「韓国のカジノにハマり込んでいるとか、薬物疑惑があるとか、根も葉もない噂まで流されてしまって……。今にして思えば、きちんと弁護士を入れて債務整理をすべきだった。途中からでも引き返すべきだったと後悔しています」

 慙愧の念に堪えないといった面持ちで、そう語るのは、産業用ドローンの開発、販売を手掛ける東証グロース上場企業「ACSL」の元代表取締役CEO、鷲谷聡之(37)である。

ACSLの鷲谷聡之前CEO ©時事通信社

 ACSLは今年4月30日付でCEOを辞任した鷲谷について、不正取引の疑いがあるとして特別調査委員会を設置。7月14日にその報告書を公表した。わずか2週間という異例の短期間で纏められた調査報告書には、鷲谷が昨年6月の離婚により財産分与や慰謝料などで1億円を優に超える資金が必要となり、昨夏以降、複数の関係先から借金を重ねた実態が記されていた。その果てに、個人の借金を返す目的で、架空の取引を偽装。外部の3社に対して会社の資金から約1億5000万円を不正に流出させたと結論付けられていた。

前CEOの不正流用が明らかとなったACSL(同社HP)

ドローンの専業メーカーとして世界初の上場を果たす

 鷲谷は早稲田大学大学院を修了後、外資系コンサル会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2016年にACSLに入社して同年、取締役CFO(最高財務責任者)に就任。2020年6月に社長兼COO(最高執行責任者)、2023年3月からはCEOに就任していた。

 “空の産業革命”と呼ばれるドローンは、物流、郵政などの産業用途のほか、容易に目視できない橋やダム、鉄塔、下水道などのインフラ点検や防災、災害時の活用など、その可能性は無限大に広がる。だが、現在は、中国のDJI社のドローンが、世界市場の7割以上を占めているとされ、ほぼ寡占状態にある。サイバーセキュリティリスクを回避する経済安全保障上の観点から、日本政府は国産ドローンへの切り替えに舵を切ったが、そのなかにあって、2018年12月にドローンの専業メーカーとしては世界初の上場を果たしたACSLは、まさに注目の企業とされていた。

 ピカピカの経歴を持つエリート経営者は、なぜ転落したのか。その内情を(つぶさ)に追うと、調査報告書だけでは分からない数々の“危うさ”が浮かび上がってきた――。

マッキンゼー在職時に同僚の東大法学部出身の才女と結婚

 鷲谷は栃木県出身。父親は、県内トップクラスの宇都宮高校から防衛大学校に進み、海外で駐在武官を務めたエリート自衛官だった。鷲谷は、父親の仕事の関係で、イギリスやチュニジア、フィンランドなどで幼少期の大半を過ごしたという。父親はその後、女性スキャンダルで躓くが、帰国子女だった鷲谷は、国際基督教大学高校を卒業後、早稲田大学理工学部に進む。大学院では環境建築工学を専攻した。

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source : 週刊文春