文春オンライン
「5G」は本当に使えるのか?――“国土の6割が山地”の日本における問題点

「5G」は本当に使えるのか?――“国土の6割が山地”の日本における問題点

2019/09/22
note

「IoT」は田舎にとって重要なテクノロジー

 5Gと同じぐらいに最近は「IoT」という用語も流行している。モノのインターネット(Internet of Things)の略語で、パソコンやスマホだけでなく家電や自動車、さらには道路や建物、上下水道管など現実空間のあらゆるモノをネットにつなぎ、情報を収集して制御もしていこうという概念だ。

 IoTは都市だけでなく、田舎にとっても重要なテクノロジーである。農地や農作物のコントロール、鳥獣などの監視、山火事や水害などの防災にも活用できる。今年はクマが北海道でも本州でも出没してあちこちで騒ぎになったが、このような大型動物にGPSや4G通信モジュールなどを装着できれば、位置の監視が常時可能になって、人里に降りてくるのを事前に予測できるようになる。

 そして、このような「田舎のIT」には5Gはオーバースペックすぎる。よりコストも人手もかからず、簡易なテクノロジーが使われていくのがいい。

ADVERTISEMENT

驚くほど遅いけど本当に便利な「LPWA」

 ひとつ好例を挙げると、LPWAという通信規格がある。「Low Power, Wide Area」の略で、速度は数百kbpsと驚くほどに遅い。話が古すぎて恐縮だが、1980年代のパソコン通信ぐらいなものだ。テキストが表示されるスピードより、目が文字を追うほうが速い程度だ。そのかわりLPWAは消費電力は非常に少なく、電波も遠くまで届く。

 私は数年前から、東京都あきる野市の若い猟師たちが取り組んでいる「罠シェアリング」というプロジェクトに参加している。冬の猟期になると罠の見回りに同行したり、巻狩りに参加したり、鹿や小動物を解体したりと、からりと晴れた冬の奥多摩を楽しんでいるのだが、この罠シェアがLPWAを使った罠のIoTを導入している。フォレストシーという東京のベンチャーが開発した「オリワナ」という製品で、罠に小型の子機を装着し、罠が作動して獣がかかると、LPWAで親機と通信。親機はインターネットにつながっているので、利用者に「罠が作動しました!」というメールが届くようになっている。

 私のところにも冬になるとこのメールがひんぱんに届いて、都心のオフィス街にいる時でも奥多摩の厳しい寒さの山中にいるような気分に浸ることができる。ちなみにメールを受け取って罠を確認に行ってくれるのは、地元に住んでいる猟師たち。毎朝毎夕のように罠を見回らなくても、罠の作動を待ち受けできるので本当に便利なのである。

 ちなみにこのLPWA通信は、見通せる場所なら電波の最大到達距離は200キロ。通信ごとの料金はかからず、免許も要らない。免許はハガキ1枚を送るだけの登録制(年間450円の電波使用料は必要)だ。