田村淳が、クルド人などへのヘイト言説が吹き荒れる川口市を突然1人で見に行ってYouTubeに上げ、あらゆる方面から叩かれている。

 なぜ彼がこんなことをしたかと言えば、この問題を取り上げた某ネット番組に出演したところ、排外主義を掲げて戸田市議に当選した河合悠祐(都知事選の際、ポスターにほぼ裸の女性の写真を使って問題視された人物でもある)から、実際に見に行くべきだと焚きつけられたからだ。そして淳は、河合が名指しした西川口駅近辺に、夜中に1人で踏み入ったのである。

 関東に長く住んでいる人にとっては、そもそも西川口が違法風俗の街で、治安も悪かったことは常識なのでは、と私は思っていた。その後、違法店が一掃されて治安は改善されたが空き店舗が増え、家賃の安さでそこに中国人たちが店を構えて今に至る。

 しかし、動画ではそんな歴史は何も語られない。彼は夜中の繁華街で市民何組かに話を聞き、確かに「最近治安が悪くなった」という言葉を引き出したが、実害を挙げたのは外国人の酔っ払いに絡まれた女性1人のみで、治安の悪化は体感が先行している印象。通りすがりの外国人へのインタビューは買い物帰りの片言のバングラデシュ人1組だけで、話を聞く限りごく平和的な人たちだった。

 つまり全体的には、酔客でそれなりに治安は悪そうだが、ほかの街と比べて特別に危険だとも思えない、単に外国人の多い繁華街という感じ。インタビュー中、クルド人への言及は皆無に近く、苦情はない(前出のとおり西川口には中華系が多いので当然だ)。

 しかし、淳は河合やX上の人々から煽られたせいか、終始「危険」という前提で話す。だから、「緊張感みたいなのはずっと走ってます。日本人じゃない言葉が多いので」「外国の方(バングラデシュ人)に話しかけるのはやっぱすごい怖かったですけど、ふつうに受け答えしてくれました」と、動画中の発言がサファリパークみたいなノリである。

 知らない人、知らない言葉は、確かに怖い。だからといってその素朴すぎる感情を、開き直って正当化してはいけない。彼の言う「緊張感」「怖かった」の核にあるのはただの「外国人=怖い」だ。人にはそういう偏見を克服するために知性があるんじゃないの?

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source : 週刊文春 2025年7月10日号