「100歳を迎えるまで生涯現役をモットーにしてきた」
御年100歳、九州の名物経営者が第一線を退く。タクシー大手「第一交通産業」(福岡県北九州市)の黒土(くろつち)始会長だ。今年6月の株主総会をもって代表権を返上し、相談役に就くという。
「第一交通のタクシー保有台数は日本最大級の約8000台。同社を一代で築き上げたのが、創業者の黒土氏です」(九州財界関係者)
1922年生まれの黒土氏は大分県出身。中国で終戦を迎え、復員後、砂糖の卸売りで財を成した。朝鮮戦争の特需もあったが、次第に経営は悪化する。
「途方に暮れた黒土氏が目をつけたのが、現金商売のタクシー事業。38歳だった60年、第一交通の前身を設立します。最初は5台でのスタートでしたが、他社に先駆け、いち早くタクシー無線を導入し、待ち時間の短縮に成功。顧客から信頼を得ます」(同前)
ところが、会社は危機に陥る。62年、社員にストライキを起こされたのだ。読売新聞によれば、運転資金が底をつく中、手を差し伸べたのは、裕福な家庭に生まれた妻の早苗さん(故人)。「お金は私が出します」。嫁入り時の持参金から現在の価値で2000万円を託され、凌ぎ切った。
「当時のタクシー会社はどこも労働問題に苦しんでいました。第一交通はそうした同業他社の買収を全国で重ね、企業規模を拡大させていきます」(同前)
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source : 週刊文春 2022年4月21日号