東京五輪をめぐる汚職事件で逮捕された角川歴彦氏。保釈から1年2カ月後に起こしたのは前代未聞の公共訴訟だった。「残りの人生を賭けて僕は闘う」。独居房の孤独、弁護団との出会い、裁判の真の目的……全てを明かした。

 この裁判は五輪汚職をめぐる僕自身の無罪を訴えるものではありません。それは別に始まる刑事裁判で争います。僕がこの裁判で訴えたいのは、「人質司法のあり方」です。国家賠償請求の形をとっていますが、賠償金が欲しいわけでもありません。

 司法のあり方、検察の捜査手法そのものを問う裁判を起こすことは五輪汚職の裁判にマイナスな影響を与えるかもしれない。それでも僕は日本の人質司法の非人道性、違法性を知ってほしい。憲法や国際人権法に照らせばどれほど人権を侵害しているのか。僕は残りの人生を賭けて公共訴訟という形で問いたいのです。

今年9月には81歳となる角川氏 ©︎文藝春秋

 6月27日、出版社KADOKAWAの元会長・角川(つぐ)(ひこ)氏(80)は国に対して、2億2000万円の損害賠償を求める訴訟を起こす。

 角川氏は大学卒業後に父の(げん)(よし)氏が興した角川書店に入社。テレビ番組情報週刊誌「ザテレビジョン」、都市情報週刊誌「東京ウォーカー」を創刊したほか、いち早くゲームやインターネットの可能性に注目しメディアミックスを進め、KADOKAWAを三大出版社(講談社、集英社、小学館)に対抗する出版社に育て上げた。

 

 その出版界の大物経営者が、東京五輪のスポンサー選定をめぐる汚職事件で、東京地検特捜部によって突然逮捕されたのは、2022年9月14日のこと。元部下と共謀の上、広告代理店電通出身の五輪組織委員会元理事、高橋治之被告に賄賂を渡して、スポンサー選定を依頼したという容疑だった。

 角川氏は特捜部の聴取に一貫して容疑を否認。高齢で3年前に心臓の手術を受け、持病があるにもかかわらず、再三の保釈請求は「証拠隠滅の可能性がある」と却下され続けた。

 保釈が認められたのは、逮捕から226日が経った23年4月27日のことだった。

 角川氏が今回の裁判で訴える「人質司法」とは何なのか。

インタビュアーのジャーナリスト・浜田敬子氏 ©︎文藝春秋

 日本では一旦逮捕され被疑者となると、容疑を否認・黙秘する限り保釈されず、身柄拘束が続くことが多い。起訴前の勾留中は、弁護士の立ち会いもなく情報もない一方的な取り調べが続きます。プレッシャーに耐えきれず、事実ではない「自白」をしてしまい、冤罪にも繋がる可能性があることは、長く弁護士らから指摘され続けてきました。こうした捜査、司法のあり方は「人質司法」と呼ばれ、元日産自動車会長のカルロス・ゴーン氏の事件以来、国際的にも人権侵害だと批判されています。

 人質司法の非人道性は、日々少しずつ人間の尊厳を奪っていくことです。

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source : 週刊文春 2024年7月4日号