週刊文春 電子版

「オミクロンの正体」海外最新データで判明

世代別、ワクチン接種別重症化リスク

「週刊文春」編集部
ニュース 社会 国際

 世界中で猛威を振るうオミクロンが日本でも急拡大。第6波に突入し、“まん防”も発令された。一方で、第5波と比べると重症者・死者数は少ない。我々はどう向きあうべきか。新変異株の実態を、最新研究で解き明かす。

 

▶︎英研究 20週でワクチン効果は10%に

▶︎60歳以上ICU・死亡はデルタ株の7割減

▶︎アメリカ 4歳以下の入院が急増

▶︎重症患者の85%がワクチン未接種

▶︎軽症でも「38度の熱が10日間」

▶︎三大症状は鼻水 頭痛 だるさ

▶︎経口薬の効き目に重大疑問

「オミクロン株の感染力の強さを、まざまざと見せつけられました」

 こう打ち明けるのは、コロナ感染者の宿泊療養施設で働く看護師の女性だ。

「1月第2週から、一気に療養者が増えました。2日間で3倍になり、手が回らなくなってきた。10代から30代の若い年代が大半ですが、昨夏の第5波も最初は同じでした。次第に高齢者にも広がっていくのではないかと不安です」

オミクロン株(東京都健康安全研究センターHPより)

 しかも、オミクロンは得たはずの“防壁”をたやすく貫通してくる。

「療養者のほぼ全員が、2回のワクチン接種を終えていました。感染者の行動履歴を2週間遡って確認できるのですが、この年末年始に帰省したり、大人数で会食したりした人が感染している。会合で誰か一人がかかっていたら、ほとんどの参加者にうつっている状態です」(同前)

 年明け以降、日本各地で過去最多の感染者数が記録され続けている。とりわけ急激な感染拡大に襲われたのが、昨年12月半ば、米軍基地でクラスターの起きた沖縄県だ。瞬く間に市中で感染が広がり、「昨年12月30日時点で、新規感染の97%がオミクロン株と判明」(県感染症対策課)。

 沖縄をはじめ、感染者が急増している山口、広島の3県では1月9日から「まん延防止等重点措置」が適用。政府分科会の尾身茂会長は、同月7日の会合で「緊急事態宣言も考えた方が良い」との意見があったことを明らかにしている。

警戒を呼び掛ける尾身会長

 1月10日時点で、確認された国内のオミクロン感染数は2345件(厚生労働省11日発表)。ゲノム解析には数日を要するため、実数はこれを遥かに上回るはずだ。公立陶生病院感染症内科の武藤義和医師はこう語る。

「日本では、すでにコロナ感染者の40%から90%が、オミクロン株に置き換わっていると考えられます」

 世界に目を向ければ、昨年11月に南アフリカで初確認されたオミクロンは、いまや100を超える国・地域に勢力を拡大中だ。1日の感染者が10万を超す国も珍しくない。

人もまばらな沖縄の国際通り

 イギリスは年明けに新規感染者数が20万人を突破。だが死者数は約50人(1月4日)だ。日本も連日1000人前後の新規感染者が出ている沖縄の重症者数はゼロ(1月10日時点)と、デルタに比べて病原性は落ちたかに見える。

 この新たな変異株をどう捉えればいいのか。いち早くオミクロン禍に見舞われた海外のデータを元に、その正体に迫る。

ワクチンで感染が防げるのか?

