『現代思想入門』が異例のベストセラーになっている千葉雅也氏。「二項対立の脱構築」の必要性を説いている。次々と価値観の変革を求められる現代において、私たちは哲学をどのように学べばいいか。池上彰氏が迫る。
池上 「哲学って何の役に立つんですか?」と訊かれることはないですか。週刊文春の読者にも、そんな疑問をもつ方がいらっしゃると思うんです。
千葉 よくあることですね。世の中がどんどんスピードアップして、批判的に言うならば拙速になっていますよね。損得の計算を即座にできることが、知性であるかのように言われています。そんな中で、人間にとって本当の生きやすさとは何なのかを長期的な視点で深く考えるために、哲学は必要なのだと思います。
即効性はないにせよ、何かを刷新していくとき、ラディカルなプランを考える原動力になるのが哲学です。保守管理的な仕事を目指す人は「何の役に立つの?」と感じるかもしれませんが、イノベーターを目指すなら十分な有効性があると思いますね。
池上 千葉さんは立命館大学でも教壇に立っていますが、大学で哲学を学ぶことの意味について、学生諸君にはどのようにお話しされています?
千葉 僕の授業では、大学の教養教育とはどういうものかという話から始めています。大学というのは、既存の社会における価値規範からいったん距離を取って、社会や人間のあり方の可能性を最大限に広げて考えられ得る場所なんだと。哲学は、それを最も留保なくやることができます。今日の大学教育は、社会適応にかなり寄ってきていると感じますしね。
池上 高校までは、先生や文科省の学習指導要領に基づいた検定済み教科書によって鋳型にはめられてきたけれども、大学では「秩序から逃れる思考もしてみろ」ということですね。
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source : 週刊文春 2023年8月17日・24日号