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岸田首相 衆院選応援で違法「集団買収」

「何としても勝ち抜かせてほしい」の裏で——領収証、案内状入手

「週刊文春」編集部

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 河井元法相による買収事件を「説明が必要」と批判してきた岸田首相。衆院選では、激戦区の岸田派

女性議員の応援に入った。だが、その遊説に選挙区民が参加すると「日当5000円」が支払われ――。

「『10月22日にこんなファックスが届いたぞ。岸田首相の応援演説に行けば、5000円もらえるんだって』と知人から誘われたんです。そんなこと、今の時代にあるわけねぇべ、と思ったのですが……」

 小誌の取材にそう告白するのは、茨城県南部に拠点を置く運送業者の従業員・A氏だ。

「遊説に参加してみると、1000人近くが集まって盛り上がっていた。岸田さんも、候補者の女性の横で声を張り上げていましたね。その日、5000円をもらうことはなかったのですが、演説の数日後、実際に現金書留で5000円が届きました。ただ、私もこの選挙区の有権者です。『本当にお金をもらっていいのか……』と疑問を抱きながらも、受け取ってしまった。領収証にサインを書いて印鑑も押しました」

 そう吐露するのだった。

 岸田文雄首相の応援演説で選挙区民に支払われた5000円。これは、公職選挙法で固く禁じられた「有権者買収」ではないのか――。

「将来この茨城県を、自民党を、日本の政治を背負う人材であると確信をしています! 6区は大激戦区ですが、何としても国光文乃を勝ち抜かせて下さい!」

 10月26日の昼下がり、岸田首相は、つくば駅直結の商業施設の前でそう訴えていた。傍らで首相の熱弁を頷きながら聞いていたのは、茨城6区の候補者、国光文乃氏(42)である。

現職首相が駆け付けた(国光氏のツイッターより)

「6区は保守王国・茨城の中でも激戦区の一つ。国光氏が初当選した17年の選挙では共産党が候補者を擁立していたものの、今回は野党が一本化しました。自民党の序盤調査でも、立憲民主党の青山大人候補に0.6ポイント差まで肉薄されていたのです」(地元記者)

 ピンチの国光氏を後押ししたのが、岸田首相らの応援演説だった。

「国光氏は岸田派の所属です。首相としても絶対に落とせない選挙区だった。自ら応援に入るとともに、翌27日には今なお動員力の高い安倍晋三元首相が応援に入りました。安倍氏も激戦ぶりを強調し、『日本が世界のど真ん中で輝く国にしていくために国光文乃が必要だ』と力をこめていた。そうした最後の攻勢が効き、国光氏は約1万2000票差で2回目の当選を果たしました」(同前)

元首相も駆け付けた(国光氏のツイッターより)

 現職首相と元首相の応援で野党候補を打ち破った国光氏。どんな人物なのか。

 山口県出身で、長崎大医学部を卒業。国立病院機構東京医療センター勤務を経て、05年、厚労省に医系技官として入省した。

「夫も財務官僚です。ただ、彼女は上昇志向が強かった。自民党の政治塾に入塾して国政を目指すようになります。17年の選挙で丹羽雄哉元厚生相の地盤を継ぎ、落下傘ながら初陣を飾りました」(厚労省幹部)

“第二の豊田真由子”と報じられたこともある。

「『このハゲー!』発言の豊田氏とは、厚労省の課長を37歳で退職し、自民党の落下傘候補として38歳で初当選したという経歴が全く同じ。豊田氏の元秘書が現在、国光事務所の政策秘書を務めるという縁も。国光氏も“豪腕”で鳴らし、『厚労省ってバカの集まり。ケツ叩けば何でもやる』と口にすることもあったそうです」(同前)

事の発端は一通のファックス

 丹羽氏が宏池会(岸田派)の出身で、国光氏自身も高校時代は首相の地元・広島で過ごしたこともあり、18年6月に岸田派に入会。医師免許を持ち、総裁選中も岸田氏に自らをアピールしていたという。

「岸田氏の側近にコロナ政策を自ら提案していた。『私の案が岸田さんに採用されたのよ』などと語っていました」(政治部記者)

 他方で、国光氏は同じ広島でも“あの元大臣”とも距離が近かった。

「河井克行元法相です。当選後、河井氏が世話人だった無派閥議員の会『向日葵会』にも入会。河井氏から“氷代”や“餅代”を受け取っていました」(同前)

