八月二十七日、午前四時三十分。小誌記者(25)はまだ陽が昇らない渋谷の街で呆然としていた。
この日より、小池百合子都知事の肝いりで開設された「東京都若者ワクチン接種センター」。都内在住・在勤・在学の十六〜三十九歳が対象で、予約は取らない形でスタート。記者は居住している自治体のワクチン接種予約が全く取れず、未だワクチンを打てていない。しかしデルタ株の蔓延によって基礎疾患のない若者の重症化は連日報じられている。藁をも掴む思いで渋谷に駆けつけたのだが、すでに三十人程度の“先客”がいたのだ。先頭の人は深夜一時過ぎから並んでいるという。
新型スマホの発売日ではない。注射のために、始発前から並ぶカジュアルな服装の若者たち。これが本当に二〇二一年の東京の光景なのだろうか。
受付は「二百名程度」。先着順なら皆“当確”のはずだが、最後尾の男性は「本当に打てるんですかね?」と半信半疑の面持ちだ。彼らの焦りと不安の混じった表情を見たら「若者はワクチンに消極的」などとは、とても言えない。
気温も上がってきた五時半。列が百人を超えた頃、都の職員が二人やってきた。行列の長さに驚いた様子の彼らにスケジュールを尋ねると「未定です」。眠気と暑さから、並んだことへの後悔がムクムクと湧き上がる。疲れた表情で寝ている人もいる。まるで「配給待ち」だ。ベビーカーを押す若い母親、中東系と思しき人もいる。
日が昇り、直射日光が降り注ぐ。この日の最高気温は三十四度。今更ギブアップするわけにもいかず、汗をぬぐいながらひたすら耐える。二重マスクが息苦しい。スタッフが「詰めて、詰めて」と呼びかけて列を整理。会話している人はほぼいないが、距離は保たれているようには見えない。
七時半頃、「本日の受付は終了です」というアナウンスが発せられる。やはり先着順で、先頭から順に一、二回目の接種日時が書かれた「接種整理券」が渡された。記者も「30番」を無事取得。これでやっと行列からは解放される……。
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source : 週刊文春 2021年9月9日号