先週、日本のメディアが報じたニュースのうち、海外メディアが最も転電したのはファーストリテイリングの柳井正会長兼社長の発言に関する記事ではないだろうか。
初出は3月7日付の日経。柳井氏が戦争反対を唱えつつ、「衣服は生活の必需品。ロシアの人々も同様に生活する権利がある」とも語ったと書いた。その上でロシアに50店あるユニクロについて「事業は継続する方針だ」と伝えた。
日経は初出の記事をわずか約7センチ四方の枠で囲った15行の記事に収めた。価値判断のセンスがないと言ってしまえばそれまでだが、その背後で働いているであろう「ロシアに経済的ダメージを与える話は大きく、そうでない話は小さく」という意志は、中立公平であるべきメディアの本分から外れているのではないか。
ファストリは一転、ユニクロのロシアでの事業停止を10日に発表したが、これはデカデカと報道。米マクドナルドやスターバックスが店舗を一時閉鎖する記事も大きい。米エクソンモービルや英シェルが天然ガスや石油を産出するサハリンでの事業から撤退することも大騒ぎした。
しかしエクソンやシェルとともにサハリンで事業を手掛ける日本の大手商社の態度が煮えきらないことや、国際資金決済の情報ネットワーク「SWIFT(スイフト)」から締め出されていないロシアの銀行があることに関する記事は、撤退・閉鎖に比べると淡白だ。米アップルがロシアでの製品販売を一時中止したことは報じたが、ウクライナのデジタル転換相が同社に送った書簡の中で求めた「アップストアの提供中止」に応じていないことを指摘する記事も見た覚えがない。
当然ながら筆者もロシアの蛮行は決して許されることではないと思っている。軍事侵攻が日常生活に影響を及ぼし始めているが、それでも経済制裁には賛成の立場を取る。
しかしメディアが望ましいことは大々的に伝えるが、時流にそぐわないことには目をつぶる。つぶらずとも大きく取り上げないという姿勢は理解に苦しむ。事業を継続する企業があるなら、その論理や悩みを書けば良い。大政翼賛的な香りすらする情報の選別は、ロシア政府による情報統制と何が違うのか。
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source : 週刊文春 2022年3月24日号