 オミクロンは第5波で猛威を振るったデルタの感染力を凌駕している。潜伏期間も概ね3日から5日と、これまでのタイプと比べ最短だ。

「それだけウイルスの増殖スピードが速いんです。撒き散らすのも早く、感染させる力も強い」(武藤氏)

武藤氏

 香港大学の研究チームによればオミクロンは、デルタや変異前のウイルスに比べ、気管支で70倍以上のスピードで増えたという。

 厄介なのは、ワクチンではもはや感染を防ぎきれないこと。沖縄では、オミクロン陽性者の3分の2がブレークスルー感染だった。

苦境に立たされる玉城デニー知事

 ではどれだけワクチンの効果が低下しているのか。英国保健安全保障庁(以下、UKHSA)が昨年12月31日に発表したデータによれば、ファイザー製とモデルナ製は、2回目投与後の20週目から、オミクロン株に対する発症予防効果が約10%にまで低下。なんとアストラゼネカ製にいたっては、効果がなくなっているのだ。

 東北大学災害科学国際研究所の児玉栄一教授の話。

「4回打っても、有効性はよくて7割から8割ではないでしょうか。ただし、重症化を抑える効果は期待できます」

 UKHSAのデータでも重症化を抑えられることが分かる。オミクロンに感染した場合、ワクチン未接種の成人は、ブースター接種者に比べて入院する可能性が8倍高くなるという。

感染拡大のニューヨークでは検査に列が

「米国やフランスなどでは重症化し、入院している人の80%から90%はワクチン未接種者と言われています。これまで重症化リスクが高いのは高齢者や基礎疾患を持つ人とされてきましたが、今や最も重症化しやすいのは、ワクチンを打っていない人なのです」(武藤氏)

 米テキサス州のある病院では、ICU患者の85%がワクチン未接種だったというデータもある。筑波大学の徳田安春客員教授(臨床疫学)が付け加える。

「世界中で専門家が提唱しているのが“ワクチンプラスアクション”。ワクチン接種に加え、マスクの着用、ソーシャルディスタンスや換気の徹底、スクリーニング検査の拡充といった科学的に有効な対策の継続が必要ということ。米英を見ても分かるように、ワクチン一辺倒では、変異を繰り返すコロナに対抗できません」

徳田氏

世代別の重症化リスクは

 世界最高峰の研究大学の1つ、英エディンバラ大学の昨年末のレポートによればオミクロンの特徴の1つが、感染年代の若さだ。

 昨年12月19日までに確認されたオミクロン感染者23840人のうち、20代から30代が11732人で全体の49.2%を占めている。デルタ感染者の同年代は25.8%だったので、倍近い数値だ。代わりに、それ以外の年代は、デルタに比べて軒並み全体に占める割合を下げている。

イギリス、カナダのオミクロンに関する研究

 オミクロンにはまだ別の不気味な顔がある。“再感染力”の強さだ。同じくエディンバラ大学のレポートによると、コロナ感染歴のある人が再感染したとみられるケースは、オミクロンがデルタの10倍以上あったという。

 では、入院・重症化リスクと年代の関係はどうか。

 UKHSAによれば、昨年12月29日までの1週間でオミクロンに感染し、救急入院した患者は計815人。世代別に見ると、0〜39歳が全体の39.1%、40〜69歳が30.1%、70歳以上は30.8%となっている。

 さらに重症化の末、診断から4週以内に死亡したのは計57人。年齢幅は、41〜99歳だった。

 重症化や死亡のリスクは、やはり中高年以上で高くなっているが、その割合自体はデルタよりも低いことが、カナダ・オンタリオ州公衆衛生当局の報告で分かる。オミクロン患者のうちICU入室もしくは死亡するケースは、デルタと比較して、60歳以上で72%減少しているのである。

 基礎疾患を持つ人はどうか。参考になるのが、南アフリカに本拠地を置く医療サービス会社「Netcare」のデータだ。

 同社が運営する南アフリカ、イギリスの49の救急病院の統計によれば、入院患者のうち基礎疾患のあった者は、デルタ流行時で52.5%。だがオミクロンは、昨年12月7日の時点で23.3%だ。

 やはりデルタに比べて割合は低下している。

 オミクロンの感染者は圧倒的に若年層に多いが、重症化・死亡リスクはやはり高齢者の方が高い。ただデルタに比べれば、基礎疾患を持っていても、リスクは総じて低いのである。

