「5G」というITの用語をひんぱんに聞くようになってきた。いまのスマートフォンの通信に使われている4Gの次の規格で、東京五輪のある来年には日本でも使えるようになる。超高速で大容量で、たくさんの機器を同時に接続でき、通信の遅れもごくわずか。5Gがやってくれば映画や音楽が変わり、VRなどの娯楽も本格的に楽しめるようになり、と盛んに宣伝されている。
旗振り役の総務省に至っては、「2020年の5G実現に向けた取組」という文書で、地域活性化や地方創生、さらには労働人口の減少や労働生産性の向上にまで役立つと謳っている。少子高齢化と生産性の低さで国際競争力を失いつつある日本にとってはまるで救世主のように見えるが、本当にそうなのだろうか?
救世主「5G」の大きな問題とは?
実は5Gには、大きな問題がひとつある。ミリ波(28GHz)という高い周波数帯を使っていることだ。ミリ波はたしかに超高速で通信できるけれども、届く距離が短い。おまけに直進性が強くて建物の壁や雨などに遮へいされてしまうと、回り込めない。だからコンクリートの建物などに入ると電波が届きにくくなってしまう。
これを乗り越えるためには、いまの4Gの基地局よりもずっときめ細かく、無数といっていいほどにたくさんの5G基地局を設置しないといけない。これを全国に展開するのはそう簡単ではないので、NTTドコモなどの携帯キャリアは、現行の4Gの基地局網につなぐかたちで新しい近距離の5G網を重ねる「スモールセル」と呼ばれる小型基地局を導入しようとしている。しかしいずれにしても、新たなアンテナの設置がたくさん必要になってくる。
そうなるともっと大きな問題が見えてくる。それは、5Gは人口の集中している都市でしか使えないという現実だ。通信の遅延がほとんどない5Gは自動運転車のコントロールに有効だが、田舎道に入ると使えなくなってしまう。ドローンのコントロールにも使えるけれど、5Gが使える都市部はドローン規制が多く、規制の少ない田園地帯では5Gが使えないという笑えない話になる。5Gで高精細のテレビ会議が行えるようになるけれど、移住した先の田舎からは残念ながら参加できない。
国土の6割が山地の日本で「5G」は使えるのか
思い出してほしい。日本は国土の6割が山地で、標高500メートル以上の場所が国土の27%も占めている。脊梁山脈と呼ばれる背骨のような山地が、日本列島を貫いているからだ。そしてここには広大な森林がある。森林は日本の国土の66%にも達している。山地と森林は古来から豊かな山の暮らしをつくり、すばらしい景観や風土は観光コンテンツの可能性をはらんでいる。最近は若者を中心に移住熱が高まり、昨年の国土交通白書では三大都市圏に住む20代の4人に1人が地方移住に関心を持っているという驚くべき調査結果もあった。
もちろん都市での先端的なテクノロジーを追い求めることは大切である。しかし一方で、都市部ではない中山間地域や田園地帯などでどのようなテクノロジーが現実的なのかということも、同時に考えるべきである。人口が減っていき、山あいの限界集落が消滅していく日本で、中山間地域に5G網を張りめぐらせるというのは現実的ではない。
そもそも現行の4G網や光ファイバー網の維持だって怪しくなっていく。1970年代に構築された橋や道路、送電線などの公共インフラの老朽化が深刻になっているけれども、情報通信のインフラも例外ではないのだ。