ロシアのロマン・スタロボイト前運輸相(53)の遺体が7月7日、モスクワ郊外の公園の藪の中で発見された。傍らには拳銃が置かれ、数メートル先に、自家用車のテスラが乗り捨てられていた。警察は「自殺」と公表したが、ソ連崩壊以降、これほどの政府要人が自殺した例はなく、ロシア政界は大混乱に陥っている。

 驚くべきは、遺体発見の数時間前、プーチン大統領が、スタロボイト氏の運輸相の職を解任する大統領令に署名したばかりだったことだ。スタロボイト氏は2019年から24年まで、クルスク州の知事だった。同州はウクライナと国境を接する重要拠点。戦争開始時に知事を務めたことでプーチン氏の信頼を勝ち得て、運輸相に取り立てられた。解任の理由は発表されていないが、何があったのか。

プーチン氏の信頼が厚かったスタロボイト氏

 現地メディアで大きく取沙汰されているのは、州知事時代の横領疑惑。政府は22年から23年、クルスク州で防衛施設を建設する費用として、日本円にして約400億円を歳出した。このうち約18億円が横領された事件にスタロボイト氏が関与していた可能性が今年、浮上していたのだ。

 実際、彼の資産は膨大だ。自宅は東京ドーム1.6個分の広さの敷地で3階建て。評価額は約5億2000万円。モスクワとサンクトペテルブルクに分譲マンションを計4部屋も所有している。

 だが、ロシアでは汚職はしばしばあり、プーチン氏も半ば容認している。大統領府では22年、横領などで「更迭することはない」とのシグナルも出ていた。

 実は彼が抱える問題はそれだけではなかった。知事を退任した3カ月後、ウクライナがクルスク州を制圧したことがそれ。第二次世界大戦後、ソ連時代も含めて領土が外国に軍事制圧をされたのは初めてで、極めて屈辱的な出来事だった。

 さらにスタロボイト氏は21年に離婚、その後は25歳の若い恋人がいた。彼女には同州でビジネスを営む母親がいるが、親子共に近年、非常に煌びやかな生活を送っていた。その資金がスタロボイト氏から出ていたのではと囁かれる。

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source : 週刊文春 2025年7月24日号