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聴衆に歩み寄る小泉進次郎スピーチの真骨頂は「土と緑」にあった

理想の政治家像を地方の住民と対話から作り上げていくという「物語」――ルポ参院選2019 #3

2019/07/09
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「私たちのことを言ってくれている」と感じさせる話し方

「昨日の晩、西和賀の宿に泊まりました。何に驚いたか。カエルです。私の地元は神奈川県横須賀市ですから、夜中、あんなにカエルの声を聴いたことがないんです。本当に驚いて、宿が演出のためにCDをかけたんじゃないかと思った。それだけすごかったんですよ。

 それで、朝起きて宿の外の水が溜まっているところを見たら、あのカエルのゼリー状の卵がありました。その中の一つを見たら、オタマジャクシがプルプル、プルプルと必死に飛び出そうとしていて、私は『出ろ、出ろ』と念じて、生まれて初めてポンッと出る瞬間を見た」

 小泉は本来、高尚な説明調の演説よりも、目の前にいる人々に「私たちのことを言ってくれている」と感じさせる話し方を得意とする。「物語」をつくるのがうまいのだ。彼が頭角を現すきっかけとなった東日本大震災の復興支援では、「言葉に体重と体温を乗せること」を心がけ、被災者たちの心服を得た。

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 だが、最近得意とする社会保障論を語り始めると、ネット上にはすぐに「おまいう」の突っ込みコメントが溢れ出す。華麗なる一族のイメージが邪魔し、「生活実感」に乏しく見えてしまうせいだろうか。今回の演説でも年金問題を語る際、個人の自立や選択の自由を強調するあまり、本当に困っている人たちに「私を見てくれている」と思わせる、物語づくりがうまくいっていないようにも聞こえた。

いきなり「世界」へ飛んでいった

 さらに、年金に続いて取り上げるのは、このような話題だ。

「われわれが問われているもう一つは、アメリカと中国という2つの大国に挟まれている我々の国が何を強みに生きていくかということです。アメリカ、変わってきましたね。中国、すごいですよ。人口多い。軍事力すごい。経済力、テクノロジー、キャッシュレス社会、データ管理、自動走行。一部の技術は日本を超えて最先端ですよ。ただ、いつ剥奪されるかわからない個人の自由と選択。中国みたいな世界をみなさんは望みますか」

 

 身近な話から、いきなり「世界」へ飛んでいった。

「私たちの日本は自由なことを話しても捕まることはない。政治家が皆さんの前で話をする時にさっきはエールをもらいました。私たち政治家にヤジったって、自由なんです。これが民主主義なんです」

 小泉は、「自由」と「民主」いう概念の大切さを説きながら、中国を凌ぐ日本の強みを示し、「自由」「民主」党の存在意義をアピールしたいようだったが、さすがに聴衆の反応が薄いと察したのだろう。2日目以降は、その代わりに教育政策を優先して訴えるようになった。すると、子どもを抱えた母親や若い世代の聴衆の反応が良くなった。