 年齢との関係で気になるのが、米疾病対策センター(CDC)が発表した「ワクチン接種ができない4歳以下の子供の入院が増加している」という現象だ。

 CDCの分析では、今年1月1日までの1週間で新型コロナに感染した4歳以下の入院率は、人口10万人あたり4・3人。これは新型コロナが登場してから過去最多の数値だ。

「アメリカはワクチン2回接種を終えたのが人口の62%台と、先進国では低い水準。この発表は、子供を守るためにも大人はワクチンを打って欲しいというCDCからのメッセージでもあります」(外信部記者)

 子供の肥満率や医療アクセスの問題など、一概に日本とは比較できないが、長崎大学大学院(小児科学)の森内浩幸教授はこう語る。

「オミクロンの流行で、家庭内感染が起こりやすい状況になっています。肺や気管支が未発達の2歳未満は、どんな呼吸器感染でも一定のレベルで重症化します」

 RSウイルスやインフルエンザなど、子供たちの重症化リスクの高いウイルスの感染を防ぐためにも、ワクチンだけに頼らず、大人は通常の感染予防対策も継続していく必要がある。

カメレオン疾患の怖さ

 オミクロンの症状は従来と同様、発熱や咳はある。より顕著になったのが、三大症状ともいえる「鼻水」「頭痛」「だるさ」だ。総じて風邪やインフルエンザと区別がつきにくくなっているのだ。

 始末が悪いのはそれだけではない。徳田氏の話。

「他の病気に隠れる“カメレオン疾患”の特徴を備えています。欧米のデータを見ると、他の病気の症状で病院にきた患者からオミクロンが見つかっている。例えば、心臓の悪い人が心不全で入院した時、喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の人が発作を起こして調べた時、実はオミクロンに感染していた」

 90%以上がオミクロンに置き換わったイギリスでは、1月7日、『テレグラフ』紙がこう報道した。

〈今週のコロナ入院患者の半数は、別の疾患で入院後にPCR検査でコロナ陽性と判明した〉

 感染力が強く、他の病気に紛れている恐れがあるため、医療現場の戦いはより難度を増す。杏林大学医学部付属病院呼吸器内科の皿谷健准教授はこう指摘する。

「オミクロンの疑いがある人と医療従事者が濃厚接触するリスクは確実に高くなっています。一般外来、救急外来の現場がPPE(個人防護具)をフル装備して全てに対応するのは現実的に困難ですし、効率もよくありません。感染力の高いオミクロンをどこまで想定して防護するかは、今後の課題になってきそうです」

皿谷氏

 沖縄県では、1月9日時点で500人近くの医療従事者が感染者、または濃厚接触者として休職。外来診療や入院を制限せざるを得ない状況に追い込まれた。沖縄在住の徳田氏が語る。

「医療現場は本来、一人でも欠けたら大変です。沖縄には災害派遣医療チームのDMATが来ることになりましたが、それだけ危機的状況ということです」

経口薬争奪戦が始まる

 ワクチンに続き、経口治療薬も続々と開発されてきたが、特効薬になり得るか。

 昨年12月、米メルク社の経口治療薬「モルヌピラビル」が、日本でも初承認された。発症から5日以内の軽症者、中等症者を対象とした重症化を抑えるための飲み薬だ。だが――。

「昨年10月に公表された中間分析では、入院と死亡リスクを50%減少させるとしていましたが、有効性は30%に下方修正されています」(厚労省担当者)

メルク社の経口薬

 フランスは昨年末、治験で期待した効果が得られなかったとして、モルヌピラビルの発注を取り消した。インドは今年1月、「安全性に懸念あり」と、使用を限定的とする旨を表明した。

「胎児の成長に影響が出る可能性があり、もともと妊婦への使用は推奨されていませんでしたが、インドの保健当局は、軟骨や筋肉に損傷を引き起こす恐れもあると発表。対してメルク社インドは、安全性に懸念は認められなかったと声明を出しています」(同前)

