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女性が恋愛市場から仕事市場にうつるとき

『男ともだち』の千早茜×『ワンダフルワールドエンド』の松居大悟による恋愛トーク(2)

(1)より続く

 いまの女性の心理をうまく描いて人気の2人によるトーク第2回。『男ともだち』著者・千早茜さんが、『アズミ・ハルコは行方不明』監督の松居大悟さんと、30歳目前の恋愛心理を、それぞれの体験と重ねて本音で語る。

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「物語がない」人にこそ惹かれる

 

千早 松居さんは作中人物に感情移入して読まれるタイプなんですか?

松居 感情移入しない作品もありますけどね。描く価値がいくらでもありそうな人の物語は感情移入しない。それよりも、物語なんてないだろうと言われてしまう人の感情の起伏とか物語があったりすると、その人のことを知りたいと思って、その人の目線になりますね。

千早 『アズミ・ハルコは行方不明』を撮る時はどうでしたか?

松居 女性というものがわからないからこそ、興味が出ましたね。それまでは、わからないから蓋をしていて。女性を、主人公の男性の世界を肯定するための装置にしかできていなかったんですけど。クリープハイプのミュージックビデオを撮ったりするなかで、ちゃんと向き合うしかなくなって。撮影を通して、関わる人の話を聞いたりして、命が吹き込まれていくことが面白かったです。

千早 すごく自覚的なんですね。私は男たちをボコボコにしていく少女ギャング団にめちゃくちゃスッキリしました。入団したいです(笑)。あれを男性が描くのは、すごいなと思いました。

選ばれる側から選ぶ側へ

『男ともだち』(千早 茜 著)

千早 私は『アズミ・ハルコは行方不明』は、ハルコを捨てる曽我にわりと共感していたんですよ。

松居 曽我目線で?

千早 だって自分の人生もままならない時期に他人を背負えないですよ。29歳のときの私がそうでしたから。ハルコはあわよくば乗っかってやろうという感じがするんですよ。あと、ハルコもそうでしたけど、女性はある年齢にさしかかると一瞬で選ばれる側にまわっちゃうでしょう。ハルコはそんなに曽我のことが好きじゃなさそうなのにすがるのは、選ばれなかった悲しみと悔しさからなんですよね。でも、好きでもないものにすがるくらいなら、選ぶ側にまわればいいのにと思う。

 私は恋愛市場で選ばれる側の人間じゃなかったから、仕事市場に移ったんですよ。神名もそうです。ハルコも転職すればいいのに(笑)。

松居 神名はそれでよかったけど、ハルコはどうすればよかったんでしょう。

千早 だから、やっぱり失踪でいいと思う(笑)。煮詰まっている状況を、いったん全部リセットしてしまう。失踪まではしなくとも、海外に行ったり資格をとったり、30前後で方向転換する女性は私のまわりにもいました。価値観を見直す時期なんだと思います。

 でも、いまは年取ったから、他人に選ばれなくても選ばれても、自分そのものは変わらないんだと思えますけれど。

松居 そういう自信が持てたらいいですよね。

『男ともだち』
29歳のイラストレーター神名葵は関係の冷めた恋人・彰人と同棲をしながらも、身勝手な愛人・真司との逢瀬を重ねていた。仕事は順調だが、ほんとうに描きたかったことを見失っているところに、大学の先輩だったハセオから電話がかかる。7年ぶりの彼との再会で、停滞していた神名の生活に変化が訪れる――。
 

『アズミ・ハルコは行方不明』
とある地方都市に住む27歳の安曇春子(蒼井優)。独身で恋人もいない春子は、実家で両親と祖母と一緒に暮らしている。老齢の祖母を介護する母のストレスが充満する実家は決して居心地のいいものではなく、会社に行けば社長と専務に「女は若いうちに結婚するべきだ」とセクハラ三昧の言葉を浴びせられる日々。春子はふと自分の年齢を実感する。まだ27歳ではなく、もう27歳。若くはないということに……。