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つい「バズワード」に目を奪われがちだが……

 フォレストシー代表の時田義明さんによると、今秋には登山者や林業、猟師など山仕事の人が携帯できる小型の機器も発売するという。GeoChat(ジオチャット)と名付けられたこれはスマホとBluetoothで接続でき、専用アプリを使ってテキストメッセージを送り合ったり、緊急通報などもできる。利用者同士で通信するだけでなく、電力会社の送電鉄塔や山小屋など山間部のあちこちに設置した親機を経由すれば、インターネットにつなぐこともできるようになる。登山中はスマホの電波が届かないことが多いが、LPWAなら実用的にネットにつなぐことが可能になるかもしれない。遭難した時でも、助けてもらえる可能性がひとつ増えるのだ。

 IoTという概念は、人間の身体をネットにつなぐことまでカバーしている。たとえば心拍や体温を測ることのできる手首型のウェアラブル機器も、IoTのひとつである。中山間地域の仕事場は危険な場所が多い。林業やダム建築現場では常に怪我の危険があるし、山菜採りをしていてクマと鉢合わせすることもある。ウェアラブル機器でつねに身体の状況を遠隔から監視できるようになれば、作業の人の安全確保がより確実にできるようになるのではないだろうか。たとえば都市部にいる管理者が、現地での作業要員の身体データを見て、よくないサインがあれば「鉄塔から降りて」「作業やめて」と通知するような仕組みも考えられる。

 

 日本の山や森をIoTでカバーしていき、インターネット経由でさまざまなコントロールを行っていくことには、大いなる可能性がある。ITの分野はとかくバズワード(人目を引きやすいキャッチフレーズや流行語)が注目されがちで、昔からWeb2.0やロングテールやクラウドやゲーミフィケーションやいろいろあった。最近だとブロックチェーンやフィンテック、AIなんかが典型的だし、この原稿で書いているIoTや5Gもそうだ。

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 しかし現在のITというのは、ひとつのバズワードを追いかけていればすむほど単純ではない。さまざまなテクノロジーや機器、デザインがからみあって大きな空間を包括的に作り上げているというイメージで捉えたほうが良い。IoTも5GもブロックチェーンもAIも音声認識も単体で存在できるテクノロジーではなく、相互補完的にもたれあって、この世界を高度に抽象的な概念で包み込もうとしている。

 そのように理解できれば、5G単体で世界が変わるわけでもないし、IoTと叫んでいればネットに単純につながってくれるわけでもないということがわかる。日本の都市や郊外や、そして森や山や農村や漁村をデジタルでくるんでいくためには、バズワードではなくより大きな概念でITを認識していくことが大事なのだ。

写真提供:フォレストシー