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聴衆に歩み寄る小泉進次郎スピーチの真骨頂は「土と緑」にあった

理想の政治家像を地方の住民と対話から作り上げていくという「物語」――ルポ参院選2019 #3

2019/07/09
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地方の至るところに改革への怨念が渦巻く

 巨大与党を代表する名弁士も、今回の参院選はチューニングに苦慮しているようだ。

 だが、過疎地に足を踏み入れると違った。

 私は小泉が農山漁村をくまなく訪ねる地道な努力から大衆的な人気を勝ち得ていくパターンを「土と緑の進次郎」の法則と勝手に呼んでいる。

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 小泉が被災地や過疎地を歩く際、私の眼にはどうしてもその背後に父・純一郎のレガシーがちらついてしまう。父は、三位一体改革や郵政改革を巡って抵抗勢力から「地方切り捨て」のレッテルを張られ、郵政選挙では彼らを容赦なく叩き潰す冷血な刺客作戦を展開した。地方の至るところには当時の怨念が今でも渦巻き、選挙があるたびに自民党内の内紛や分裂を引き起こす温床にもなっている。

 

 息子はこうした政治的荒野に積極的に飛び込み、父譲りのイメージを緑色で塗り替えつつ、土の香りで包み込む。地方の人たちに寄り添おうとする姿勢に徹することで、温かみのある独自路線を敷こうとしているのではないか。

「外から見ないとわからない良さがある」

 小泉が続ける全国行脚には、一族の借り物ではない理想の政治家像を地方の住民と対話から作り上げていくという「物語」がある。私はそう思いながら10年近くも観察してきた。

 小泉は西和賀の人々に対しても、しきりに励まそうとするワードチョイスを心がけているようだった。

「一度、自分の町を出ないとわからないことがある。外から見ないとわからない良さがある。だから、西和賀のみなさんにとって、人口減少って切迫した課題だと思います。スーパーのパートを募集しても前よりも集まらないということもあると思う。だけど、落ち込むことはない。毎年、人口が減る、減ると悔やむよりも、減るものは減る。嘆いても解決しないならば、減ることを強みに変えるほうがよっぽどプラスになると思います」

 

 私はその話を聞きながら、先ほど出会ったばかりのお菓子屋さんを思い出した。

 今回、私は密着取材の手法を改め、街から街へ最短距離を猛スピードで駆け巡る小泉の背中を追いかけることをやめてみた。その代わり、演説会の前後に自分の足で会場の周辺を歩く。在来線や高速バスも利用し、シェアカーを使った移動では一般道を走ることを心がけた。このレポートも乗り物に揺られながら書いている。