在宅時間の増加で注目を集める“出張料理サービス”。家庭の食卓を豊かにする5人のシェフの笑顔と生き方。

撮影  志水 隆 構成・取材・文  中岡愛子

東京都内発 洋食|川端京太(36)

食材と調理道具を鞄に詰めて、いまはなき名店の味を届ける

 必需品は、大きな保冷バッグと三輪タイプのキャリーカート。「電車で移動するので、駅の段差も楽々です」と笑う川端京太さんは1年前まで、恵比寿の老舗イタリアン「コルシカ」でスーシェフを務めていた。

 幼い頃に家族と食べたパスタの記憶から料理の世界に憧れ、「未経験でも雇ってくれた」名店に入社して10年。ソースを1から仕込む昔ながらの技術を体当たりで学んだ仕事場が昨年7月、ビル老朽化で閉店し、途方に暮れた。

「閉店後は独立する予定が、コロナの影響で躓きました。仕事を失い、常連さんから“出張料理が流行っているらしい”と聞いて、とにかくやってみようと」

「それしかなかった」と川端さん、連絡先を交換していた常連客らに声かけすると、「コルシカの味をまた食べられるなら」と口コミで話題に。名物だったカレードリアをはじめ、エビフライ、スープなど、店のメニューからコースを組み立て、食材と調理道具を持って訪問。作りたてを、1品ずつ提供する。出張がない日は、フレンチと串揚げ店でバイトをする日々だが、

「おかげでエビフライを揚げる腕が上がりました。いずれは自分の店を持ちながら、出張料理もできたらいいですね」

エリア 恵比寿、広尾エリアを中心に応相談

予算  一人7000円〜

対応人数  2〜40名

最低総額 1万4000円〜 ※出張費1万円(遠方の場合は交通費別途)1週間前までに予約を

問い合わせ Instagram(@kyotakawabata)のDMにて

神奈川・逗子発 フレンチほか 『Ili deli(イリ デリ)』|勝 由香梨(44)

“待つ”より“動く”のが好き、湘南の恵みをライブ感たっぷりに

 オーブンから取り出したばかりの鶏もも肉のハーブローストには、鎌倉野菜のサラダと紫大根のピクルスを添えて華やかに。小坪港で仕入れたイトヨリ鯛はフライパンでソテーし、ラタトゥイユをたっぷりのせる。

「料理は完全にオーダーメイド。環境に応じて、大きな木箱に詰めてどーんとお出しすることもあれば、1皿ずつサービスすることもあります」

 横浜出身で、湘南に移り住んで20年以上。小学生の頃から友達にチャーハンをふるまうなど、「おいしい! と言われるのが好きだった」少女は、20代後半でフランス料理の基礎を学び、マクロビオティック、タイ料理、スパイス料理と、興味と経験の幅を広げてきた。

 開業を考えたときにイメージしたのは、映画『シェフ』のフードトラックの世界。「行く先々でおいしいものを作って、まわりを幸せにする仕事」に共感するも、生活スタイルの事情で断念。「今の自分にできることを」と築70年の古民家の台所を改装し、2020年春、出張料理とケータリングの仕事を本格的にスタートした。

「ずっと動いていたい性格で、待つよりも動きたかったんですよね。目の前でおいしい! と喜んでもらえるのがうれしくて」

エリア 逗子、葉山、鎌倉を中心に応相談

予算 一人4950円〜

対応人数 2〜20名

最低総額 3万3000円〜 ※出張費5000円〜2万5000円(規模、内容、距離による)4〜5日前までに予約を

問い合わせ ☎080-4194-3114

東京・入谷発 肉料理 『肉究Ogatomo』|尾長知幸(37)

特製ソーセージを焼いた後は、五徳まで外してピカピカに

「出張先で、泊まってけって言われることがよくあります。お酒を勧められて、車の代行サービスまで呼んでくれることも」

 満面の笑みで元気よく喋る。

 スタイリストのアシスタントを経て、シェアハウスでの共同生活から「みんなで食卓を囲む楽しさ」を知り、27歳で飲食の道へ。ワインビストロで料理を学び、「お客さんに対面で喜んでもらって、働いた分だけ稼げる仕事を」と6年前、出張料理人として独立した。

