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「ずっと憂鬱でした」清原和博と1年間話し続けた記者の『告白』

2019/01/04
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たどり着いた先に、答えも光もありませんでした

『なぜ、英雄は堕ちたのか。人生の中に答えを探す』

「告白」が始まる前、こんなテーマを掲げました。ひょっとしたら、これがかつてのスターを救うきっかけになるかもしれない。そんな期待も少しはしていたと思います。ただ、そんな優等生じみた大前提は、あなたの生々しい現実と、おびただしい矛盾の前に消し飛んでしまいました。たどり着いた先に、答えも光もありませんでした。

 

 それでも、最後にあなたがこう言ったことで、私は少し救われたような気がしました。

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「もし、まだ僕の言葉を聞いてくれる人がいるなら……。今の僕のありのままの気持ちを残すことで、スポーツで挫折した人、覚醒剤をやってしまった人、何かを失いそうな人、これから生きる人たちのためになるのでしたら……」

 そして、私は今さらながら、自分の足取りを重くしていたものに気づくのです。謙虚と傲慢、純粋と狡猾、率直と欺瞞……。

 清原さんが全身から発していたものは、少なからず私自身の心にも巣食っているものでした。あなたを破壊したものは、私の中にもありました。

 あなたの、あまりに巨大なそれの前に気づきませんでしたが、記録者としてあなたの「告白」に向き合うということは、私にとっても自分自身の中にある、人としての矛盾や闇を突きつけられるということでした。だから、あれほど木曜日が憂鬱だったのだと、わかりました。

 

 あなたは、あらゆる人間がかかえる業の塊であり、その有り様を世に残すための1年だったと今は言い聞かせています。

 これは極端な人間らしさの記録です。どうしようもなさ、ままならなさの記録です。

 何しろ、人というのは、あんなに気重だった駅のホームが、ある日の何気ない言葉を境に、一瞬で、美しく名残惜しい景色に見えてしまうような生き物なのですから。

『清原和博 告白』「終わりにかえて」加筆修正)

写真=杉山拓也/文藝春秋

清原和博 告白

清原 和博

文藝春秋

2018年7月27日 発売

「ずっと憂鬱でした」清原和博と1年間話し続けた記者の『告白』

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