2020年の国家安全維持法の導入で「中国」の介入が進み、一国二制度の形骸化が懸念される香港。高市早苗首相の「台湾有事」発言をきっかけに、中国政府が日本への旅行の自粛や航空会社の減便、留学の抑制などを打ち出したが、香港特別行政区政府も「夫唱婦随」とばかりに、北京の意向に呼応する行動を見せた。

 11月24日、香港政府の李家超長官も高市発言を「極度の誤り」と批判。香港の中学生の訪日交流プログラム参加を中止し、香港における日本の総領事館との交流を停止した。注目されたのが、香港人に、「中国人の安全を脅かす事件が頻発している」と、日本渡航に注意を呼びかけた点だ。

マンション火災の対応にも追われる李長官

 これには日本の観光業界に一瞬、緊張が走った。香港人旅行客は消費力も強く、スキーや温泉の高価なレジャーも好むためインバウンドの欠かせない対象である。もし香港人がこぞって日本に来なくなれば、中国観光客減少への追い打ちになる。

 24年、香港人の訪日客は268万人に達した。韓国、中国、台湾より数は少ないが、人口比でいえば、香港は約750万人なので、市民の3人に1人以上が1年に1度日本を訪れた計算。“日本旅行愛好度”で、香港人は世界ナンバーワンだ。

 実は今年、日本の観光業が香港人観光客の動向で大打撃を受けた前例がある。7月5日に大地震による大津波が日本を襲うという漫画家の予言がアジアに広がり、特に香港からの観光客が激減した。

 ところが、今回は、ほとんど影響らしい影響は出ていないようである。香港の旅行業者に聞くと、こんな答えが返ってきた。

「香港人は現実的です。具体的な問題も起きていないので、政府の言うことを誰も信じていません。それに人口密度が高く、仕事も忙しい香港の日常から抜け出し、日本でのんびりすることは香港人のライフスタイルの一部です。香港では日本に行くことを『返郷下』(ふるさとに帰る)というほどです」

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source : 週刊文春 2025年12月11日号