SNSで精子ドナーを探し、実際に出産に至った女性が、ドナーの男性が自分との性行為目当てで嘘をついていたとして、約3億3000万円の損害賠償を求めた訴訟が波紋を呼んでいる。

 昨年12月に提訴したのは、都内在住の経営者で30代の既婚女性・A子さん。東大卒の夫との間に第一子を儲け、2人目以降の妊娠も望んでいたが、夫に遺伝性の難病の疑いがあることが判明。19年3月から、ツイッターなどを通じてドナー探しを始めた。

 ドナーの条件は、(1)夫と同等の学歴(2)配偶者などがいない(3)日本人であること─の3点。訴状によると、条件を設定した理由は(1)第一子との差を感じることがないように(2)不貞慰謝料請求などのトラブル回避(3)将来の再生医療の利用可能性を上げるため─としている。

A子さんが提訴した東京地裁 ©共同通信社

 条件に合うドナーを求め、15人ほどとメッセージをやり取りしたA子さん。その中の1人が、被告となった男性だ。国立大卒の20代で大手金融機関に勤めており、会った際に社員証を見せることも可能などと自己紹介していた。

 A子さんが出身大学を尋ねると、男性は「京都の方です」と返信。配偶者や交際相手もいないと回答したため、京大卒と信じたA子さんは男性と面談することに。「幹部候補の総合職社員だ」と繰り返す男性は、氏名欄を指で隠して大手保険会社の社員証を提示。A子さん自身も本名を名乗っておらず、SNSを通じた精子提供は匿名が普通だと考えていたため、違和感はなかったという。

 精子提供を受けることを決めたA子さんは、最も妊娠しやすい日に性行為を行うタイミング法を10回程度試し、19年に妊娠。出産後には再び男性から精子提供を受けたいと思い、LINEでのやり取りを続けたが、男性は次第に粗暴な言動を取るようになった。

 不信感を抱いたA子さんは男性の経歴を確認するため、保険会社の独身寮を自ら訪問。その過程で判明したのは、男性が中国人の既婚者で静岡大卒という事実だった。が、すでに人工妊娠中絶が可能な期間は過ぎており、20年に出産した。

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source : 週刊文春 2022年2月3日号