昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2018年の私的ベストゲーム「上田剛史のサヨナラ3ラン」を振り返る

文春野球コラム ウィンターリーグ2018

2018/12/29

ファンが選ぶ「2018年ベストゲーム」

 11月23日に行われた恒例の「ファン感謝デー」において、ファン投票による「2018ベストホームゲーム」が発表された。文字通り、2018年ヤクルトのホームゲームの中から、ファンが選ぶベストゲームが発表されたのだ。以下、その順位をご紹介したい。

 5位……6月28日・対中日戦/山田哲人、プロ初サヨナラホームラン
 4位……8月16日・対巨人戦/原樹理、プロ初完封
 3位……7月21日・対中日戦/川端慎吾、プロ初サヨナラホームラン
 2位……9月4日・対中日戦/上田剛史、野球人生初サヨナラホームラン
 1位……5月6日・対広島戦/坂口智隆、サヨナラツーベースヒット

 順位が発表されるたびに、集まった大観衆からは「あぁ、あの試合か……」とどよめきが起こる。この日の神宮球場には、それぞれのファンたちがそれぞれの名場面を思い出しながら、「なるほどね、この試合ね」と納得している穏やかな時間が流れていた。もちろん、詳細が読み上げられ、試合映像が映し出されるたびに、僕も「この日の神宮は寒かったな」とか、「確かにあの試合はすごかった」と心地よく思い出を反芻していた。

 ここで挙げられた5試合には、いずれも異存はない。山田にとってはプロ初となる、5位のサヨナラホームランは、同時に原樹理の今季初勝利の試合でもある。この日、神宮のライトスタンドで「ようやく、原にも勝ち星がついたか……」と安堵したことを覚えている。

 4位・原樹理のプロ初完封も神宮で見届けた。試合終了後、つい昨年まで投手コーチを務めていた伊藤智仁氏に「見てましたか? すごかったですね!」とラインを送ると、すぐに「やったね!」と無邪気な返信が戻ってきたことが懐かしい(笑)。3位・川端慎吾のプロ初となるサヨナラ弾も神宮で見た。燕パワーユニを着用し、球場全体が緑色に染まったときのヤクルトは本当に強かった。

 そして、2位・上田剛史のサヨナラ弾も印象深い。台風21号の影響による大嵐の中での観戦だった。6点差をひっくり返しての大逆転勝利。風が強すぎてあまりビールはおいしくなかったけど、忘れられない一戦となった。そして、1位の試合は9回に大引啓次が同点ホームラン、10回に川端慎吾が同点打、さらに11回に坂口智隆がサヨナラ打と、劇的すぎる試合展開がすごかった。総力戦となったため、風張蓮が代打で起用されたのもこの試合だった。

 ……けれど、あえて個人的な「私的ベストワン」を挙げるとしたら、僕の場合は2位と1位が入れ替わる。もしも「2018年ベストゲームは?」と問われるならば、僕は迷いなく、「9月4日の上田のサヨナラ3ラン!」と答えたい。……理由? 感動したからだ。あれから3カ月以上が経過した今でも、ありありとあの試合のことが浮かんでくるからだ。

9月4日の中日戦、サヨナラ3ランを放った上田剛史

台風21号が日本列島を直撃した「あの日」

 まずは簡単に「あの日」の背景を説明したい。8月下旬、そして9月上旬のヤクルトは単独2位をキープしていたものの、なかなか貯金ができずに勝率5割前後を行ったり来たりで、連勝が続いたと思ったら、アッサリ連敗が続いたりするもどかしい日々が続いていた。たとえば、この試合の直近を振り返ってみても、8月28~30日は甲子園球場で阪神に3連勝したものの、続く31日、9月1~2日に行われた神宮球場での広島3連戦ではなすすべもなく3タテを食らっていた。

(なかなか波に乗り切れないなぁ……)

 そんな思いで迎えたのが、4日の対中日戦だったのである。この日、関西地方を中心として日本中が台風21号の猛威にさらされていた。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンは早々に終日休業を決め、ほっともっとフィールド神戸で予定されていたオリックス対楽天戦、石川県立野球場での巨人対DeNA戦も昼時点ですでに中止が決まっていた。

 昼が過ぎ、夕方になる頃には関東地方にも強風が吹き荒れた。これを受けて、ZOZOマリンスタジアムでのロッテ対ソフトバンク戦は風速20メートル以上を記録する強風のために中止となる。雨は降っていないものの、どんどん風が強くなっていた15時過ぎ。「今日の試合は無理だろうな……」と思いながら、僕は神宮に向かったのだ。

 本来なら、試合開始直前まで自宅にいて、試合が行われるかどうかを確認したいところだったけれど、この日は16時から前監督・真中満氏のインタビューが予定されていたため、15時過ぎには家を出たのだ。インタビューはつつがなく終了。このとき、真中さんと「今日は中止なのかな? それともやるのかな?」と会話したことを今でもよく覚えている。

 17時前には手持ちぶさたになってしまった僕は、いつもよりは客足の鈍いライトスタンドに腰を下ろし、ビールを呑みながら中日の打撃練習を見続けた。このとき、顔なじみの売り子さんが「今日は中止かもしれないので、いつもより売り子の数が少ないんです」と言っていた。そう言われてみれば確かに、普段より売り子の数が少なかった。

 相変わらず、風は強い。それでも、まだ雨は降っていない。次第に夕闇が辺りを支配していく。気がつけば、無事に試合は始まっていた……。