 自家製ソーセージと肉料理、それから人懐っこい笑顔が武器。大手外資系からスタートアップ企業まで、ときにVIPの個人宅での会食を担当することもあったが、コロナ禍で法人案件が激減。「ならば拠点を作ろう」とクラウドファンディングで一気に資金を集め、昨年3月、会員制レストラン「肉究オガトモ」を開いてしまった。

「大事にしているのは、お客さんとの繋がりと柔軟性。調理後は絶対に片付けまでやって、コンロの五徳を外して磨いて帰るとすごく喜んでもらえるんです」

「今は出張ができないくらい店が忙しい」というが、コース料理の鹿肉は京都、野菜は北海道――出張先で繋がった全国の生産者から届く食材が、彼の信望の厚さを表している。

エリア 全国どこでも応相談

予算 一人8250円〜(50名以上の場合は5500円〜)

対応人数 2〜300名

最低総額 5万5000円〜 ※駐車場代(東京23区外は交通費別途)2〜3カ月前までに予約を

問い合わせ ☎080-1365-9529

東京・戸越銀座発 和食、フレンチ 『キッチンのっく』|新羅彩乃(32)

オーストラリアやバリまで、出張したこともあります!

 小学5年生の時、「将来お金を稼ぐために社長になろう」と思い、子供なりに考えた職業が、料理人、絵描き、美容師。なかでも「単純に計算して一番儲かりそうだから、忙しくなるまでやってみよう」と料理人を夢見た。

 高校卒業後、地元・石川のホテルの和食店に勤務。その後、フレンチ、エコール辻専門学校を経て、大阪・ミナミで和食店と串揚げ店の店長を任されるまでになったが、「忙しいわりに席数に限りがあって稼げない」と頭打ちに。

「上京後、立ち上げに関わったバルの常連さんから、“うちで会社の交流会をやるから、料理作ってくれない?”と呼んでもらって、これは仕事になりそうだと、出張料理という感覚もないまま、手探りでスタートしました」

「うちでも作ってよ」と口コミで注文が増え、今年で独立して7年。コロナ禍で始めた真空パックのお惣菜セットを販売するほか、4年前に仕込みの場として作ったアトリエを改装し、立食イベントも予定している。出張先では誘われれば一緒に飲み、呼ばれたら海外出張にも行くというが、「出張料理の仕事は片付けがすべて」。

 経営理念も明確なのだった。

エリア 関東圏を中心に応相談

予算 一人5500円〜

対応人数 2〜150名

最低総額 6万6000円〜 ※交通費別途1週間前までに予約を

問い合わせ ☎090-3888-2489

埼玉・川越発 寿司 『出張! 黒澤寿司』|黒澤修一(41)

市場で仕入れる魚はもちろん、野菜の創作寿司もオススメ

 大漁旗を前に、立派な魚を手に微笑むのは、漁師でも仲買人でもなく――寿司職人。

「これは今朝仕入れたキハタです。余分な水分をとって一日寝かせてから、握りにします」

 埼玉・川越総合地方卸売市場に作業場を持ち、魚の仕入れも仕込みもここで。注文に合わせてメニューを組み立て、ネタとシャリと桶を車に詰め込み、いざ出張先へ。

 なんと自宅に寿司職人が訪れ、目の前で1貫ずつ、寿司を握ってくれるのだ。

 大学の法学部を卒業後、埼玉の寿司店に入社。3年間、魚の捌き方、握り方をみっちり覚えた。その後、飲食以外での会社員生活を経て、2015年に独立。「人の役に立つ仕事で、相手に喜んでもらえることがしたい」と、知人のホームパーティで寿司を握って喜ばれた経験から、「自ら出向いて寿司を握ろう」と、この道を選んだ。

「実家の農業と兼業していて、“パプリカのマグロ風”など野菜寿司も必ずメニューに入れています。先日は、外食が難しいおじいちゃん、おばあちゃんの家に親戚が集まる会で寿司を握り、喜んでもらえました。最近はカタログギフトからの注文も増え、人に喜んでもらえる仕事はこれからも続けたいです」

エリア 埼玉、群馬、東京、神奈川

予算 一人8800円(12カン)〜

対応人数 6名以上

最低総額 8万8000円〜 ※交通費7000円(一律往復分)1カ前までに予約を

問い合わせ http://kurosawasushi.com

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source : 週刊文春 2022年6月9日号