仕事柄、地方の農家などにお邪魔して、地元の方に昔話を伺うこともある。そんなとき、昔の農家の建物は本当に良くできているな、と感心してしまう。ふつうの古い農家には玄関とは別に縁側があって、僕のような外来者が、ちょっとした話を聞くときはだいたい縁側に通される。あるいは、家主のおじいさん、おばあさんは縁側でくつろいだり、小仕事をしていることが多いので、運がいいと玄関を介さず、そのまま庭から気安く話しかけて、自然と打ち解けることもできる。

 ところが、これが近代住宅ではそうもいかない。まず玄関に入れてもらうまでが一苦労。こちらの氏素性を説いて不審を晴らすというハードルがある。そこから居間に招き入れてもらうとなると、さらにハードルが上がる。こちらとしても、少しの昔話を聞くために応接間に通されては恐縮してしまう。かといって、玄関先での立ち話では要を得ない。

 日本の古い住宅にはイエの「内」と「外」の中間に縁側があって、そこがちょうどいい緩衝帯の役割を果たしていた。それが、僕らのような外来者が住人にアクセスしようとするとき、非常に便利な場だったのだ。

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source : 週刊文春 2023年2月9日号