 実際、国光氏が代表を務める茨城県第6選挙区支部の収支報告書によれば、河井氏の小選挙区支部から18年と19年に計40万円の寄付を受けている。

「しかし、河井氏は妻・案里氏が出馬した参院広島選挙区の有権者買収事件を巡り、逮捕。今年10月、公選法違反の罪で実刑判決が確定しています」(同前)

実刑が確定した河井元法相と妻・案里氏

 自身の地元で起きた「集団買収」について、当時、政調会長だった岸田氏は、

「政治に携わる者は疑念を抱かれた以上、国民に説明するのは当然だ」

 と痛烈に批判。総裁選の出馬会見でも、河井氏を巡る政治とカネの問題についてこう強調していた。

「国民に丁寧に説明し、透明性を高めていく」

 ところが――。

 事の発端は、10月22日午前10時30分過ぎに関係者の元に届いた一通のファックス。小誌が入手したその「案内状」には、こう表題が記されていた。

〈自民党総裁 岸田文雄氏 遊説への参加協力につきまして〉

選挙区の企業に配布された案内状

 送り主は「茨城県運輸政策研究会 専務理事」。宛先は研究会傘下の石岡、土浦、常総の「関係支部長各位」となっている。

「県運輸政策研究会は、県内約1600社の運輸事業者が加盟する一般社団法人『茨城県トラック協会』が98年に設立した団体です。県内に13の支部がある。茨城6区の場合、石岡支部に石岡市と小美玉市、常総支部につくば市とつくばみらい市、土浦支部に土浦市とかすみがうら市が所属している。県トラック協会と県研究会の代表者と本部所在地は同一で、いわば、県協会の“政治部門”が県研究会。主に自民党議員に対し、高速道路料金の引き下げなどの陳情を行う組織です」(協会関係者)

 実際、県研究会は自民党茨城県連の有力支援団体だ。茨城県連の収支報告書によれば、研究会は13年からの5年間で県連に対し、計200万円を寄付している。

〈日当5,000円/人を〉

 茨城県だけではない。県研究会の上部団体にあたる「全日本トラック事業政治連盟(全ト連)」。全ト連の収支報告書によれば、15年からの5年間で自民党議員のパーティー券を6000万円以上購入。岸田氏と宏池会のパー券もそれぞれ84万円分、174万円分購入しているのだ。

 そんな自民党の有力支援団体が送付した案内状には、岸田氏の応援演説の日時と場所に加え、以下のような文言が綴られていた。

〈首題の件につきまして、推薦者である衆議院議員 国光あやの氏より別添のとおり案内が送付されております。(略)要請人員につきましては、問いませんが最大で5名以内とし、ご協力いただける範囲でご協力をお願い致します〉

 国光氏から送付されたとする〈別添〉の案内には右肩に小さく〈事務連絡〉の文字。そして〈岸田文雄/自民党総裁 来たる!!〉と大文字で強調され、演説の日時と場所が記されていた。

国光事務所から送られた「来たる!!」文書

 すなわち、衆院選の候補者である国光氏からの連絡に基づき、岸田首相の応援演説への動員を求める案内文だということだ。とはいえ、これだけであれば、単なるサクラの動員依頼に過ぎないかもしれない。

 だが、重大な問題を孕むのは、次の一文である。

〈参加者に対しまして、日当5,000円/人をお支払いさせていただきますので、別添の名簿にてご報告を頂きたく、よろしくお願い致します〉

 公職選挙法は、民主主義の健全な発達などを目的にした法律だ。同法では、選挙運動で金銭を支払うことができるのは、事前に登録したウグイス嬢など例外的な一部の選挙運動員に限ると厳格に定められている。

 総務省選挙課の担当者が補足する。

「逆に言えば、例外的な一部を除き、有権者・運動員ともに原則金銭を配ってはいけない。それが公職選挙法の趣旨です」

 今回のケースは、明らかに「例外的な一部」ではない。つまり案内状通り、実際に5000円を受け取った人物がいれば、有権者買収に当たることになるのだ。

 今年7月時点で、茨城6区内に本社を置く県協会の会員企業は200社以上。その大半が中小企業で、経営者も従業員も多くが選挙区内の有権者と見られる。そこで、小誌取材班はほぼ全ての会員企業へのアプローチを行った。

