〈脳卒中後の重度麻痺のリハビリの可能性を拡げ〉る。こんな夢を語り、過去15年にわたって巨額の公金を得てきた研究がある。中心人物は、福沢諭吉の縁戚者だ。ところがその内実はインチキだらけ。名誉教授が怒る!

「私は今、母校の学長候補の研究に“公金詐取”の疑いを持たざるを得ません。このまま口をつぐんでいては、真面目な研究者はもとより、治癒を願う患者さんに対しても、申し訳が立ちません。私も84歳になりました。この際、“遺言”のつもりで、母校の不正をお話しします」

 苦渋の表情でこう告発するのは、千野直一慶応大学名誉教授だ。同氏は慶大医学部リハビリテーション医学教室(リハ科)の初代教授を務めた人物で、日本リハビリ医学会理事長などの要職を歴任した重鎮でもある。

告発する千野氏

 疑惑の目が向けられているのは、慶応大学理工学部教授の牛場潤一氏が社長を務める株式会社ライフスケイプス(以下、ライフ社)。そして、慶応発のベンチャーとして設立された同社が目下、公金を得ながら開発にいそしんでいるのが、「BMI治療器」と呼ばれるリハビリ機器だ。

〈脳科学とAIが融合したBMIを使って脳と機械をつなぐことで、脳卒中後の重度麻痺のリハビリの可能性を拡げ、患者の希望の実現をサポートします〉

牛場教授(慶応大学HPより)

 ライフ社のスタイリッシュなHPでは、このように謳われている。

「BMIはブレイン・マシン・インターフェイスの略称で、牛場君らはBMI治療器の研究開発のためと称して、これまでに少なくとも26億円にも上る多額の公的研究費を得てきました。ところが、BMI治療器は以前、私がその研究開発を巡る不正を告発し、調査委員会まで立ち上げられた、疑惑まみれのリハビリ機器なのです。にもかかわらず、牛場君らは手を変え品を変え、さも完成間近のように何度も偽っては、研究費を獲得し続けてきました」(千野氏)

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source : 週刊文春 2023年7月27日号