俳優のジョニー・デップとアンバー・ハードの元夫婦が、互いを名誉毀損で訴えていた裁判の判決が6月1日に下された。法廷闘争はデップに軍配が上がり、ハードは1035万ドル(約13億円)、デップは200万ドル(約2億6000万円)の支払いを命じられた。

「きっかけは2018年12月、ハードのワシントンポスト紙への寄稿文。彼女は『2年前、私はDV被害者として知られるようになった』と記した。デップを名指ししてはいないが、16年当時の夫の彼を示唆していた。デップは名誉を毀損されたとハードを訴え、ハードも反訴」(米紙記者)

 大方の予想では、デップが不利とされた。20年にデップは、自らを「ワイフビーター(妻虐待者)」と呼んだ英大衆紙サンを相手取り、英国で名誉毀損裁判を起こしたが敗訴。米国では、より言論の自由が保障される傾向があるためだ。

「日本の名誉毀損裁判は、著名人がメディアを名誉毀損で訴えた場合、メディアが『表現内容が真実であること』などを証明しなくてはならない。一方、アメリカでは著名人が『表現内容が虚偽である』『報道が悪意をもってなされた』ことを証明する必要がある」(同前)

「真実は滅びない」と声明を出したデップ

 この前評判を覆しての勝訴にはいくつかの要因がある。一つが陪審員制度だ。

「デップの弁護士はハードの証言の信憑性が疑われる点を狙った。例えば彼女はDVを受けて鼻が潰れたと主張したが、弁護士は、彼女が翌日に普通の顔で撮った写真を提示。『背中にあざができて不安だった』という日の後、背中が大きく開いたドレスを着ていた写真も陪審員に見せた。そして彼女の証言の疑わしさは連日報道された。陪審員は裁判所から報道に惑わされないように釘を刺されるが、実際は難しい。一方、デップが負けた英国の裁判は裁判官が判決を下し、控訴も認められなかった」(同前)

 もう一つはバージニア州で裁判を行ったこと。同州は二人の生活の拠点ではないが、近年は同州で名誉毀損裁判をする著名人、企業が増えており“名誉毀損ツーリズム”とも揶揄されている。なぜか。アメリカはスラップ訴訟に厳しい州が多い。ハリウッドのあるカリフォルニアは「反スラップ法」があり、被告側が原告側の提訴をスラップであると反論して認められれば訴えは棄却される。だが、バージニアの州法は特殊で、仮にスラップ訴訟と認められても裁判に持ち込めるのだ。デップの弁護団も同州で裁判をした理由に、この点を挙げている。

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source : 週刊文春 2022年6月16日号