使っているからこそ出せるもの。そして、突然の雨でも対応できるよう、生地そのものに高いはっ水加工が施されている。また、体になじむコートの美しい襟まわりのカーブも、外側はミシンで縫い合わせ、内側は曲線と生地の風合いを見極めながら、一針一針、職人の手縫いで作られている。

 擦り切れやすい袖口は、何度も修理できるよう、袖口からベルトまでを長めに設計し、ステッチが表に出ない仕様を採用するなど、長く愛用してもらえる工夫も施されている。

 芥川龍之介が遺した言葉が100年経った今でも輝き続けているのは、人々の心の奥にしっかり届く本物の言葉だからなのだろう。世代を超えて愛されるコートづくりのために切磋琢磨を続けてきた『SANYOCOAT』にもまた、同じように時代を超えて受け継がれる価値が息づいている。その根底にあるのは、機能と美しさを兼ね備えた「用の美」の精神だ。

 金原ひとみさんは、<100年コート>にかかる言葉を選ぶ際に、こんなことを感じたという。

「<100年コート>にかかる言葉を選ぶ時にテーマとなるのは、“100年続いていく”という継続性。そう考えると、ハンマーによって繰り返されるリズムは職人の技や手作業の継承につながり、<100年コート>にとても似合っていると思います。“打ち下ろすハンマアのリズム~”と言われると、洋服とは遠いところにあるような気もするのですが、『SANYOCOAT』のものづくりにも、人の手でしかできない仕事や受け継がれてきた技術がありますよね。そういうところにもちゃんとつながっていますし、“芸術は永遠に滅びないであろう”と言えるだけの技や心がきちんと受け継がれていく――そうした意識にもさせるものがあります」

<青森ダウン>
人生は一箱のマッチに似ている。重大に扱うのは莫迦々々(ばかばか)しい。
重大に扱わなければ危険である。
※出典:『侏儒の言葉』芥川龍之介(文藝春秋)

 

ものづくりをする人であれば、誰もが持っていなければいけない“心”

「“人生は一箱のマッチに似ている”という言葉は、何事も軽んじてはいけないという教え。ばかばかしいけれども、危険でもある、そのバランス感覚を持つことが重要だと示唆しています。芥川龍之介も、何かにつけて、“バランス”という言葉をよく使っていますが、突き詰めすぎてもいけないし、軽んじすぎてもいけないという、芥川の考え方がよくわかる言葉だと思います。

 そして、おそらく、この言葉は、ものづくりをする人であれば、誰もが持っていなければいけない“心”を表しているかと。ものを作る人は“自分が危険なものを扱っている”という認識を持たなければいけないと思うので、改めて、ものづくりに関わる一人ひとりが心の中に持っておくべき言葉だと思いました」

<青森ダウン>は、『SANYOCOAT』のものづくりを長年支えてきたコート専業の自社工場「サンヨーソーイング 青森ファクトリー」が手掛けている。『SANYOCOAT』のルーツともいうべき、クラシックコートで培った伝統の職人技と最新設備の融合によって、これまでになく機能的で美しいダウンコートが生まれている。

<青森ダウン>には、はっ水性と防風性を備えた生地が使用されているが、『SANYOCOAT』では、トルソーに<青森ダウン>を着せて20分間雨を降らせ、トルソーや衣服内部、縫い目に水漏れがないかチェックする雨傘と同様の耐漏水性試験を行っている。また、縫製の縫い目から水が侵入することを防ぐため、ダウンを熱圧着で封入することで、高い防水性を確保するだけでなく、ダウン抜けも防いでいる。

「サンヨーソーイング 青森ファクトリー」(青森県七戸町)

<レインウール>
書いている時の心もちを云うと、
拵えていると云う気より、育てていると云う気がする。

※出典:「私と創作――「煙草と悪魔」の序に代う」
 『芥川龍之介随筆集』(岩波書店)

 

自分が作っているというより、すでに存在しているものに近づいている感覚。

<レインウール>は、『SANYOCOAT』が独自に開発した高機能素材。特別な加工を施すことでウール本来のやわらかく上質な風合いはそのままに、ドライクリーニングを10回行った後も雨粒をはじく高いはっ水性を備えている。そのため、突然の雨にも対応でき、美しさと機能性を併せ持っているという。

 金原さんは、<レインウール>の言葉の選定に当たってこう話す。

「“書いている時の心もちを云うと、拵えていると云う気より、育てていると云う気がする”という言葉は、芥川龍之介が小説を書いている時の心持ちに触れている言葉で、すごくいいですね。この言葉は、私も小説を書いている時、実感としてすごくよくわかる感覚で、自分が作っているというより、何かもうすでに存在している正解みたいなものに近づいていくための行為であるというような、その感覚がぴたりと書かれていることにちょっとびっくりしたところもあって、これを選びました。たぶん、コートを生み出しているデザイナーさんのやっている仕事もこれに通じるものがあるのかもしれないと思い、選ばせていただきました」

 最後に、金原さんはこう話してくれた。

「いろいろなことがロボットやAIに変わっていく中で、“これだけはハンマーじゃないとできない”っていう手仕事は必ず残っていくと思いますし、小説もまだAIには任せられないので、私自身として背筋が伸びる言葉だなと。人の手で丁寧に紡いで出来上がる仕事は、永遠に滅びないで欲しいですし、続けて欲しいですよね。“打ち下ろすハンマアのリズムを聞け。あのリズムの存する限り、藝術は永遠に滅びないであろう。”という言葉のように、心や技がきちんと受け継がれていくことの重要性を感じました」

 ものづくりと執筆に共通するものとして、金原さんが挙げたのが「手間を惜しまない」という姿勢だ。長く書き続けるうちに技術が身につき、さらっと書けてしまう場面も増える。それでも、「小説にはあまり目立たないけれど、丁寧に向き合わなければいけない柱のような場面がある」と金原さんは言う。そこを省いてしまうと作品の根幹が崩れる——その認識は、一針一針に意味を持たせる服づくりの哲学とどこか響き合うようだ。

金原ひとみさんが着ているコート:<100年コート>極KIWAMI ダブルトレンチコート ¥264,000

<100年コート>を実際に着用した金原ひとみさんのインタビュー記事は、こちら。

全国の常設店舗(9店舗)をはじめとする『SANYOCOAT』のショップは、こちら。

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