 期待されているのが、米ファイザー社製の経口治療薬「パクスロビド」である。

「こちらも軽症、中等症者を対象とした飲み薬で、入院と死亡リスクを約9割減少させるとのデータが公表されています」(同前)

 日本政府はファイザー社と200万人分を確保することで基本合意。岸田文雄首相は1月4日、「2月にも実用化したい」と語った。

 ただ、日本は未承認だが、イギリス、アメリカなど各国が続々と承認済み。バイデン米大統領は注文を倍増させると明らかにした。ワクチン同様、各国との争奪戦となることも予想される。

軽症と侮る勿れ

 もはやいつ自分がオミクロンにかかってもおかしくはない。現在、療養中の20代男性はこう証言する。

「昨年末、友人たち7人で食事したら一人に感染が発覚した。濃厚接触者として検査すると、僕以外の参加者も全員が陽性に。数日間、頭痛と喉の痛みがあり、ちょっと風邪気味かなという程度だったんですが……」

 確かに、オミクロンの症状は風邪に近く、無症状や軽症で済むことが少なくない。だが、軽症といっても決して侮れない。

 前出の宿泊療養施設で働く看護師はこう語る。

「酸素吸入が必要な状態からが中等症。38度台の発熱が10日くらい続いた人もいましたが軽症の扱いです。実際に今、そんなツラい状況の方が何人もいる」

 さらに見落とされがちなのが後遺症の問題だ。コロナの後遺症外来を開設しているヒラハタクリニックの平畑光一院長が言う。

「これまでの経過を考えると、オミクロンでも後遺症が出るのはほぼ間違いない」

平畑氏

 51万人を対象としたイギリスの研究では、症状が重かった人は呼吸器系の後遺症になりやすく、軽かった人が倦怠感などの後遺症に陥りやすかったという。

「日本で多いのは倦怠感。自力でトイレに行けず、ベッドサイドにポータブルトイレを置いて生活をしている方もいます。当クリニックの患者さんの年代は1歳前後から90代まで。コロナが登場してから2年間、治らない人もいる。感染しても軽症だからと甘く見てはいけません」(同前)

 またオミクロンは、デルタのように肺ではなく、呼吸器の上気道に炎症を起こしやすい特徴がある。

「後遺症でも鼻の奥の上咽頭で炎症を起こしている人が非常に多い。そのため治療では患者さんに鼻うがいを必ずして貰いますが、実際に改善するケースが多い。感染予防にもなる」(同前)

 冬場はウイルスが猛威を振るう季節でもある。つじかわ耳鼻咽頭科の辻川覚志院長はこう提案する。

「洗濯物を室内で干しても、部屋の乾燥はなかなか防げない。そこで夜、ガーゼマスクなど呼吸が楽なマスクをして寝ると、鼻や喉の乾燥を防ぐ効果が期待できます」

 今後、社会全体でオミクロンを抑えていくためには、「早期発見が大事」だと前出の武藤氏は語る。

「この感染速度では、逃げ切るのは困難です。であれば、『一人の感染者を二人にしないこと』に徹するしかありません」

 各地で無料検査を実施する動きが加速しているが、気になった場合は、市販の抗原検査キットを試してみるのも手だ。その際は、国が承認した「体外診断用医薬品」を。「研究用」と表示された商品は性能が保証されていない。

「早期発見のメリットは2つあります。1つは感染拡大を抑えること。もう1つは、重症化を防げることです。今ある治療薬は、早期の人にしか効果が期待できません。オミクロンは重症化しないと思われがちですが、デルタと比べればしないというだけの話。避けられるのに重症化してしまうのは勿体ない」(同前)

正月は人出が増加

 1月11日、東京大学の仲田泰祐准教授のチームが、シミュレーション結果を発表。最も悲観的なシナリオで、東京都の1日の新規感染者数は、1月末に2万人に達する可能性があるという。このヤマを乗り切れるか否かは、一人ひとりの自覚にかかっている。

source : 週刊文春 2022年1月20日号

文春リークス
閉じる