 その結果――。

 冒頭のように、A氏が小誌の取材に、岸田首相の応援演説に参加した対価として5000円を受け取ったことを認めたのだ。

「ただ、案内状を見たり、お金を受け取ったりしたのは、私だけでないはず。あれだけの人が集まったわけですから……」(A氏)

 事実、A氏だけではなかった。県研究会から案内状をファックスで直接受け取った3支部長の元を訪ねたところ、そのうちの一人、B支部長はこう語った。

「俺は用事があったから行ってないけど、ウチの社員が何人か行ってる。(要請があったのに)行かないわけにもいかないから、『行ってこいや』って。そうしたら見返りって言ったら変だけど、ちょっと(国光氏や自民党が)俺らの言うこと聞いてもらえるかなってレベルだと思う」

 案内状が支部長に送られた後、事務局から傘下の会員企業に転送された支部もあった。記者がある支部の事務員を訪ね、入手した案内状を示すと、

「これは……。私が転送したものでしょうね」

 と、認めるのだった。

 石岡市在住のC社長もこう明かす。

「事務局から案内状が送られてきました。国光さんと岸田さん、2人の名前と5000円とあった。『これはマズいんじゃないか』と思って、応援に行きませんでした。私は自民党員でトラック協会にも20年以上所属していますが、お金を撒くなんて初めてです。よほど接戦だったんでしょう」

 さらに取材を進めていったところ、実際に応援に参加し、その対価として5000円を受け取ったと証言する有権者も次々現れたのだ。

岸田首相の応援演説には大勢の聴衆が集まった

「投票依頼と受け止めた」

 かすみがうら市に本社を置く企業のD社長が重い口を開く。

「(日当は)もらいました。もともと行こうと思っていたんで。自民党員ですからねぇ、私も。総理大臣が来るんだよ、そりゃ1回くらい見たいじゃん」

 国光氏への投票について尋ねると、

「もちろんそうですよ」

 と認めるのだった。

 土浦市在住のE社長もこう続ける。

「(演説には)俺は1人で行った。(5000円は支払われた?)うん。……日当っていうか、旅費的な。領収書も書いた。領収書の宛名は『県研究会』でした」

 石岡市在住のF氏は領収書について、以下のように証言した。

「ウチの会社は、事前に参加する従業員の名前を名簿に書いて協会に送りました。すると演説後、人数分の日当が現金書留で届いた。そこに領収書も同封されていたのです。日付と署名欄が空欄でしたから、署名・捺印をした上で協会に送り返しました。切手が付けられた返送用封筒も入っていて、送り先住所は県トラック協会で、宛先には事務員の名前が書かれていました」

 実は、日当5000円が支払われていたのは、岸田氏の演説だけではない。小誌は決定的な「物証」を入手した(下写真参照)。

〈領収証/金 5,000円也〉〈10月27日 国光あやの衆議院議員街頭演説日当 於:石岡市 国光あやの事務所〉

宛名、日付、報酬が記された領収証

 石岡市の選挙事務所でこの日、約550人の聴衆を前に演説を行ったのは、安倍氏。宛名欄には〈茨城県運輸政策研究会長殿〉と記され、金額は岸田氏のケースと同じ5000円だ。

 つくば市で運輸業を営むG氏が言う。

「県トラック協会に返送する前の領収書の記録を、手元に残していたのです。岸田さんだけでなく、安倍さんの応援演説についても案内があって、5000円の現金を受け取りました。私も選挙区の有権者なので、マズいなとは思っていたのですが……」

 公選法に詳しい神戸学院大学の上脇博之教授が指摘する。

「今回のケースは、公職選挙法違反の有権者買収に当たる疑いがあります。更に、立件する上での重要なポイントは投票依頼の有無。直接『一票入れて下さい』と依頼された場合はもちろん、『国光さんをよろしく』などと言われた場合も、参加者は投票を依頼されたものと受け止める。参加者の受け止め方も重要です」

 前出のF氏は領収書の存在に加えて、投票依頼についてもこう証言する。

「演説への参加依頼をされてその上、5000円までもらえば、それは『国光さんに投票してほしい』と受け止めるでしょう」

 さらに、前出のE社長も以下のように認めた。

――「よろしく」など、投票呼びかけはあった?

