……あっけない幕切れだった。まさか、ノーヒットノーランを食らうなんて思ってもみなかった。それまでの浮かれ気分が一気に吹き飛び、何杯もビールを呑んでいたのに、完全に酔いも覚めてしまった。バックスクリーンには偉業を達成したばかりの菅野智之のヒーローインタビューが映し出されている。レフトスタンドの巨人ファンはファーストステージ突破を受けて喜びを爆発させている。そんな姿を見ながら、何とも言えない寂寥感を覚えていた。ホントにあっけない終わりだった。

我々はまだ甘かったのだ、浮かれすぎていたのだ

(まだまだ浮かれてんじゃねぇよ……)

 もしも野球の神様がいるのなら、このとき神様は僕にそう告げたのだと思う。確かに今シーズン、特に夏以降は浮かれていた。いい年をして浮かれすぎていた。広島にも行き、名古屋にも足を運び、鹿児島まで遠征し、札幌でも球音を満喫した。浮かれていたから酒も進むし、ついつい財布のひもも緩み、レプリカユニフォームを何着も購入してしまった。

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 でも、同じヤクルトファンであるならば、浮かれたくなる気分もわかってもらえるはずだろう。いや、わかってもらいたい。なぜなら、僕はあなたであり、あなたは僕なのだ。「もう言うなよ」と言われることを承知の上であえて繰り返すけれども、絶望ばかりだった昨年の「96敗」を経ての今季の躍進。これで浮かれない人間がいるだろうか、いや、いるはずがない(反語表現)。

 しかし、今季最後の試合で、やはり現実は甘くないのだということを僕たちは思い知らされた。まさか、最後の最後にこんな屈辱的な敗戦を喫するとは思わなかった。菅野はやっぱりすごかった。悔しいけれど脱帽だ。ヤクルト打線は手も足も出なかった。今季チームをけん引し続けた青木宣親の欠場のためなのか、個々の選手の技術不足なのか、あるいはベンチの無策なのかはわからないけど、とにかく完膚なきまでにやられたのは事実だ。つまり、まだまだ未熟であり、発展途上のチームだということなのだ。でもそれは、裏を返せば、まだまだ伸びしろのあるチームだということでもある。

 この結果を受けて、この秋のキャンプでは宮本慎也ヘッドコーチらによる猛練習が課された。いいじゃないか、ぜひ徹底的に鍛え直してほしい。「我々はまだ甘かったのだ」と再認識してほしい。ついでに、「こんなことではカープにはずっと負けっぱなしだぞ」と噛みしめてほしい。と同時に、僕も「ちょっと勝ったぐらいで浮かれてんじゃねぇよ」と思いを新たに自戒するつもりだ。

青木の日本復帰、石川の16戦ぶり白星、由規の今季初勝利……

 いずれにしても、東京ヤクルトスワローズの2018年シーズンが幕を閉じた。昨年同様、僕は今年も全試合、スポーツ新聞のスクラップを続けてきた。球団史上ワーストとなる「96敗」を記録した2017年は、全試合終了時点でちょうどスクラップブック2冊分の分量だった。しかし今年は、シーズン全143試合に加えてクライマックスシリーズ(CS)2試合も含めて、3冊目の半分ぐらいの量となった。

2018年のスクラップ ©長谷川晶一

 今季はCS2試合分が増えたからだけではなく、2位に躍進することによって、ヤクルトに割く紙面が大きくなったのだ。そこで今回は、今年一年のヤクルトの戦いぶりを、僕のスクラップブックから見出しとともに振り返ってみたい(いずれも『日刊スポーツ』より)。

 スクラップ1冊目の1ページ目にあるのは、1月30日付の「青木 ヤクルト」の文字。キャンプイン直前のこの日、青木宣親の電撃復帰が報じられた。思えば、「96敗」からの逆襲に向けて、最大にして、最高のニュースから今年のヤクルトは始まったのだ。

 3月30日には「復帰7年ぶりの青木 日本打」と銘打たれて、7対3で勝利した開幕戦の記事が続いている。「日本打」とは、よくわからない造語だけれど、横浜スタジアムのレフトスタンドから、青木の日本復帰を見届けたことを思い出す。翌31日は、開幕2戦目にして早くも「石川16戦ぶり星」の記事。昨年は11連敗のままシーズンを終えた石川雅規が、今季初登板で見事な白星。嬉しかったなぁ。中華街で呑んだなぁ。

2018年のヤクルトは青木宣親の電撃復帰というニュースから始まった ©時事通信社

 4月6日、巨人との「TOKYOシリーズ」初戦では、あの菅野を完全攻略。「ヤッタネ!!8連敗分の菅野打ち5点!!」とある。あれから半年、まさかノーノ―を喫することになろうとは……。翌7日は期待の廣岡大志が大爆発で「広岡5の5」。それにもかかわらず、この日の試合中、凡ミスが原因で宮本ヘッドにベンチ裏で怒鳴られまくったということも忘れてはならないだろう(笑)。

 1冊目前半の山場は4月22日の「由規連敗止めた!!」だ。6回2/3を投げて先発の由規が今季初勝利。あぁ、由規……。僕はあなたの雄姿を決して忘れない。ちなみに、この試合から石山泰稚が正式にクローザーに転向。2セーブ目を挙げている。この試合以降、ルーキーの松本直樹、さらに2年目の古賀優大がプロ初スタメン。育成と勝利の両立を図ろうとする小川淳司監督の名采配が光った。