昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

特集観る将棋、読む将棋

復活する光速流 谷川浩司九段が語る羽生、藤井、「君たちは悔しくないのか」発言の真相

2018/12/30

 指先は、盤上に描かれた光の道を辿った。

 平成30年12月10日、関西将棋会館「御上段の間」、第90期棋聖戦2次予選。山崎隆之八段との斬り合いの終盤戦を迎えた谷川浩司九段は、一気の攻めに転じた。

 まだ自玉が相手の攻め駒に包囲された状態で、薄氷の勝ちを読み切った。最後は美しい詰将棋のような手順になった。代名詞「光速の寄せ」は、今も眩しさを失っていなかった。

藤井聡太七段の「憧れの存在」

 谷川浩司九段。56歳。

 1976年に14歳で史上2人目の中学生棋士になった。終盤において最速最短の手順で相手玉を寄せていく華麗なスタイルは、80年前後に全国で将棋ブームを巻き起こす起点となり、8歳下の羽生善治らの世代に棋士の夢を見させた。40もの歳が離れた藤井聡太七段さえも「小さな頃からの憧れ」と公言する。

 永久に不滅かもしれない史上最年少21歳での名人就位、タイトル通算獲得数は歴代4位の27期を誇る十七世名人資格保持者である。

 歴史の常として50歳を越えてから低迷していた男が今、再びの光を放っている。

谷川浩司九段 

斎藤さん、菅井さん、弟子と再開した研究会

―― 一昨日の山崎八段との将棋は「谷川浩司の終盤」を堪能できるファン垂涎の一局になりました。

「いえいえ。思いつきに近いような序盤を指してしまい、こちらの駒を抑え込まれて苦しい将棋になってしまったんですけど、こちらが考えていたほど差は付いていなくて、山崎さんが決め損ねたところもあって、最後は際どいところで即詰みに討ち取れる順になったのは幸運でした。うまく決まったのは最後だけです」

――「光速の寄せ」の棋士から「即詰みに討ち取る」という言葉を聞くと、ぞわぞわしてしまいます。

「あ、いやいや。でも、子供の頃から詰将棋をずっと解いたり創ったりしていますから、読み切っていなくても、これは詰みがありそうだな、という感覚的なものは今もやはりありますね。どういう勝ち方があるだろうか、といういくつかのイメージを描きながら指して。一気に寄せてしまう勝ち方、受け切ってしまう勝ち方、受けながら持ち駒を増やしていく勝ち方、何パターンかのイメージを常に持っています」

 

―― 2012年12月から17年1月までの日本将棋連盟会長職に就いた期間も含め、10年度から7年連続で黒星の先行するシーズンが続きましたが、昨年度は17勝14敗と勝ち越しに再び転じた。今年度も、伸び盛りの若手や強豪を何度も退けて18勝15敗(12月12日現在)と好調を維持しています(その後、10期ぶりの年度20勝に到達している)。何よりも「光速流」の復活を思わせる内容が光ります。

「昨年6月頃からでしょうか、納得の出来る将棋を指せるようになってきました。いろいろ理由はありますけど、研究会を再開したことが大きいように思います。昨年5月から菅井さん(菅井竜也七段、26歳。昨年度の王位戦では独創的な振り飛車戦法で羽生善治を翻弄し、初タイトルを得た)、斎藤さん(斎藤慎太郎王座、25歳。研究の深さと高い終盤力で知られ、今年度の王座戦ではフルセットの末に中村太地を破って初タイトルを獲得した)と弟子の都成(都成竜馬五段、28歳。谷川の唯一の弟子。16年、年齢制限を迎える直前に四段昇段を果たす)と指すようになりました。月1回のことですけど、現代の将棋について深く考えられる材料になっています。最新流行型について、タイプのそれぞれの違う彼らがどのように考えているのか、どのようなアイデアを持っているか知ることはすごく勉強になります」