ついに新型コロナウィルスが北朝鮮を直撃した。朝鮮中央通信は5月12日、「平壌の団体で8日、オミクロン株に感染した人が確認された」と伝えた。15日までに発熱した人が120万人以上にのぼり、50人が亡くなった。日本なら約600万人の感染者が出たレベルだ。12日から全土で完全封鎖(ロックダウン)が開始。自らもマスクの着用を始めた金正恩総書記が、「建国以来の大動乱」と表現する混乱ぶりだ。

初めてマスク姿を見せた金正恩

 複数の脱北者の証言によれば北朝鮮当局は、中国との貿易が原因だと分析している。北朝鮮は緊急時に海路で中朝貿易を続けていたほか、今年1月から鉄路での中朝貿易を再開した。外貨を稼げる貿易事業は、党や軍、政府の幹部が独占している。感染の発生が中朝国境ではなく、平壌だったのは、中央の幹部が貿易に携わっていたためだという。

 なぜ、いきなり100万人規模の感染になったのか。

 脱北した元朝鮮労働党幹部は「幾つかの理由がある」と語る。一つは、政治的な背景だ。北朝鮮は「コロナ清浄国」をアピールするためなのか、4月の軍事パレードや関連行事に参加した人々はほぼノーマスク姿だった。元党幹部は「あんな姿を見れば、みな安心してしまう。感染対策を徹底できるわけがない」と話す。

 二つ目は劣悪な医療環境にある。北朝鮮は「無償医療」を掲げるが、本当にタダなのは診療費だけ。薬は自ら市場で調達する必要があり、特別な機器を使った治療や入院には多額の賄賂が必要になる。

 まともな医療機器がそろうのは、日本の都道府県にあたる道所在地と、平壌に数カ所ある、北朝鮮の人々が「中央病院」と呼ぶ施設くらいだ。地区の診療所では、点滴容器としてビール瓶を使い、脱脂綿は何度も煮沸消毒して使い回すため、茶色に変色している。

 元党幹部は「風邪でも、熱が39度以下なら、誰も病院に行かない」と語る。北朝鮮は過去、英国アストラゼネカ製ワクチンなどの分配を拒んでおり、一般市民はワクチン接種をしていない。ワクチンを手に入れても、電力不足や劣悪な交通網のため、コールドチェーンを維持できない。感染の有無も確認できないまま、一気に感染が広がった。

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source : 週刊文春 2022年5月26日号