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薬物、強盗、公開処刑! 「死体を1日1体見た」広東省から考える“もう一つの中国”

2019/02/04
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深圳の高速道路には山賊が出た!

佐近 暴力といえば、昔の会社が広州の外れの永和経済開発区という場所にありましたが、かなりヤバかったですよ。強盗とか荒っぽい犯罪者が多いから、公安(警察)がすぐにマシンガンを撃つんです。会社で仕事してると、外からタタタタタン、と乾いた音が聞こえてくる。

安田 無法地帯すぎる(笑)。90年代後半ですね。

佐近 会社の門の前に、分銅の付いた鎖を振り回しているヤバいやつがいましたからね。ずっと振り回し続けていたので、変なヤクをやっていたんだと思う。当時は薬物関連も、氷毒(メタンフェタミン)なんかが野放し状態で流通していたので、頭がおかしくなっている人が多かった。

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安田 2003年の春に、当時の中国人の彼女と乗ったタクシーの運転手がそういう人でした。「俺は追われているんだ!」とか叫んで、駐車中の他の車にボコボコぶつかりながら走りはじめて。時速140キロぐらいでタンクローリーに接近されたときは本気で死を覚悟しました。停車した折に無理矢理ドアを開けて地面に転がり出て脱出したので、もちろん目的地には着けず(笑)。

佐近 変な人、大量にいすぎて感覚がマヒしていましたよね。あと、強盗関係だと、昔は深圳から東莞に通じる高速道路の、中間地帯にあたる虎門鎮のあたりで山賊が出たんです。まだ高速道路に警察が配備されていない時代なので、市と市の中間地帯であれば、追い剥ぎをやっても警察が来る前に逃げ切れた。現在は日系企業の若い女子社員1人でも、出張で通る道路なんですが……。

2000年代前半ごろと見られる深圳の工事現場。街はまだまだ建設中だった ©AFLO

「盗まれる」「食われる」「騙し取られる」

安田 追い剥ぎといえば、ゼロ年代前半までは深圳市内のミニバス(注.現在は存在しない)のなかでも強盗が出ました。特に日暮れ後が危ない。

佐近 ああ、いました。昔の会社の同僚が身ぐるみ剥がされてパンツ一丁で放り出されましたっけ。あれ、強盗と運転手が完全にグルなんですよ。車内は密室ですから、乗客が少ないときはカモにできてしまう。

安田 そんな社会ですから、当時は地元の人が他人を一切信用していなくて「危ない」と「盗まれる」ばっかり言っていましたっけ。こちらは真偽のほどは知りませんが、女性がイヤリングをして歩いていたら耳ごとむしられる、みたいな話が当たり前のように話されていた。

佐近 ありましたね。深圳の人は「広州に行くと耳をむしられるぞ」と言っているのに、広州の人は「深圳に行くと耳をむしられるぞ」と言う。一種の都市伝説みたいな話ですが、現地の人がみんな信じるリアリティがあったんですよね。

1990年代とみられる深圳の写真。看板が繁体字なのは、当時の広東省では「先進地域」の香港へのあこがれが強かったためだ ©AFLO

安田 なかば笑い話ですが、知人が小さいときに亀を飼っていて、ある日いなくなったらしいんです。それで泣いていたら、お母さんに「きっと誰かに食べられたからあきらめなさい」と言われたみたいで。

佐近 いまでも現地の人はカエルや亀を食べますが、昔はもっと食べる人が多かったですから。2003年に感染症のSARS(重症急性呼吸器症候群)のパンデミックが起きた際、その原因として規制されましたが、それまでは「野味」(イェウェイ、各種の動物食)のレストランがたくさんあった。犬や猫どころか、ハクビシンもセンザンコウも食べていた。

安田 店の前にイケスみたいな檻があって、いたいけな子犬(注.食用)が入れられていたやつですね。ペットの犬もよく誘拐されて食われていた。とにかく、当時は自分のあらゆる所有物について「盗まれる」「食われる」「騙し取られる」の鬼畜三原則を常に警戒しなきゃいけなかった。漫☆画太郎のマンガみたいな世界です。

佐近 ひどい(笑)。でも、実際にそうだったからなあ。誇張でも何でもなく。