「だいたい、『来てくれ』っていうことは、そういうことを意味してるってのは、誰でも理解できるだろう? でなくたって、協会として与党を応援するのは当然のことでしょうよ。(国光氏に投票した?)それはノーコメントだよ」

 これらの証言を受け、前出の上脇氏が言う。

「河井夫妻の事件では、厳しい選挙情勢に加えて選挙直前という時期、金銭を渡した規模や範囲などが総合的に勘案されて有罪判決が下りました。今回は、案内状で国光氏を〈推薦者〉と明示した上で〈協力〉を依頼しただけでなく、動員要請自体を『実質的な投票依頼』と受け止めた参加者もいる。しかも、選挙期間の真っ只中に不特定多数に呼び掛け、実際に金銭を支払っているわけですから、有権者買収に当たる疑いが非常に強いと言えます」

国光氏と専務理事を直撃した

 取材で明らかになった国光陣営の「集団買収」。では、問題の当事者たちはどのように答えるのか。

 案内状の送り主、県研究会の専務理事に聞いた。

――国光氏からの「別添の案内」は、「動員をかけてほしい」という趣旨?

「でしょうね。『(岸田氏が)来るんだから出て下さいね。ご協力をお願いします』みたいな話だろうと理解はしましたけど」

――茨城県内の他の選挙区から動員依頼はなかった?

「そうでしょうね。(国光氏から)案内が来たから協力したんじゃないでしょうか。他の選挙区にはお金を払っていません」

――日当5000円について。

「動員がかかれば交通費や日当で。タダというわけにはいかないので」

――実質的な投票依頼と受け止めた人もいる。

「そういう人もいるかもしれませんが、買収したわけではありません。もともと『(県トラック協会として)政権政党を応援しましょう』と」

――どれくらい広範に撒いたのか? 数十万円程度?

「分からないが、数十万円でも多いくらいだと」

――有権者買収に当たる。

「そう言われれば、杜撰なやり方だったなと思います。『買収だから』と、お巡りさんから言われれば『そうですか、すみません』と捕まるほかないけど」

 県トラック協会に国光氏の依頼で買収を行ったかなどについて、改めて書面で確認を求めたところ、

「回答は差し控えます」

 と口頭で回答した。

 一方の国光氏はどう答えるのか。携帯電話を鳴らしたところ、本人から折り返しがあった。

――岸田首相の演説で5000円を払って動員が行われた。

「私どもは一切、あの、関知してません。私は全く知りません」

――先生の事務所が、県トラック協会に首相が来るという案内を送っている。

「えぇ。確認しないと分かりません。取り込んでますので、ごめんなさい」

 国光事務所にも、自身の関与や買収行為に対する見解などを尋ねたが、いずれの質問に対しても、

「全く承知していないので、コメントは差し控えます」

国光氏は岸田派所属(国光氏のツイッターより)

 などと回答したのだった。

 前出の上脇氏が語る。

「今回のケースで『私は知りません』という言い分は通用しない。国光氏が『別添の案内』に詳細を記さなくても、協会が動員をかけてくれるという親密な関係性も窺えます。公選法上の直接の買収者は県研究会ですが、今後、捜査が行われれば、国光事務所の関与が明らかになる可能性が高いでしょう。事実、河井夫妻の買収事件では、克行氏は直接の担当者ではありませんでしたが、事実上、選挙を取り仕切る『総括主宰者』として有罪判決が下されました」

 公選法が極めて厳格に定められているのは、民主主義の根幹だからだ。今回の衆院選でも、日本維新の会から当選した候補者の運動員が、ビラ配布の報酬として日当1万3000円を渡す約束をしたとして公選法違反の容疑で逮捕されている。

 他の選挙区では行わなかった異例の現金ばら撒き。激戦区ゆえの有権者買収に加え、大勢の聴衆を動員することで、首相や安倍氏らの面子を立たせる“接待”の意味合いもなかったか。

 地元広島で起きた河井氏の買収事件について「透明性のある説明」を繰り返し求めてきた岸田首相。自らの応援演説で起きた岸田派議員の「集団買収」について、透明性のある説明が求められる。

261議席を確保した自民党

source : 週刊文春 2021年11月18日号

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