「あんな親しげな手紙を送ってくれるのだから、会いに来てくれればよかった」
こう語るのは、島根県在住のジャーナリスト・米本和広氏(71)。犯行直前の山上徹也容疑者(41)が手紙を送っていた人物だ。
〈安倍の死がもたらす政治的意味、結果、最早それを考える余裕は私にはありません〉などと記された手紙の存在が明らかになったのは7月17日。読売新聞のスクープだった。山上は安倍晋三元首相を暗殺する前日の7月7日、岡山市内の演説会場に向かう道中で手紙を投函したと見られる。
米本氏が振り返る。
「見つけたのは13日。普段ポストは開けないんですが、その日は開けた。宛名は直筆で差出人はなし。献金の返還請求の合意書のコピーが同封されており、山上君だとわかった。元々その翌日に読売の記者が取材に来る予定だったので、手紙について教えたのです」
『洗脳の楽園』(1997年)や『カルトの子』(2000年)などの著書がある米本氏は、長年カルト宗教問題に取り組んできた。
山上は米本氏のブログの熱心な読者だった。
〈ご無沙汰しております。「まだ足りない」として貴殿のブログに書き込んでどれぐらい経つでしょうか〉〈かつて「DD」と名乗ってコメントした事もあります〉(山上の手紙)
ブログのコメント欄では、やりとりを重ねていた。
山上〈世界平和家庭連合? ポルポトか? スターリンか? ヒトラーか? どんな地獄だ? 人の生き血はどんな味だ?〉(20年12月15日)
米本〈カッカしなさんな。出発点が狂っている〉(20年12月16日)
山上〈復讐は己でやってこそ意味がある。不思議な事に私も喉から手が出るほど銃が欲しいのだ〉(20年12月16日)
米本氏が語る。
「(山上の手紙は)うまいね。行あけもうまい。文章が明快でした」
山上は典型的な「宗教2世」だ。数々の“カルトの子”を取材してきた米本氏にはどう映っているのか。
「多くの宗教2世の感情は内に向いてしまう。外への攻撃に向かったのは、私がこれまで見てきた中でも彼だけ。彼の母親は“子供より統一教会”だった。親は選べない。その問題を一番に考えるべきなんです」
米本氏は統一教会に関しては“反統一教会”批判も展開。『我らの不快な隣人』(08年)では、信者を拉致監禁して脱会させてきた家族と協力者の行動を厳しく追及している。
統一教会を憎悪し続けてきた山上は、なぜそんな米本氏に手紙を託したのか。
米本氏は「僕が“反カルトのカルト性”を問題にしていることをおそらく彼は知っているから」と語り、山上から届いた手紙の一節を指し示した。
〈私は「喉から手が出るほど銃が欲しい」と書きましたが あの時からこれまで、銃の入手に費やして参りました。その様はまるで生活の全てを偽救世主のために投げ打つ統一教会員、方向は真逆でも、よく似たものでもありました〉
米本氏が言う。
「この部分は自身の行動を“反カルト”に重ねて書いたのだろう。僕は以前から反統一教会の人たちに『お前らも(統一教会と)同じだよ』と指摘してきました。彼らは『カルトは悪いからやっつけよう』と断罪するだけ。信者の気持ちへの配慮は一切ない。その問題点を山上君はわかっている。
メディアもすべてを『白か黒か』にする。カルト的です。今は統一教会バッシング一色でしょう。『白か黒か』で分けられるものは世の中にはありません。黒の中にも白があるし、白の中にも黒があるんです」
今後、米本氏は山上と“対話”したいと明かす。
「接見はすると思うよ。本を差し入れてあげようと考えています」
唯一気持ちを打ち明けた人物と対峙した時、山上は何を語るのだろうか。
source : 週刊文春 2022年8月11日号